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『カチューシャとおむすびの共通点:USJ出身者が挑む、地方で勝つための「里山コト消費マーケティング」』④

第4話:具体的な演出とヒットの瞬間

※この記事は、50歳でUSJの物販・飲食ビジネスの責任にある立場から「道の駅」の副業へ飛び込み、大ヒット「のせむすび」を生み出した挑戦記(第4話)です。

第3話:マーケティング理論の核心↓



【導入:米ビジネスの盲点】
「結びたてのおむすび」という、コト消費のコンセプトは決まりました。
実はそれまでも、道の駅では「その場でお米を精米して販売する」ことは行っており、現場としては「お米へのアプローチはすでにやり尽くした」という空気がありました。しかし、「生の米(モノ)」を売ることと、その場で「結びたてを食べる体験(コト)」を売ることは、全く別次元のビジネスです。

【主戦場の選定:感覚ではなくデータで語る】

では、どこで、どうやって販売するか。

私の目に留まったのは、道の駅の入口に面した場所にある、ソフトクリームを販売している小さなプレハブ小屋でした。現場のスタッフからは「あそこはよく売れている優秀な売場だ」という評価を得ていた場所です。

しかし、私はプロデューサーとして、感覚ではなく客観的な「データ」を求めました。

売上データを詳細に分析してみると、驚くべき事実が見えてきます。

確かに売れている瞬間はあるものの、季節や時間による売上のバラつきが非常に激しかったのです。

  • 夏場や天気の良い日の昼間:爆発的に売れる

  • 冬場、夕方、雨の日:ガクンと売上が落ち込む

ソフトクリームという「冷たいスイーツ」を扱っている以上、それは当然の結果でした。

「ここを、季節や時間を問わず、オールマイティーに稼げる『おむすびハウス』に生まれ変わらせよう」

これが、私がプロデューサーとしての目に見える成果を示し、道の駅の客単価を跳ね上げるための、最高の主戦場になると結論づけました。

「レストランからゲストが流れて客単価が落ちるのでは?」という指摘もありましたが、私に迷いはありません。行列を待てずに離脱する人の需要を取り込めば、結果的に道の駅全体の客単価はあがるという確信がありました。

【テーマパーク流・演出視覚戦略】

そこからは、寝食を忘れるほどの熟考を重ね、店舗の「見せ方」をデザインしていきました。USJで培った、ゲストの視線を釘付けにし、感情を動かすための演出戦略です。特にこだわったのは、徹底的な「LIVE感(ライブ感)」の演出でした。

  1. 外観の刷新:プレハブの安っぽさを消すため、地元のブランド木材「能勢材」を贅沢に使用

  2. オープンキッチン:カウンターをあえて低く設計し、湯気が立ち上り、職人がおむすびを結ぶ手元をダイレクトに魅せる

「今、自分のために作ってくれている」という臨場感こそが、パークでいう列に並んでいる時のワクワク感と同じ役割を果たすと考えたのです。

さらに、視覚的なストーリーを補強しました。

  • 駐車場からも一目で伝わる「のせむすびのタペストリー」の配置

  • カウンター側に大きく張り出した、「生産者の方々の笑顔の写真」

お米農家さんの日焼けした笑顔が、圧倒的な「安心感」と「里山感」を引き出します。メニューもわかりやすく5~6種類に厳選し、ひとつの完璧な「里山の世界観」を完成させました。

結果的に、この店の前で購入したおむすびを撮影した「SNS投稿」が急増。多くのゲストが訪れる強力な動機へと繋がっていったのです。

【あえて「しゃけ」を捨てる決断】

そして、最も重要な「具材」の選定です。

ビジネスのセオリーで言えば、おにぎりの人気具材である「しゃけ」や「いくら」を置くのが一番手堅いかもしれません。しかし、私は現場の方と考え抜き、あえてそれらを一切排除しました。

こだわったのは、徹底的な「能勢産の惣菜」です。

  • 能勢の職人が作った手作りの味噌

  • 能勢の大地で育った青唐辛子

わざわざ1時間かけて能勢にやってきたゲストが、一口食べた瞬間に「これぞ能勢の味だ」と感動できる体験をデザインしたのです。


ソフトクリームをメインで販売していたプレハブ


おむすびハウスに改装後のプレハブ

【ロゴに込めた地域の誇り】

最後に、このプロジェクトに命を吹き込む「ロゴ」と「キャッチコピー」の開発にチームで着手しました。

デザインしたのは、美しい稲穂がそのままおむすびの形になった、シンプルでありながらストーリーの伝わるロゴマーク。

そして、文字の「字体(フォント)」には、深いこだわりを込めました。能勢町の伝統芸能であり、国の重要無形民俗文化財でもある「能勢人形浄瑠璃」の台本(義太夫節の正本)に使われている独特の力強い筆跡を模したフォントを採用したのです。

  • 店舗名:「おむすびハウス」

  • キャッチコピー:「のせむすび」

  • メッセージ:「あなたとのせをむすびたい」

これらが一体となったとき、単なるプレハブ小屋は、能勢町の文化と誇りを背負った「地域の発信基地」へと変貌を遂げました。


ロゴがいろいろなシーンで展開

【理想と現場の「ラフランスののぼり」】

「おむすびハウス」のコンセプトは完璧に見えた。しかし、現場のスタッフから猛反発が起きます。

「今売れているソフトクリームを引っ込めるなんてとんでもない」

テーマパーク流の洗練された世界観を作りたい私と、目先の売上を守りたい現場。私は自分の理想を押し付けるのをやめ、彼らの声を聴き、あえて「おむすびとソフトクリームの併売」という泥臭い妥協を選択しました。

完成した能勢材の美しいプレハブの横に、蛍光色の「ラフランス」ののぼりがパタパタとはためいた。
正直、テーマパークの基準で言えば「世界観の崩壊」であり、不合格だ。

しかし、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、その泥臭い妥協の景色を見たとき、「ああ、私は今、洗練されたテーマパークではなく、生きている地方の現場のスタートラインに立ったんだ」という、妙な高揚感が身体を包んでいた。

これこそが、マニュアル通りにいかない「ローカルマーケティング」の本当の面白さだったのだ。

オープン初日、結果はおむすびが40分待ちの大行列。

私たちが提供したのは、ただのお腹を満たすお弁当ではありません。「能勢の美しい大自然と同化するための体験(コト消費)」のスイッチです。
その狙いは、見事なまでに的中しました。プレハブ小屋の前には、またたく間に信じられないほどの長い行列ができていたのです。

ソフトクリームを買いに来たお客様も巻き込んで大混雑したことで、半年後、現場のスタッフ自らがこう提案してくれました。

「これ、もう一軒お店を分けて独立させませんか?」

こうして生まれたのが「のせむすび茶屋」です。
現場が自ら動き出した瞬間、道の駅は本当のテーマパークになりました。

【第4話のまとめ:第3の柱の誕生】

地域というわかりやすいテーマをいかに打ち出し、体験していただくかということが、凝縮された場所ができました。結果は大成功です。

シーズンや時間帯によって偏りが出る「農産物」、座席数の制限がある「レストラン」に続く、「第3の地域を代表する場所・商品」ができた瞬間でした。

のせむすび茶屋についても、地域の農産物からつくったスムージーや「ししマン」といった名産を作り出し、エントランス一体がまさに能勢を感じられるテーマパークのような空間に生まれ変わりました。

マガジンにまとめましたので、よろしくお願いします。

(第5話へ続く)


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