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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」10   張赫宙と金史良(その7)

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張赫宙チャンヒョクチュ金史良キムサリャン──在日朝鮮人文学の嚆矢(その7)


7 「光の中に」と「天馬」


 「光の中に」の主人公ナムはS大学協会に寄宿してセツルメント活動していて、山田春雄という少年と知り合う。
 春雄少年は弱い者イジメをするひねくれ者だ。少年の母は朝鮮人だった。父半兵衛は乱暴なヤクザ者で、妻に凄惨な暴力を振るっているが、自身も朝鮮人の母と日本人の父とを持っていた。臆病で卑屈で朝鮮を酷く嫌っていた。

 南は子どもらには「みなみ先生」と呼ばれている。春雄は徐々に南を慕うようになり、南が「みなみ」から「ナム」へと変わっていく姿を見ながら将来に光を見出していく。
 「光の中に」は良作だが一方で当時の「内鮮一体」の動きに対応していた。金史良は植民地期朝鮮を支配する日本帝国の精神性を問うのではなく、半兵衛や春雄に朝鮮人としての劣等感を描いた。あるいは主人公が朝鮮人ナムであることを隠してミナミと呼ばれることを非難する李青年にさえも、内鮮一体という光を見出している。

 続いて「箕子林」「草深し」「無窮一家」などでは古く貧しい朝鮮の民衆像を哀愁一杯に滅び行くものとして描いて見せた。しかし、一方で金史良は日本語で朝鮮を描くことの束縛にも気づいていた。

 そして「天馬」では描いたのは、日本語で書く行為に対する悪鬼払いだった。
「天馬」の主人公玄龍は内鮮一体化政策に便乗した性格破綻的俗物作家で、権力を笠に着た「文化人」に尻尾を振ってなんとか体面を保とうとしている。
 この頃、すでに日本語の使用強制が進み、朝鮮語紙誌の強制廃刊と国策日本語文芸誌の発刊、朝鮮語学会員逮捕など、民族文化抹殺策が強行され、朝鮮人の姓を日本風に変える創氏改名も進んでいた。

 金史良は日本語で書く行為に負い目を感じながらも、日本語で書くためには、そこに積極的意味を持たせなければならなかった。
 玄龍のモデルは、日本文学の大家を自称するゴシップ作家金文輯キムムンジップだと言われる。

金文輯は張赫宙に悪意ある攻撃をしたことがあって、感情に流れやすい張赫宙は、「朝鮮の知識人に訴ふ」(『文藝』1939年2月)で、朝鮮人の欠点として「ひねくれ、激情性、落ち着きのなさ、嫉妬心の強さ」などを上げて批判しているが、朝鮮人に一般化してしまったのは間違いだった。 
 金史良は金文輯をモデルとした玄龍を否定的に描くことで、否定的朝鮮人像の否定をやってみせた。金史良が玄龍に担がせたのは悪鬼払いの意を持つ桃の枝だった。

著者の本棚の一画

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◆参考資料

*本文の著作権は、著者(林浩治さん)に、版権はけいこう舎にあります。

◆著者プロフィール

林浩治(はやし・こうじ)
文芸評論家。1956年埼玉県生まれ。元新日本文学会会員。
著書に『在日朝鮮人日本語文学論』(1991年、新幹社)、『戦後非日文学論』(1997年、同)、『まにまに』(2001年、新日本文学会出版部)。『在日朝鮮人文学 反定立の文学を越えて』(新幹社、2019年11月刊)は、図書新聞などメディアでとりあげられ好評を博す。
そのほか、論文多数。
2011年より続けている「愚銀のブログ」http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/は宝の蔵!


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