世界の裂け目が開く時 ー第10話 壊れゆく父と、守られる娘 【創作大賞2026】|ファンタジー部門
前回の話はこちらです。
そこにあったのは——皇居で見かけた江戸城ではなかった。
巨大な、城だった。
城というより——要塞、と言ったほうが正しいかもしれない。
『そこにあるのが江戸城です。歪んでますけど』
「ほへえ、でかいなあ」
「でかすぎんだろう」
2人は驚いていた。
何を隠そう——それこそまさしく江戸城である。
歴史の上では数十メートル。
今はなにせ——388メートル。
スカイツリーには及ばないとはいえ——でかい。
江戸の天守閣だけが巨大化したのだろう——ルーカスはそう考えながら、天守閣の上へと赴いた。
そこには——何やら話し合っている2人がいた。
1人は凪。
もう1人は——恰幅のいいおっさんだった。
『徳川家康です。おっさんではありません』
麒麟に突っ込まれた。
下の方では——戦闘音が、鳴り響いていた。
轟音。爆発。剣戟の音。
何かが崩れる音が、連続して響いてくる。
見下ろすと——魑魅魍魎の妖怪達が渦巻いていた。
そしてその中心に——神崎悠真が、いた。
まるで率いているように見えた。
その顔は——何かに取り憑かれていた。
それは、見て明らかだった。
「お主がやっていい事じゃないじゃろ」
……という狸の声。
「……俺は、ここから城を壊し征夷大将軍になる」
滅茶苦茶だった……。
麒麟が、言う。
『……外を見てください? でっかい髑髏が見えますね?』
ちらっと見ると——何かが、いた。
巨大な——骸骨だった。
軋む音を立てながら、ゆっくりと動いている。その眼窩には、暗闇だけが広がっていた。禍々しい気配が、空気ごと重くしている。
『ガシャ髑髏というらしい』
ガシャドクロという——。
戦で斃れ、誰にも弔われなかった者達の怨念が集まり、巨大な骸骨となった存在。
まあ——怖い奴と聞いたことがある……。
「退治しなければ?」
『まあ、世界を救う前に、世界が終わりますね』
「そうか」
そう呟き——俺は、龍に跨っていた。
龍に倒したいなと意思を伝えてみた所、
意思は通じたようだ。
龍と一緒に——急降下を、開始する。
風が——轟いた。
眼下に、戦場が広がっている。
魑魅魍魎が渦巻き、爆発が連続し——混沌の中で、あらゆるものが衝突していた。
龍が咆哮した。
地面が、揺れた。
俺は——その真っ只中へ、飛び込んだ。
"認識"の力——それは、歪んだほど力を発揮する。
そして、他の人に"認識"は認められてはいけないのだという。
それがどうした。
確かに——それは大事だ。
……だが——今はもう、普通ではない。
そうなった以上、俺が使うのは……使っていいのだろうな。
『別に構わぬぞ……』
と答えたのは——狸だった。
『待っておる……。早くしないと、親に子を殺させたくなければな?』
「……狸……いやエロ狸……不利なようだな」
『だーれがエロ狸じゃ』
「……油断するんじゃねえええ」
思念が、切れた。
……やけに——カオスだった。
仕方ないので——戦う事にした。
私は——孤独だった。
私の名前は、神崎凪。
そして私の母である神崎佐和は——2年前。
……死んだ。
不慮の——事故だった。
お母さんの職場の同僚が——嫉妬から、起こした事故だった。
車に一緒に乗っていた私と、お母さんは——命の危機に晒された。
お母さんが脳死になった、と告げられたのは——それから少ししてからだった。
私には、ドナーが必要だった。
お母さんは——私に、全部をくれた。
だから私は、今ここにいる。
灰色の——墓石の前だった。
父が、蹲って泣いていた。
声を殺して——肩を震わせて。
私も——泣いた。
お母さん——と、心の中で呼んだ。
答えは、なかった。
しばらくして——父が、立ち上がった。
振り返ったその顔は——知らない人の顔だった。
それからが——始まりだった。
父は——壊れていった。
ゆっくりと。でも——確実に。
それが私に向かってくる事も——増えていった。
でも私は——離れなかった。
色々あって——流れた。
殺されかけて、家を出た。
