J.S. Bach : ピアノ協奏曲の由来
最近、ピアノ (チェンバロ/ハープシーコード) 協奏曲の由来について、他の協奏曲やカンタータとの関連に興味があって調べています。個人的な視点にはなってしまいますが、私なりにまとめたことを記事にしてみようと思います。
Concerto per il Cembalo Concertato
チェンバロのための協奏曲
作曲年 : 1738年頃 (自筆総譜の合本で伝えられている。)
第1番:BWV 1052(ニ短調)
第2番:BWV 1053(変ホ長調)
第3番:BWV 1054(ニ長調)
第4番:BWV 1055(イ長調)
第5番:BWV 1056(ヘ短調)
第6番:BWV 1057(ヘ長調/例外的な編成)
第7番:BWV 1058(ト短調)
第8番:BWV 1059(断片)
これらの協奏曲は、主にコレギウム・ムジクム(大学生を中心としたアマチュアの演奏団体)の演奏会のために作曲されたと推測されています。バッハは1729年にこのコレギウムの指揮を引き継ぎ、10年以上にわたって作品を提供し、演奏会を指揮しました。
これらの作品をきっかけに、それまで伴奏楽器とみなされていたチェンバロに独奏を担わせることで、「独奏鍵盤協奏曲」という概念が形作られていくことになります。(それ以前には《ブランデンブルク協奏曲第5番》でのみ、チェンバロをソリストとして試みていたとのことです)
しかし、これらの協奏曲は真の意味での新作ではありません。ほとんどのチェンバロ協奏曲は、それ以前にヴァイオリンやオーボエなどの楽器のために書かれた協奏曲を編曲したものだと考えられています。
そうした原曲のうち、現存しているのは3曲のみで、ヴァイオリン協奏曲が2曲と、2つのヴァイオリンのための協奏曲1曲だけです。
さらに、いくつかのケースでは、バッハは協奏曲の楽章をカンタータのシンフォニアやアリアとして転用しており、それは中間段階のヴァージョンのように考えられています。
各曲の由来
第1番 ニ短調 BWV 1052
この協奏曲は、バッハのチェンバロ協奏曲の中で最もよく知られている作品で、失われたヴァイオリン協奏曲から編曲されたものと推測されています。現存している最古の形は1720年代後半のカンタータの中に見られ、第1・第2楽章は《カンタータ第146番》に、第3楽章は《カンタータ第188番》に転用されています。
第2番 ホ長調 BWV 1053
ヴァイオリンあるいはオーボエのための協奏曲だったと推測されていますが、カンタータ版こそが原形であったという可能性も指摘されています。オルガン版では、第1楽章がカンタータ第169番の冒頭シンフォニア、第2楽章は同じカンタータのアルト・アリアでのオルガンのオブリガート、第3楽章はカンタータ第49番の冒頭シンフォニアで、これらのカンタータはともに1726年の作品です。
第3番 二長調 BWV 1054
ヴァイオリン協奏曲ホ長調(BWV 1042)の編曲。楽器の特性上、ホ長調から二長調へと移調されています。
第4番 イ長調 BWV 1055
現存しないオーボエ・ダモーレのための協奏曲(同じイ長調) が原曲ではないかと考えられていますが、他の楽器を想定する説もあります。
第5番 へ短調 BWV 1056
失われたヴァイオリンまたはオーボエ協奏曲に基づくとされています。特に第2楽章は非常に美しく、カンタータ第156番の冒頭シンフォニアとしても登場しています。旋律はほぼ同じですが編成が変わっており、カンタータではオーボエが主役、協奏曲ではチェンバロが主役になります。短調なのに明るい響きがあって、不思議な安らぎを覚える感じがします。単独でも演奏される機会が多く、「バッハのラルゴ」として定番になっています。
第6番:BWV 1057(ヘ長調/例外的な編成)
チェンバロと2本のリコーダーのための協奏曲
ブランデンブルク協奏曲第4番の後年の改作。原曲はト長調で、ヴァイオリンと2本のリコーダーのために書かれていますが、独奏ヴァイオリンはチェンバロに置き換えられ、全体を1度下げてヘ長調に移調されました。
第7番:ト短調 BWV 1058(ト短調)
この協奏曲は、バッハが自作の イ短調ヴァイオリン協奏曲(BWV 1041) を後にチェンバロ用に編曲したものです。他のヴァイオリン協奏曲からの編曲と同じように、この曲もチェンバロの音域に合わせて全音下げて移調されています。
