世界の裂け目が開く時 ー第11話 認めたかっただけ【創作大賞2026】|ファンタジー部門
前回の話はこちらから
俺は神崎悠真。現総理大臣。
妻に先立たれ、娘に出ていかれた男だ。
何度も何度も妻を迎え入れた。毎日が最高の日々だった。そして二人目が欲しいと——そう言った翌日。
旅立った。
俺を置いて。
そして俺は、その時から壊れていったように思える。
意識が暴走した。娘に妻を重ね、気付けば昼が終わり、気付けば夜。
そして——俺は、愛する娘を殺そうとしていた。
俺はその事を、友人のデイヴィットに話した。
「もしもし、デイヴィット。いいか」
「勿論。愛する日本を統べる者よ、どうしたんだい」
「……娘に、出て行かれた」
「そうか」
真面目そうなデイヴィットは——こう告げた。
「なら壊れちまえばいいんじゃないか」
「……どういう事だ」
「気づかないのか?」
デイヴィットは、淡々と言った。
「お前は——失った者のでかさに、溺れ死にかけていることに」
そして同時に——催眠のようなノイズが、聞こえた。
「お前には才能がある」
「血に飢えた獣として——人類を、滅ぼすがな」
「……何故だ。俺にそんな才能は——」
「いや、あるさ。お前は総理大臣ではない」
「死者の国の王。ただ——それだけさ」
……そして俺の意識は、蝕まれていく。
俺じゃない、・・・何かに。
俺は確かに——娘を、殺しかけた。
だが。
内心は、戦いたくもない。殺したくもない。
ただ——認めてほしかっただけだ。
妻がいない自分を。
それだけだったのに——俺はそれを、認めなかった。
認めないからこそ、溺れていたのだと。
意識が消えかける——その直前で、・・・自覚した。
あの髑髏は、だるかった。
単純に暴れまわるだけでなく、建物を吸い寄せ投げてくる。城に当たってもルーミャの機転で護られていた。
それは即ち——彼女も力が増しているんじゃないかと思うこともあった。
歪みが大きくなるほど、力が増す。俺と同じだ。
龍に乗り、天守閣まで上がると——
結界に閉じ込められている悠真と、格子からふっ飛ばされるエロ狸が、そこにいた。
麒麟は——諦めた表情で、そこに立っていた。
そして一匹の龍に、静かに指示を出した。
龍は飛び立ち——ふっ飛ばされた狸を迎えに行った。
完全に、ギャグ漫画の一コマだった。
そして俺達は——徳川家康の前に座り、話を始めた。
「一通りのことは、狸から聞いておる」
家康が、静かに言った。
「そうか……故にわしが復活したのか」
「そうだと思うよ」
ルーカスが答えた。
「でも——佐和さんが、死んだんだね」
「降臨するという話……臨死状態にある肉体に、異なる魂が宿ること。その状態が起きたか起きてないかの違いじゃろう」
「……知識があるんですね」
「これでも勉強熱心でな」
「ほへえ、それは凄いですね。将軍様」
「カカカ、結構結構。それを言われると鼻がむず痒いわい」
しばらく経った後——凪と悠真が、そっと目を開けた。
否——あまりにも長い間気絶していたので、起こしたというのもあるが。
そうでもしないと——腹が減って死ぬ、ということもあった。
その後、御膳が配られた。
といっても、ここは江戸なのか現代なのかわからない場所だ。
白飯に、焼き鯛。出汁の効いた味噌汁。香の物が三種。煮物は里芋と筍を薄味で炊いたもの。そして——なぜか卵焼きだけが、妙にふわふわだった。
質素だが、一つ一つに手が込んでいる。将軍の食事というより、誰かを労うための膳だった。
気まずい空気が——父と娘の間に、漂っていた。
悠真は箸を持ったまま動かない。凪は俯いたまま、味噌汁に手をつけるだけ。
その中で——ルーミャだけが、笑顔で食べていた。
満面の笑み。
それはもう、そこに彼女がいるという——ただそれだけで、場が成り立つような笑顔だった。
その場を壊したのは——家康だった。
「何をうつむいておる」
箸を置き、真っ直ぐに二人を見た。
「お互いに気まずいかもしれぬが——悠真には怨霊が取り憑いておった。故に意識が消えたりしておったんじゃろう」
「……ネタバラシ速すぎるんですが」
ルーカスが呆れた。
「仕方ないじゃろう」
家康は、からりと笑った。
「こんな暗い宴は——わしは嫌いじゃからの」
悠真が——家康に、頭を下げた。
「……私は、あなたを斬ろうとしました」
「否。興が乗った故に——許す」
そして——家康は、こうも言った。
「わしとしては、凪に謝罪したい」
「あの狸には仕事を命じた。しばらくこっちに戻ってこれんじゃろう。あのエロ狸」
「……ええ」
