ビー・クリエイション! │ 第三部 -4「はみ出した者たち」
第四話 『はみ出した者たち』
「うえええええん!!」
本庄先輩が泣きながら戻ってきた。
きちんと制服のズボンを履いている。
伊住先輩が、よしよしと
子どもをあやすように頭を撫でた。
「気分転換に、カラオケ行こう!」
カラオケ、という言葉に、
わたしは思わず顔を上げた。
中学生だけで、カラオケ。
それは、わたしにとって
ほとんど大人の領域だった。
気づけば足が勝手に先輩の方へ。
「どうした?つばさ」
「あの……話が、気になって……」
伊住先輩は吹き出した。
「一緒に行く?」
嬉しい。嬉しい。でも……。
「でも、お金……」
「いいって。後輩にはおごるから」
✳︎
数人で連れ立ち、知らない道を歩く。
やがて、古びたコンテナがいくつも並ぶ場所に出た。
それぞれのコンテナには扉がついている。
とても小さく見えるが、この中で歌うらしい。
プレハブ小屋のような受付で手続きを済ませ、
一つのコンテナの扉を押し開けた。
中に入ると、わたしは思わず歓声を上げた。
外から見た印象よりも、ずっと広かったのだ。
機材はもちろん、テーブルや大きなソファーまであった。
伊住先輩は、カラオケで演歌ばかり歌った。
強いビブラートを伸びやかに響かせる姿が渋くて格好良い。
「津軽海峡冬景色……サビだけ分かります」
「一緒に歌おう」
本庄先輩と桜井先輩は、キラキラのJ-POPを歌った。本庄先輩の可愛らしい振り付けと、桜井先輩の厚い胸板から発せられる美声で、場は大いに盛り上がった。
私はその日の出来事を父に話した。
ところが、口を開いてすぐに、父は顔を曇らせた。
「その先輩の家は、おそらく極道だ。」
低い声だった。
「関わるのは、やめなさい。
発砲事件があった……きっと、そこの」
その瞬間、世界から色が抜け落ちた。
「本当に、つばさは」
父が、わたしの目を覗き込む。
「いつも、危なっかしすぎる」
その言葉が、冷たい指先に形を変えて、
わたしの心に触れてくる。
「誰でも受け入れるな。
それは美徳じゃない。弱点だ」
冷たい手のひらに、心臓を握り込まれる。
「そのまま社会に出たら、
骨の髄までしゃぶられるぞ」
言葉が、深く突き刺さる。
「好奇心を抑えなさい。
悪いものほど、魅力的に見えるもんなんだ」
そして、
小さく息を吐いた。
「……結局、体験しないと分からないのか」
父は、急に何かを憎むような表情になった。
「俺は、過保護すぎるのかもしれないな。子育てされたことがないから、そのあたりが分からないんだ。でもな、社会に出て──お前が死んじまったら、元も子もないだろ」
その言葉だけが、胸に静かに落ちた。
✳︎
結局、在学中に
伊住先輩たちが作品を制作している姿を、
わたしは一度も見ることはなかった。
机に腰掛け、足を組み、化粧をして、
ただ、しゃべっているだけだった。
美術部なのに、
絵を描いていなかった。
それでも——
先輩たちの存在は、わたしには必要だった。
はみ出したまま、ずっとそこにいてほしかった。
それだけで、わたし自身も、
今の姿のままで、学校にいていいと思えた。
けれど、時間は容赦がない。
彼らは卒業し。
わたしは一人、進級する。
✳︎
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