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印刷用書体の開発とデジタルフォントの未来 #35|デジタルフォントの未来

前回まで、さまざまに変化する媒体や、日本語組版とデジタルフォントの標準化といったことに注目しながら、主に日本語用デジタルフォントを取り巻く環境を見てきました。

さて、このような状況において、「デジタルフォントの未来」とはどのようなことが考えられるのでしょうか。

現状に対応すべく、未来型のフォントが紹介されるのを期待されているかもしれませんが、残念ながら私が見た限りでは、そのような情報は見出せませんでした。
むしろ前回まで見てきたような課題に対応するために、フォントメーカーは苦悩していると思います。

それらを前提とした上で、あくまでも私の推測としていくつか述べてみたいと思います。

文字コードや字種の拡張と標準化の徹底

まず文字コードや字種の拡張グローバルな標準化の徹底が挙げられます。
フォントメーカーはその事業として字種の拡張作業や標準対応、特注文字の拡大に比重が大きいはずです。これは社会的な責任としてだけでなく、堅実なビジネスにもなります。

また電子デバイスに応じたグローバルな標準化に注力しているために、なかなかリスキーで開発コストのかかるユニークでセンセーショナルなフォントは開発しにくいのではないかと思っています。

一方で、新書体の開発もフォントメーカーの重要な事業の一つです。
ユーザーのニーズを探りつつ、地道な新書体開発をこれからも続けることと思います。そのうち、UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)などの一世を風靡する書体が誕生するかもしれません。

日本で最初にUDフォントを開発したのは、株式会社イワタです。
2004年からパナソニック(旧松下電器産業)と共同開発を開始し、2006年に日本初のUDフォントである「イワタUDゴシック」を発表しました。
家電の誤読を防ぐ目的で開発され、見やすく、読み間違えにくいデザインが特徴です。
イワタUDフォントは「業界に先駆けて着手し、デザインの力によってデジタルインフラへの大きな貢献を果たしている」ことが評価され、グッドデザイン賞を受賞しています(2009年度グッドデザイン・ライフスケープデザイン賞2017年度グッドデザイン・ロングライフデザイン賞)。

その後も各社から次々とUDフォントが発表され、一種の社会現象となりました。最近ではタイプバンクの「UDデジタル教科書体」が話題になったことも記憶に新しいところでしょう(図1左)。

また、同じくイワタの「Clip Studio Comic」や「つづり」など、デジタルフォントの機能を応用した新しい表現のフォントも、少しずつ増え始めているようです(図1右)。

図1左:高田裕美著『奇跡のフォント』(2023年、時事通信出版局刊)。「UDデジタル教科書体」の開発経緯が詳しく紹介されている(撮影:bird location)
図1右:Clip Studio Comic」は文字の前後関係によって筆跡がランダムに変化する欧文フォント。「つづり」は万年筆のタッチを再現した和文フォントで、万年筆のインクの濃淡を再現したカラーフォントも実装されている(図版出典:イワタ特設サイトより)。

復刻書体の開発

次に、復刻書体の開発がさらに進められるのではないかと考えています。

新書体の開発では、活字や写植書体を復刻することも大事な事業のひとつです。
私のように機械的なフォントに物足りなさを感じているユーザーは、写植時代の情緒的なフォントに憧れ「使ってみたい」という訴求が、今後は一段と高まってくるかもしれません。

すでに築地活字の復刻は広く行われています。次は写植書体の復刻になるのかもしれません。

中でも新体制となった株式会社写研の動向が注視されます。
図2は写研のサイトで紹介されている書体アーカイブです。懐かしい書体がたくさん並んでいます。

また、2024年秋には石井細明朝体と石井ゴシック体をはじめとした写研書体の改刻フォントを順次リリースすることが、OpenTypeの共同開発を行っているモリサワから発表されました。
翌2025年にも、写研書体第二弾として、様々な復刻書体がリリースされています。こうした動きは今後も続いていくでしょう。

図1「写研アーカイブ」に紹介されている写植書体見本モリサワとの協力により、少しずつデジタルフォント化が進んでいる
図2写研アーカイブ」に紹介されている写植書体見本
モリサワとの協力により、少しずつデジタルフォント化が進んでいる