「わしの姫や、娘のも見ておったそうじゃからの。打首でもしたいが——わしの墓を護っておったのは事実。故に、軽くした」
ルーカスにとっても——あのエロ狸の評価は、マイナスを突破するほどだと認識を改めた。
家康が、凪に向き直った。
「凪や」
「……はい、なんでしょうか」
「父を、どう思うか。言うてみよ」
凪は——なかなか、口にしなかった。
見かねた家康が、悠真に告げる。
「お主は娘に謝罪せよ。せねば切腹ものじゃよ。なにせお主は——」
と、迫った。
悠真は——御膳をどかし、ネクタイを解き、そのまま額を床につけた。
土下座だった。
「凪——ごめん」
「俺はお前に、妻を重ねていた」
「だから色々として——ごめん」
「許してくれとは言わない。俺を——放棄しても、構わない」
沈黙が、落ちた。
すると——凪が、立ち上がった。
そして——ちょこんと、総理大臣の背中の上に座った。
総理大臣の上に乗る、娘。
……妙な、貫禄があった。
……俺がルーミャに乗られた、あの感覚だ。
しかもあの時と同じように——凪はクロップド丈のトップスに短いスカートという、臍が覗く今時の格好だった。
凪が、言った。
「別に。父は父だし」
「お母さんが好きなのは——変わらない」
「だって——こうなるって、・・・見えてたから」
凪の声が、震えた。
頬を伝うものを——拭おうともしなかった。
ぽたり、と。
父の背中に、雫が落ちた。
「私は——赦すよ」
「お父さん、と」
そして父は——娘の涙に隠れて、泣いていた。
それを見た家康は、静かに日本酒を呷った。
ルーミャは変わらず、飯を堪能していた。
俺も——静かに、飯を食べた。
父娘の時間は、必要だと感じたからな。
御膳を食べ終えた後——何故か火照った凪が、ズルズルと父を引きずっていった。
何が起きるかは分からないが——父娘の時間は、もう少しだけ続くらしい。
「……ええ、止めないんですか?」
「あの娘は御娘。赤ちゃんの頃、神崎夫妻のもとに降りた子なんじゃ。遺伝子で別じゃよ。未来視の力を持つな」
その言葉と同時に——ルーミャの「もしかして」という直感と、ルーカスの「こいつは・・・何か違う」という直感が、重なった。
俺達は——吹っ飛んだ。
といっても、龍にキャッチされて大惨事にはならなかったが。
その後——俺達も、別の部屋に案内された。
奥には露天風呂。そして——布団が、一つ。
ルーミャが——火照った状態で、言った。
「ルーカス。もう——ずっと、好きだった」
そんな事を言われ——俺は、理性を踏みとどめた。
吹っ飛ばすわけにはいかなかったから。
だがルーミャは、こう告げた。
「理性なんて——認識で吹っ飛ばせるでしょ」
ジジジ——。
翌日。
こほん——結局、俺の肉体美に惚れたルーミャは湯気を出して倒れた。
まあ、読者の想像通りにはならなかった。なると——アカウントが吹っ飛ぶという認識があったからだ。
……認識の歪みで、こちら側を認識している。
だが上の方でも同じだったようで。
ルーミャと凪は、そのことで女子話をしていた。
朝の料理は——精進料理だった。
男同士の会話をしていたが——
やはり、理性が飛ぶほど——うん。
「守るべきものがある男は——弱いな」
「ああ……。だが、それでいい」
とお互いで意見が一致した。
露天風呂の際は——煙で、大丈夫だったから。
そして——悠真が、静かに言った。
「凪の為に。俺は、この世界を変える」
どうやら神崎——この男は、この世界の現状を知ったらしい。
ループしているということは知らなかったそうだが——言わないほうがいいだろう。
ここまでの歪みと異変が起きている以上、問題はないしな。
俺は——この男と、並んで立てると思った。
そして一方——女性チームは、お互いに抱き合って湯気を出していた。
それを家康は——笑っていた。
……家康に言っておいた。
「あの露天風呂……やめてほしい」
と。
家康は、笑いながら言った。
「江戸ではよかった。じゃがここではダメか」
それに対して四人は——
「恥ずかしいのでやめてください」
とは言ったものの、其の後何故か俺達は…お腹がはちきれるくらい笑っていた。
第11話 了
第12話 最終決戦 序:世界の狭間が開く時
本作はマガジンでまとめて読めます。
👉 全話はこちら。
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで歩いていただき、ありがとうございます。
もし何か感じていただけたなら、その想いをそっと置いていっていただけると嬉しいです。