新刊チェック:2026年5月第3週分②
今回も元気よく新刊チェック! 2026年5月分のリストはこちら👇
新刊チェック:2026年5月第1週分
新刊チェック:2026年5月第2週分
新刊チェック:2026年5月第3週分①
新刊チェック第3週(10日~16日)
アーシュラ・K・ル・グィン著・小尾芙佐ほか訳『赦しへの四つの道』ハヤカワ文庫SF
5月10日、早川書房より発売予定。作者はアーシュラ・K・ル・グィン(1929ー2018)。日本では『ゲド戦記』というファンタジー小説の作者として有名かと思います。本作は2023年に新書サイズの「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」というレーベルから出ていて、それが今年にって文庫化、ということらしいです。
文庫版の作品紹介が思いのほか簡素だったので、今回は「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」版の方を引用したいと思います。
ル・グィンを代表するシリーズ、《ハイニッシュ・ユニバース》短篇集、待望の邦訳!
〈ローカス賞受賞〉長年の奴隷解放戦争に疲弊した惑星ウェレルで宇宙連合エクーメンの使節ソリーが祭りの日に攫われこの地の真実を垣間見る「赦しの日」をはじめ、人種、性、身分制度に新たな問いかけをする《ハイニッシュ》世界の四つの物語。解説/小谷真理
本書に収録されている4つの短編は、《ハイニッシュ・ユニバース》と呼ばれるル・グィンの小説群の一部で、世界観を共有している作品が他にもあるみたいです。
冬木糸一さんのブログ記事がすごく参考になります!
《ハイニッシュ・ユニバース》の設定や『赦しへの四つの道』収録作の説明に関しては、冬木糸一さんという書評家の『基本読書』というブログの記事が詳しかったので、リンクを貼っておきたいと思います。
(記事タイトルは「『闇の左手』などが連なる《ハイニッシュ・ユニバース》物にして、奴隷制度・ジェンダーを真正面から扱ったル・グインのSF短篇集──『赦しへの四つの道』」)
先入観なしに読みたい方はそのまま作品に進んでいくことを推奨します。
ですが、そうではない方には、致命的なネタバレを避けつつお書きになっている記事なので、先にこちらから読んでしまうことをオススメしたいです。
私もこの作品に関して調査する中でこの記事を読むことになったのですが、とてもわかりやすく面白い書評で、作品にも触れたくなりました。
本作や《ハイニッシュ・ユニバース》に関する英語版のwikipedia記事も、内容がちゃんと充実していて詳しいのだけど、そちらは情報過多で消化できませんでした。読んだ人にとってはわかりやすい記事なんだろうな、という感じ……。
気になる部分
さて、世界観を共有した小説がたくさんあるとなると、〈本書単独で読んでも楽しめるのか?〉という点が気になります。その点について、先ほど紹介した記事にはこのような記述がありました。
《ハイニッシュ・ユニバース》に連なる作品とはいえ、ハイニッシュ物はどれも独立した作品群なので、本作から読んでもまったく問題はない。
ということで、本作から入っても大丈夫だそう。安心ですね!
で、さらに気になるのは、早川書房の作品紹介にある「人種、性、身分制度に新たな問いかけをする」という部分。
冬木さんの書評にも「「四つの」とついているように今回は四篇の短篇からなるが、今回のテーマは「奴隷制」と「女性の解放」になる。」という一文があり、奴隷制/奴隷解放とフェミニズムは、本作を読解する上でかなり重要なキーワードになっていそうですね。
……とはいえ、作品を読まないとこれ以上は掘り下げられなさそうです。誠に格好がつかないのですが、「今日はここまでにしといたる!」というセリフで締めたいと思います。
(※発売延期)日影丈吉著・日下三蔵編『仮面紳士 ハイカラ右京探偵全集 探偵くらぶ』光文社文庫
5月12日、光文社より発売予定。(※2026年5月4日追記:Amazonを確認したところ発売日が「2026/7/8」となっていました。延期です。)日影丈吉(1908-1991)は幻想小説・推理小説を得意とした作家で、探偵・右京慎策を主人公とするハイカラ右京シリーズが代表作みたいですね。今回紹介する本もそのシリーズのものです。
幻の名作ミステリーを掘り起こす「探偵くらぶ」の最新作は、異色の推理小説作家として知られる日影丈吉の創造した名探偵・ハイカラ右京の作品集。明治初期、文明開化の波に揺れる日本で、山高帽に針のような口髭、鹿革の手袋に細身の杖という洋装で、元国際スパイとも噂される「仮面紳士」のハイカラ右京こと右京慎策が難事件を次々と解決する!
杉下右京との関連性は!?
「右京」というと杉下右京を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。テレビドラマシリーズ『相棒』の探偵役にして、警視庁特命係の係長ですね。この「杉下右京」という名前も、過去の推理作家か、既存の推理小説に登場する探偵に由来しているのではないか。そう思うのが人情でしょう。
そして、ここにおあつらえ向きの「右京」! 公式サイトの「山高帽に針のような口髭、鹿革の手袋に細身の杖という洋装」という説明も紳士らしさを感じさせます。これは間違いない!