高校を自主退学し——逃げた。
行き着いた先が——江戸城だった。
江戸幕府の征夷大将軍である——徳川家康に、保護された。
過去の歴史上の人物で、日光東照宮で眠っている筈では——と思っていたんだけど。
数年前、復活したらしい。
謎だと思うけど——他にも偉人が復活しているニュースがある以上、そうなんだろう。
「何故じゃろうな……。わしにも分からんじゃが。こんなか弱い子が助けを求めているんじゃ……。わしは助力をするのみじゃよ」
優しかった。
数か月過ごしてみて——想った。
彼は、凄い人だと。
質素ながらも——飯を用意してくれたし……。家族も紹介してくれた。
でも——「結婚は出来ぬじゃろうな」と、笑っていた。
「わしらは、いつか消えゆく身であるならば……。最後まで、儂は縁のあるお主を護る。それが役目じゃろうて……」
その後——何故か、狸が傍にいた。
幻獣らしいんだけど……。
風呂を覗いたり、私の服を購入しに行く時についてきたりで——
エロ狸で、何度吹き飛ばしたことか……。
でも——戦いとか、変なのがやってきた時は頼りになるので……。
よくわからない。
「さて——どうやら騒がしいようじゃの……。お主の父が、来たようじゃの」
「………どうして?」
「……お主を探しに来た。否……、殺しに来たんじゃろう。この場所はあくまでも城ではあるが——防衛機能は殆ど存在しておらぬ」
ただ——何故かでかくて、トイレは何故か最新式だし、スマホも触れる。
そして——ネットで小童が面白いものを持ってきて、一緒に見る。
「摩訶不思議じゃがの……面白い経験が出来ておると思っておる」
そして——遠くを俯瞰するように見て、
「凪よ。お主はどうする? お主には視えるのじゃろう?」
……一拍。
「未来が」
……確かに、視える。
夢で見る。
けど——それだと……。
父が、家康が——両方、死ぬって。
……私に未来が見えても、変える力はない。
私は——父に嫌われた、ダメな人だから……。
もう逆らえないし——死ぬしかないんじゃないかと、想う事もある。
でも……今を、生きてるんだし……。
死にたいわけじゃない。
ただ——どうすればいいか、分からないだけで。
消えてしまいたい夜もあった。でも——朝になったら、また腹が減った。
飯を食べたら、また明日が来た。
それだけで——今日まで、来てしまった。
……父が、来た。
ガタン——。
音が、した。
魍魎に取り憑かれた父が——鉈を持ち、走ってくる。
まっすぐ。
まっすぐ。
鉈が——振り降ろされた。
しかし——。
家康は、どこから取り出したか分からない刀で——静かに、弾き返した。
まるで——ずっと、待っていたかのように。
刀と鉈が——交差した。
バチィッ。
火花が、散った。
神崎悠真は——構わず振る。
右から。左から。上から。
ブンッ。ブンッ。ブンッ。
力任せに、ただ——振る。
止まらない。
痛みも。疲れも。知らないように。
しかし——家康は、動じなかった。
スッ——一歩、退く。
スッ——一歩、捌く。
読んで。流して。逸らす。
斬らない。傷つけない。
ただ——受け流す。
「……暴れるだけでは、届かぬぞ」
神崎が——吠えた。
ガァッ——渾身の一撃。
スゥッ——家康が、半歩体を開く。
ヒュッ——鉈が、空を切った。
パンッ——柄が、手首を打った。
ガラン——鉈が、床に落ちた。
静寂が——満ちた。
同時に——神崎が、倒れた。
その隙を——エロ狸が、見逃さなかった。
ボンッ——。
神崎の周りに——淡く光る結界が、張られた。
「……ほれ、閉じ込めたぞ」
そんな時——窓から、1人の少女が降りてきた。
白いワンピースを着た——少女だった。
静かに、私に近寄ってきて……。
「……ねえ? 大丈夫?」
聞いてきた。
……その声が——遠くなっていく。
緊張のあまり、そのまま——意識を、手放した。
消えゆく意識の中——。
最後に見たのは。
エロ狸に——アッパーブローをかます、彼女の姿であった。
第10話 了
第11話 認めたかっただけ
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