掌編|【加古川の傍らで】綿だらけの水槽
メチレンブルーが
理科室によくある
青緑色の薬品だということを、
知っている子どもは
どれくらいいるだろう。
小学六年生のとき、
それを本屋で知った。
教室の後ろの茶色の棚の上、
入り口に近い
教室の左隅にある
大きな水槽に
ある日、異変が起きた。
メダカが白い綿のようなものに包まれて、
次々に弱っていく。
もうダメだ、という子を
掬って避けたりしたけれど、
それでも、あっという間に
教室の水槽は、
奇妙な綿だらけに
なってしまった。
はじめは、
可哀想がる子もいたけれど、
段々、その不気味な様子に
子どもたちは
目を逸らすようになった。
私だけは
目を逸さなかった。
なんとかしたい。
ただ、知りたかった。
そんな衝動に
突き動かされて、
その週の日曜日、
本屋へ足を運んだ。
「メチレンブルー」
その薬品が使えたら
治せるのかもしれない。
それを知って
月曜日の放課後、
ナカガワ先生に伝えた。
「どうせ死んでしまうなら
その前に一度、試させてください。」
ナカガワ先生は
話を聴いて、
その薬品を使う許可をくれた。
私と先生は
薬品を水槽に注いだ。
濃い青緑色が、柔らかく
水槽にたなびいていく。
翌日の朝、
メダカ達は
すっかり元気になっていた。
少し早く教室に来た
ナカガワ先生と、
その水槽を見つけた。
先生は
背丈まで身を屈めて
柔らかな眼で、私を見つめた。
そして、そっと
頭を撫でてくれた。
蜘蛛の糸がもし
本当にあるのなら、
私を救ってくれるのは
あのメダカ達だ。
ずっと
そう思っている。
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同じ先生、再登場。
▶︎【加古川の傍らで】先生のヘタな授業
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