フォントのアクセシビリティと自動生成

次に、フォントのアクセシビリティや、AIによるフォントの自動生成などにも注目すべきかもしれません。

フォントと文字組版の最大の目的はアクセシビリティです。
ここでいうアクセシビリティは「読みやすさ」という観点になりますが、絶対的な評価ではありません。
読みやすさには、加齢による視力の低下読書の経験値、照度や画面の輝度といった文字を読む環境などが複雑に絡んできます。

これまで見てきたように、従来の紙媒体は表現が固定化されるため、読者対象をある程度絞り、これまでのノウハウに頼って文字組みを判断していました。

しかし、電子デバイスはユーザーの手元で組版を変更できます。
技術開発が進めば、ユーザーの状況を自動的に判断して文字を大きくしたり、小さくしたり。さらには文字を太く、あるいは細くするとか濃度を変えるなど、限りなくアクセシブルにできるようになるかもしれません。

また、AIによって自動的にフォントを生成できるようになるかもしれません。その下地はもうできていると私は考えています。
以前紹介した通り、現在でもエレメント合成によるデジタルフォントの量産化が行われています。AIによってこの精度を上げていけば、自動生成は可能だと思えるからです。

例えばイワタからは、前述のUDゴシックを基にした「バリアブルフォント」が提供されています(図3)。ユーザーが太さやスタイルを自由に変えられるバリアブルフォントには、フォントのアクセシビリティ化や自動生成を予感させます。

図2 バリアブルフォント「イワタUDゴシックバリアブル」。LからHまでの太さをシームレスに変化できる。Adobe Illustratorなどのグラフィック用アプリケーションのほか、対応するウェブブラウザであればCSSでバリアブルフォントの太さなどを制御できる
図3 バリアブルフォント「イワタUDゴシックバリアブル」。LからHまでの太さをシームレスに変化できる。Adobe Illustratorなどのグラフィック用アプリケーションのほか、対応するウェブブラウザであればCSSでバリアブルフォントの太さなどを制御できる(図版出典:イワタ特設サイトより)

また、2022年にフォントワークス(現・Monotype)が公開した仮想実験空間『MOJICITY』(もじシティ)では、手書きの文字をAIが解析してフォント化する「AI JIMOJI」(エーアイ ジモジ)というウェブアプリをリリースしています(図4/2026年1月サービス終了)。

まだ実験段階の試みでしたが、近年、生成AIは目覚ましい進歩を遂げていることから、自動生成によって本格的なフォントが作られる日も、そう遠くないのかもしれません。

図3 「AI JIMOJI(エーアイ ジモジ)」は、手書き文字からAIがアウトラインを検出し、フォントファイルを生成するウェブアプリだった(2026年1月サービス終了)
図4 「AI JIMOJI」(エーアイ ジモジ)は、ユーザーの手書き文字からAIがアウトラインを検出し、フォントファイルを生成できるウェブアプリだった(2026年1月サービス終了)

YouTubeとフリーフォント

YouTubeなどの動画コンテンツでは多様なフォントがなんの縛りもなく、自由に使われています。中でもYouTube動画では、フリーのフォントデザイナーによるフリーフォントの利用が盛んで、今後ますます拡大していくかもしれません。

そのうち、特定のパラメータを組み込めば、人間のフォントデザイナー顔負けのユニークなフォントを瞬時に作る「AIフォントデザイナー」が登場するかもしれません。これに伴って、きっと「テロップ組版」などという分野が出てくるのでしょう。

そんな世界では、文字はジッとしていません。太さ、大きさ、色、2D、3Dで、見る人の気分に合わせ、本文書体が自由に変化し、きっと躍っているに違いありません。

フリーフォントではありませんが、モリサワの「DriveFlux」、Adobeの「百千鳥」などの和文バリアブルフォントや、フォントデザイナー・大曲都市氏による「東京ドームシティ バリアブルロゴ」といった事例は、その魁を感じるような試みなのかもしれません。

〈第3章 了〉



【次回予告】

デジタルフォントの過去、現在、そして未来について、3章にわたってお話をしてきた本連載。次回は最終回となります。


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