ということで、杉下右京の名前の由来を調べてみたところ、なんと右京慎策は「杉下右京」の由来……ではありませんでした。
では、何が由来なのかというと、1972年に放映されたホームドラマ『パパと呼ばないで』の主人公である安武右京なんだそう。このドラマ自体は亡くなった姉の娘を引き取った男の話で、wikipediaの解説を読む限り、ミステリのミの字もなさそうな作品でした。(ちなみに「杉下」となったのは、響きが「右京」に合いそうだから、とのこと。)このことについては杉下右京のwikipedia記事に書いてありました。
ということで残念無念また来年! でも、こういうことってよくありますよね。
豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』講談社文庫
5月15日、講談社より文庫本が発売予定。作者の豊永浩平(2003-)は沖縄出身。デビュー作となったこの『月ぬ走いや、馬ぬ走い』も、沖縄を舞台とした小説です。
じつは私、すでにこの作品を読んでいまして、ひとこと、とても良かったと申し上げておきたいです。まずはあらすじを見ておきましょう。
沖縄に生きるアメリカルーツの男子小学生、片足を失い幻肢痛に苦しむ米兵と結婚したコザの女性、特攻へ向かう旧日本軍将校──。14人の語りを通して、戦中から現代までの沖縄の80年史を描き、その因果の物語を辿る。
沖縄の歴史=地上戦になりがち?
私は沖縄を舞台とした小説(≠沖縄文学)に精通しているわけではないので、もしかすると偏見の開陳にすぎないのかもしれませんが、沖縄を舞台にした小説というと、どうしても戦時中と現代がダイレクトに結びついてしまっているイメージがあります。街並みからタクシー運転手が語る怪談まで、すべてが戦争の影響だと語られてしまう。それは間違いではないのかもしれないけれども、なにか空白が大きすぎるように感じてしまいます。
しかし本作は別で、戦中と現代のあいだにある時代も含めて描いているので好感を持ちました。(だからこそ、作品紹介に「14人の語りを通して」とあるように、令和を生きる未就学児から地上戦のさなかの兵士まで、14人分ものまったく異なる語りが必要になってくるわけですね。)
星座にならない星々を描く
また、もうひとつ好感を持った点があります。それは星座にならない星々をも描いたことです。年代記や大河小説というと、主要な登場人物同士がほとんど血縁関係でつながっているイメージがあります。しかし本作では、歴史のある瞬間にだけパッと現れてあとは痕跡なしという人たちも出てくる。誰とも血縁関係がないし、誰にも言及されない。そんな人たちが出てくる。つまり、星座にならない星々もちゃんといる。そこに勇気づけられました。
神戸遥真『透明なぼくらのレモンとキス』
5月15日、偕成社より発売予定。神戸遥真(1983ー)は主に児童文学・ジュブナイル小説を書いている作家のようです。完全に未読の作家なのですが、『ぼくのまつり縫い』シリーズ(偕成社)や『笹森くんのスカート』(講談社)、『日下部くんには日傘が似合う』(あかね書房)など、世間一般にある「男の子らしさ」の解体を行っていくような作品を継続的に出しているみたいなので、注目しています。
そして、今回の『透明なぼくらのレモンとキス』も、たぶんそうした作品のひとつ。あらすじを見ていきましょう。児童文学なので、公式サイトの紹介にも読みやすくするための改行が入っています。
朝の通学電車で痴漢被害に遭った湊斗と、
好きでもない女子の先輩に一方的にキスされた凪。
電車に乗れなくなった湊斗に凪が声をかけたことから、
二人は言葉を交わすようになっていく。
互いに自分に起こった出来事を話すうちに二人は
「大したことじゃない」と思うようにしていた痛み、
言えなかった「嫌だった」という気持ちに、
向き合えるようになっていく。
透明化される痛みを見つめる
友情と勇気の物語
今回のテーマは男性の性被害とその言えなさ。自分が受けた傷を誰にも告白できない中で、被害者を受けた少年同士がお互いをケアしたり連帯したりしていくという話になっているみたいです。こうした作品が出せる世の中になったんだなあと、月並みな感想ではありますが、しみじみそう思います。
併読しておきたい:大前粟生『物語じゃないただの傷』
この新作を受けて連想したのが、大前粟生(1992-)の『物語じゃないただの傷』という小説。未読の方のために詳細は伏せますが、〈男性(特に成人)だと告白しづらいトラウマを抱えた男性が、自身とは正反対の性格と思われる男性と親しくなっていくうちに、トラウマの告白に至る〉という筋になっていて、こちらも「男らしさ」の中でトラウマについて語れずにいた男性と、男性同士のケアを真っ向から描こうとしています。
主人公が抱えていたトラウマについて、〈学生時代から抱えていて、本人は性的なものだったと考えているトラウマ〉ということ以上は語れないのですが、人によっては受け流せてしまうかもしれないし、性的だとも思わないのかもしれないのだけど、その本人の中では強烈な光景・体験として残っているという類のものでした。
ひと昔前であれば、「気にすることないよ」という風に受け流してもらえれば御の字で、場合によってはもっと心無い言葉を投げかけられていたでしょうね。(「御の字」という言い方は不謹慎かもしれないけど、それくらい平成もひどかったんです。)
『透明なぼくらのレモンとキス』と重なる部分の多い作品だと思われるので、併せて読んでみると、また違った発見があるかもしれません。
次回について
次回は5月第4週分のチェック。直前になって発表日が決まるというパターンもあるので、これ以降は少し間を開けようと思います。次回もお会いしましょう。それでは、また!
いいなと思ったら応援しよう!
平素よりサポートを頂き、ありがとうございます。