私小説「ビー・クリエイション! 」第一部 -2 「単色見取り図」
第二話 「単色見取り図」
小学4年生に進級した。
新しい年度の始まりは、どうしても胸の奥がきゅっとなる。
休み時間が来る度、私はトイレに行くフリをして教室を出た。目的地はない。
ただ、教室のざわざわから離れたかっただけだ。
今日も、集団から逃げるようにして、廊下に出ると、壁一面に貼られたクラスメートの絵が目に止まった。
これは一週間ほど前の写生だ。
タイトルは「校舎」。
あの日の空は、雲ひとつなく、眩しいくらいに青かった。
けれど、並んだ絵を見渡すと、空の青はひとつとして同じではなかった。
まったく同じ空を見て、まったく同じ画材を使っていたのに、不思議だった。
誰かにとっての空の青は、別の誰かにとっては、同じ青ではないのだ。
人は、ひとりひとり、「感じている色」の世界が違うのかもしれない。
「世界の色は、見る人の心で決まるのかな。」
小さな声でつぶやいてみたけれど、その声に気づいて足を止める者はいない。
──ただの、変わった子の独り言だった。
花の色や空の色、世界の色について語り合える仲間がほしかった。けれど、そんな友だちは一人も出来なかった。そもそも、どうやってそんな友だちを作ればよいのか、見当もつかなかった。
私は、ちらりと自分の絵に目を向けた。
──私の空は、ほかの誰よりも、圧倒的に白かった。
空を、どこまでも柔らかく表そうとしたら、白になってしまったのだ。
けれど、その白をじっと見つめていると、私の心の中にある青が、少しずつ浮かび上がってくる気がした。
ふと、電流のような閃きが走った。
色を全て単色──モノトーンに置き換えてみたらどうだろうか?
そうすれば、見る人は、心の中で「自分だけの空の青」を見られるかもしれない。
私は、胸の奥が、ほんのり温かくなるのを感じた。
それから私は教室の隅っこで、鉛筆一本で、あらゆる色彩を表現しようと試みた。
まず、絵の具の箱の色を見ながら青の「色」を研究する。どう表現すれば、このモノクロが絵の具の箱と同等の青に見えるのか、ひたすら「青らしい」濃淡を探った。
モノトーンの青ができると、今度はそれを基準として、他の色の作成にも挑戦した。
黄色は青よりもうんと薄く。
紫は青よりも少しだけ濃く。
そうやって色の見取り図を単色で描いていった。
一通り納得のいく単色の見取り図がそろうと、今度はそれだけでは飽き足らなくなった。
そうだ。
今、みんなが知っている、あのキャラクターたちを描いてみよう。
色は、ぜんぶ単色で。
あのキャラクターは、100種類を超えている。
すごく大変そうだけれど、だからこそ、やってみたくなった。
──思いついたら、即実行だ。
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前回のおはなし⇩
第1話「夜の色」
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