私小説「ビー・クリエイション! 」第一部 -3 「ムーブ」
第三話 「ムーブ」
休み時間。
みんなが知っている、あのキャラクターたちを熱心に描いていたら、お調子者のクラスメートがやってきた。
「なに描いてんの?」
そう言って、おもむろに手元を覗き込んだ。
「すんげぇ!!なにこれぇ、手書き?印刷みたい!」
目の前で急に大騒ぎをし始めた。
「なになになになに」
「どしたのー?」
あっという間に、七、八人の人だかりになった。
私は思わぬ注目を浴び、全身がピキーンと硬直した。
「すごい、うますぎ!」
素直な賞賛に、胸を打たれた。
嬉しくて、恥ずかしくて、黙り込んでいたけれど。
ふと、あることを思い出した。
……た、たいへんだ!
慌ててノートを隠そうと手を伸ばした。
──ところが。
「うおっ! よぅく見ると、こっちのノートも、
なーんか違うぞ!!」
……遅かった。
クラスメートの視線の先には、私のジャポニカ学習帳があった。
よく見ると、表紙のパンダの黒い部分の“黒味”が、ほんのり違っている。
実は、そのパンダには、黒いマジックで、
もともとの黒の上から、さらに私が色を
重ねていたのだ。
本当に、ささやかな違いだ。
間違い探しのようなその差に、クラスメートは
すぐに気づいてしまった。
「なんで? なんで?」
一気に、辺りはお祭り騒ぎになる。
私は顔を真っ赤にして、反射的に俯いた。
うわぁ……。
せっかく褒めてもらえたのに、このノートのせいで
変な人だと思われたかもしれない。
見つかったら、そう思われるだろうことは分かってはいた。それでも、やりたくなってしまったのだ。
だって、わざわざ私のノートを、誰かが覗き込むなんて思わなかったから。
それでも。
恐る恐る顔を上げると、そこには、
キラキラと目を輝かせたクラスメートたちがいた。
──大丈夫だった。
ホッと胸を撫で下ろし、ようやく笑うことができた。
やっと、私も彼らの輪の中に入れたのかもしれないと思った。
「これ、欲しい」
最初に声をかけてきた男の子が、キャラクターの
絵を見て、ぽつりと言った。
それは、時間をかけて描いたもので、私のお気に入りの一枚だった。
それでも、認めてもらえたことが嬉しくて、
私は気軽に「いいよ」と言って、手渡した。
これが、「最初の一枚」になった。
✳︎
「私も欲しい」
「オレも!」
単色のキャラクターは、あっという間に人気になり、みるみる人だかりができた。
「分かった。順番でもいいかな?」
そう聞いてみたら、クラスメートたちは黙って
列を作った。
一枚描くのに、結構時間がかかるのだ。
そこで、描いてほしいキャラクターと、名前を
ひかえてもらうことにした。
パンダのノートは、即席の名簿になった。
それから、私は毎日キャラクターを描き続けた。
1日に5件から8件ほどのハイペースで依頼を消化して
いったが、それでも常に待ちが出ていた。
休み時間は誰かが入れ替わり立ち替わり見学に
訪れては、ノートに名前を書いていった。
時間が足りなくて、授業中も、こっそりと絵を
書いた。もともと、授業なんて一度もまともに
聞いたことがない。私にとって授業の時間は、
義務として課せられている板書を一定時間ごとに
無心で写す作業だった。
ゆえに、ほぼ全ての時間を、お絵描きに
費やしていた。
学校ではあまり集中できなかったので、家で描く
ことも多かった。
折しもその頃、教育熱心な父は仕事で北米に行っていた。
私の活動にいっさい干渉しない母だけが家にいた
ので、私はのびのびと創作に励むことができた。
そのキャラクターの人気は社会現象になっていた
ので、私の作品もすぐに人気を獲得した。
とうとう隣のクラスからも依頼が来るようになり、
やがて、別の学年の子どもたちからも声がかかる
ようになったのだ──。
✳︎
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