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ビー・クリエイション! │ 第三部 -3「空っぽ」

第三話   『空っぽ』


「行くぞ!」

「せんせぇー、いやあああん!!
もおおー!!!!!」

竹刀を握った先生に連れられ、スカート姿のまま雅彦先輩が廊下の向こうへ消えていく。
抗議の声だけが、いつまでも廊下に反響していた。

「やっと静かになった。二度と来なければいいのに」

眼鏡を指でぐいと押し上げながら、早坂先輩は呟いた。

わたしは席に戻り、筆に絵の具を含ませた。
今描いているのは、選挙のポスターだ。


部長の東堂先輩が、描きかけのポスターを片手に美術室に戻ってきた。
目が真っ赤だ。

早坂先輩が、心配そうに駆け寄る。

「どうだった? アズ……」

けれど、東堂先輩は答えない。
俯いたまま、ポスターを水にさらしはじめた。

色鮮やかなアクリル絵の具が、にじみ、ほどけ、濁った色水となって、排水溝へ流れていく。

ざあざあと、水の流れる音だけが大きく響いた。



先生は、生徒を叱らない。
ただ、「絵の訂正」を指示するだけだ。



それでも。
東堂先輩のように、その指示に落ち込み、
泣く生徒は後を絶たなかった。

「先生の言うとおり」に描けばいい。
それだけのことなのに。


一方。
わたしには、それができた。
描きたいものが、ないから。

だから、先生に言われたとおりに、
線を引き、色を置いた。
そうすれば、難無くポスターは完成するのだ。


東堂先輩は、まだ俯いている。


わたしは、自分のポスターに目を落とした。

無機質で、無個性。
間違いがない。
きれいに整っている。



筆を持つ手が、ぴたりと止まった。


本当は──


あの濁った色水に、わたしは憧れている。



わたしの絵は、空っぽなのだ。



間違いがないもの、整ったものだけで描こうとすると、どうしてこうも空っぽになるのだろう。


──つまらなくなるのだろう。




✳︎
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