協奏曲とカンタータのパロディ関係
《第1番》ニ短調 BWV 1052
第1楽章 → 《カンタータ第146番》BWV 146(シンフォニア、オルガン独奏版)
第2楽章 → 《カンタータ第146番》BWV 146(2曲目合唱〈Wir müssen durch viel Trübsal…〉)
第3楽章 → 《カンタータ第188番》 BWV 188(シンフォニア、オルガン独奏版)
《第2番》ホ長調 BWV 1053
第1楽章 → 《カンタータ第169番》 BWV 169 (シンフォニア)
第2楽章 → 《カンタータ第169番》BWV 169(アルト・アリア〈Gott soll allein mein Herze haben〉オルガン・オブリガート)
第3楽章 → 《カンタータ第49番》 BWV 49(シンフォニア)
《第5番》ヘ短調 BWV 1056
第2楽章 → 《カンタータ第156番》 BWV 156(シンフォニア、オーボエ独奏版)
カンタータと協奏曲、どちらで聴いてもそれぞれ違った魅力がありますね。
カンタータの演奏動画
関連するカンタータの中から、いくつかを載せておきます。
カンタータ BWV 146 《Wir müssen durch viel Trübsal in das Reich Gottes eingehen》われら多くの艱難を経て神の国に入るべし
Netherlands Bach Society (オランダ・バッハ協会)
〈関連〉
シンフォニア - チェンバロ協奏曲第1番 第1楽章
合唱〈Wir müssen durch viel Trübsal…〉 - チェンバロ協奏曲第1番 第2楽章
《カンタータ第146番》については、別の記事にまとめました。原曲と推測されているヴァイオリン協奏曲と、その復元版についても触れています。
Ich habe meine Zuversicht》 われ固く信ず
J.S. Bach-Stiftung, St. Gallen (バッハ財団 ザンクト・ガレン)
〈関連〉
シンフォニア - チェンバロ協奏曲第1番 第3楽章
カンタータ BWV 169《Gott soll allein mein Herze haben》 神のみにぞわが心を捧げん
J.S. Bach-Stiftung, St. Gallen (バッハ財団 ザンクト・ガレン)
〈関連〉
シンフォニア - チェンバロ協奏曲第2番 第1楽章
アルト・アリア〈Gott soll allein mein Herze haben〉 - チェンバロ協奏曲第2番 第2楽章
カンタータ BWV 49 《Ich geh und suche mit Verlangen》 われ希望を持ちて歩み求めん
〈関連〉
シンフォニア - チェンバロ協奏曲第2番 第3楽章
カンタータ BWV 156 《Ich steh mit einem Fuss im Grabe》 片足は墓穴にありてわれは立つ
Netherlands Bach Society (オランダ・バッハ協会)
〈関連〉
シンフォニア - チェンバロ協奏曲第5番 第2楽章
コンサート
サー・アンドラーシュ・シフ
カペラ・アンドレア・バルカ
Sir András Schiff / Cappella Andrea Barca
サー・アンドラーシュ・シフ[指揮/ピアノ]
カペラ・アンドレア・バルカ[管弦楽]
J.S.バッハ
:ピアノ協奏曲第3番ニ長調 BWV1054
:ピアノ協奏曲第5番 へ短調 BWV1056
:ピアノ協奏曲第7番 ト短期BWV1058
:ピアノ協奏曲第2番 ホ長調 BWV1053
:ピアノ協奏曲第4番 イ長調 BWV1055
:ピアノ協奏曲第1番 ニ短3BWV1052
2025年3月25日
東京オペラシティ コンサートホール: タケミツメモリアル
バッハのピアノ協奏曲を通してて聴ける、貴重な公演でした。特に楽しみにしていた第1番はほんとうに鳥肌が立ちました。
翌日のモーツァルトのプログラムでも、アンコールでこの曲を演奏してくださって嬉しかったです。
次回は、その《ピアノ協奏曲第1番》についてまとめたいと思います。
【参考】
All of Bach – Top
Bachipedia – Top
Bach Digital –Top
Boston Baroque – Official Website
