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ビー・クリエイション! │ 第三部 -2「居場所」

第二話   『居場所』


校内でのイジメは、最初はイジメと呼べないほど、小さく緩やかに始まった。わたしが話し出せば、誰かが笑う。ただ、それだけだった。

それでも、教室の中で、ドッと笑い声が上がるたびに、いつしか冷たい汗が全身から噴き出すようになった。それは、中学に進んでも変わらなかった。
そして、徐々にイジメの方も、激しさを増していった。

しかし、他ならぬわたし自身が、人と関わることを諦めている限り、そこから逃れることなど、できなかったのだ。
わたしには、それが痛いほど分かっていた。



✳︎


「か、鏡。鏡……いつもの」

休み時間のたびに、トイレに向かう。
自分の姿が気になって仕方がない。

わたしは、決まったトイレの決まった鏡でないと、自分の姿を直視できない。手前から3番目。明かりをつけて、同じ光、同じ角度で、顔を見る。

ああ!
今日も、わたし……誰よりも醜い!
クラスメイトの誰よりも!
世の中の誰よりも、醜い!

父さんが言っていた。
……汚い、近づくなって。
ニキビが顔にたくさん出来たせいだ。

ポケットから、薬を出して顔に塗っていく。

犬や猫が飼ってもらえるのは、可愛いからだって言っていた。ペットは、可愛くないと存在価値がないのだって。女の子も「そういうもの」なんだって。

「不細工すぎる……」

トイレの鏡に映る自分に吐き捨てた。
以前、笑っているだけでも違うから、笑っていなさいと母さんに言われたんだった。
なのに、笑えない。

これでは、イジメられても仕方がない……。






✳︎





しけった紙とプラスチックの匂いが、染みついた美術室。開け放たれた窓の向こうでは、白い雲が崩れたソフトクリームのように、空にほどけている。

「かわいー!」

その一角で、突然、歓声が上がった。
ヘアバンドでショートカットを押さえつけた本庄先輩が、唇を前に突き出したまま、誰かに顔を預けている。

机の上にガニ股で座った膝上のスカートの隙間からは、白い太ももがすらりと伸びていた。

「このリップ似合ってる!」

筆を持った伊住先輩が、楽しそうに笑い、赤いジャージの袖口を捲り上げた。



──ガララッ。

開かれる扉の音に、弛緩した美術室の空気が一気に張り詰めた。

「雅彦!!おめぇ、また伊住のところにいたのかよ!」

竹刀を片手に持ったジャージ姿の先生が、扉を押さえながら叫んだ。

「センセェ〜、どうですかぁ? 可愛いでしょ?」

本庄雅彦先輩は唇をまっすぐ突き出して、見て見てと先生にアピールする。

「その前にズボン履け。 そのスカート、伊住のだろ。返せ!」

竹刀が机を軽く叩く。コン、コン、と乾いた音が、教室に響いた。

「先生ぇ、それ指し棒じゃないんスから。今どき竹刀って、体罰っスよ」

「伊住ぃ!」

「それに似合ってれば、よくないっスか?」

先生は一瞬呼吸を止め、本庄先輩をチラリと見た。
本庄先輩は両手をほおに当て、先生に満面の笑みを送った。
先生は、伊住先輩に視線を戻して、深く、ため息をついた。

「……ルールなんだ。頼むから。男子がスカート履くのはやめてくれ。みっともないから。伊住も制服を着なさい。……桜井も、その格好……ん?なんだ?お前!昭和のスケバンかよ。どうせならもっと短くしろよぉ、ギャルのほうがマシだぞ」

ガタン、と椅子が跳ねる。
長いスカートを翻して、桜井先輩が立ち上がった。

「先生、それ以上言うと——」

桜井先輩が三白眼で、先生を真正面から睨みつけた。100kgを超える巨漢の桜井先輩が立ち上がると、まるで壁のようだ。

「やばいっすよ、先生。桜井、キレるとほんと手ぇ負えないんで」

先生が、顔をこわばらせながら、一歩身を引いた。

「桜井、やめとこって」

伊住先輩が、桜井先輩の肩に手を置くが、その手はわずかに強張っていた。






それを見て舌打ちをしたのが、ポニーテールにメガネをかけた理知的な顔立ちの早坂先輩だった。

「なんで、美術部が不良の掃きだめになってるの。吹奏楽部からも押し付けられたんでしょ。ねぇ、アズ。」

薄い色素のゆるいウェーブのかかった髪を揺らして、東堂梓先輩が振り返った。

「伊住たちの管理を押し付けるなんて、先生も酷い。先生たちは何でもアズに押し付けるんだから」

東堂先輩は困ったように微笑んだ。
それから立ち上がり、ため息をひとつつくと、美術部の先生に呼ばれて、慌ただしく美術室を出て行った。

わたしは窓から空を眺めた。高台のさらにその最上階に美術室はあるから、窓一面に空が映るのだ。
ここにいる時だけは、少し呼吸が楽になるような気がした。

ふと窓から視線を外すと、伊住先輩が満面の笑みで手招きをしている。首を傾げながら近づいていくと、口に飴を放り込まれた。

びっくりして「美味しいです」と答えると、
「一年生は可愛いなぁ」と、伊住先輩はニコニコ笑った。






✳︎
次回のお話



前回のお話

父を描いた物語(R指定ではありません)

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