「仕事に『生きがい』はいりません」(金間大介、酒井崇匡 著)を読んで
2025年12月にSBクリエイティブから刊行された一冊。副題は「30年の調査データが明かすZ世代のリアル」であり、長年の観測調査データをもとに、Z世代の仕事観、消費行動、恋愛観、コミュニケーションの特徴を分析している。
以下、私が特に印象に残った言葉(〇)と、それに対する私の考え(■)をまとめてみたい。
〇 新入社員が理想とする職場として、この10年間で評価が上がった項目はどれか?
(1)活気がある
(2)アットホーム
(3)お互いに個性を尊重する
(4)お互いに助け合う
■ おそらく(3)と(4)だろう。(1)は敬遠されやすく、(2)も場合によっては「しがらみ」と受け取られる。しかし、その「しがらみ」をサークル活動のような緩やかなつながりとして捉えられる場合には、一部の学生から支持されるようにも感じる。
〇 大方の若者にとっての「個性の尊重」とは、「一切否定も批判もしない」ということ。
■ これは非常に納得感があった。私がこれまで考えてきたMrs. GREEN APPLEの「僕のこと」「青と夏」「StaRt」「ケセラセラ」「ライラック」などの楽曲に見られる価値観とも重なるように思う。
〇 「個を尊重することで、唯一無二の存在になりたい」ということか。いいえ、残念ながら違います。
■ 私自身はそうであってほしかったが、どうやら違うようだ。「唯一無二の存在になろう」という価値観で思い浮かぶのは、2002年のSMAP「世界に一つだけの花」である。一方、現在の学生に響いているのはMrs. GREEN APPLEの世界観だろう。この20年ほどで価値観が大きく変化したことを感じる。
〇 今の若者の大半は、上司に情熱やリーダーシップを求めていない。
■ これは以前から薄々感じていたことである。時折、自分の熱量が空回りしているように感じることがあるからだ。求めていない理由の1つは、自分も頑張らないといけなくなるという圧力であり、ロールモデルとは見られないからだそうである。それでも私は、必要な場面では情熱を示すことを大切にしている。なぜなら、一部の若者には確実に響くと考えていること、そして「求められていないから」と情熱そのものを失ってしまうことに危うさを感じるからである。
〇 「自分のやりたい仕事ができる会社」「働きがいのある会社」は下降傾向にある。
■ 確かに、私が接する学生の中にも、「やりたい仕事」よりも「精神的に安定して働ける会社」や「給与・休日などの条件が良い会社」を重視する人が多い。しかし私は、自分の考えや行動によって組織や地域社会が良くなっていく実感こそが働きがいや生きがいにつながると思っている。また、条件だけで会社を選んだ場合、業績が悪化した際に「何とかしよう」という気持ちが生まれるのだろうか、という疑問もある。
〇 今の大阪の若者は、自らダイブせず、ダイブする人を見に行く。(阪神V、道頓堀ダイブ5000人→26人)
■ 非常にわかりやすい例である。2003年と2023年の阪神リーグ優勝時の道頓堀ダイブ人数を比較したものだが、この20年間の行動変化が象徴されている。危険を伴う行動を自ら行うよりも、それをスマートフォンで記録する側に回る。安全・安定志向の高まりを感じる。
〇 責任を抱えるより気楽な地位でいたい。そんな働き方を志向する人は、若者だけではない。
■ 「丸くなった50代」と「最初から丸い若者」という表現が頭に浮かんだ。確かにそうかもしれない。私の周囲でも若手からベテランまで、仕事はできるだけ冒険せず(できれば前年踏襲で)、波風立てずに無難にこなしたい気持ちがひしひし伝わってくる。それでも私自身が冒険を続けたいと思えるのは、ある程度自由度の高い立場にいるからだろう。比較的気楽な立場にいながら、新しいことにも挑戦できる今の環境に感謝している。
〇 実験開始だ。観察ポイントは、誰が最初に瓶ビールに手を伸ばすか。
■ 私もつい最近、似たような経験をした。学生8人(半数程度が初対面)の有償ボランティアで、待機時間中に個包装のお菓子や紙皿をテーブル中央に置き、「自己紹介しながら食べてね」と伝えてその場を離れた。20分後に戻ると、雑談はしていたものの、お菓子には誰も手をつけていなかった。誰が最初に封を開けるか、どう分けるか。その最初の一歩を踏み出せる学生は少数派なのだと感じた。
〇 今、最もプレゼントのやり取りが活発なのは同性の友人同士である。
■ 私の周囲の学生も同様である。相手の好みがわかっていること、恋愛を巡る詮索が少ないこと、友人関係を維持したいという思いなどが背景にあるのだろう。
〇 拒否回避欲求が強い若者たち
■ 「拒否回避欲求」とは、周囲から否定されたり反対されたりすることへの不安が強い状態を指す。そのため、自分の行動に対する「言い訳」を求める傾向がある。ボランティア活動をしている学生に活動理由を聞くと、「やってみたかった」よりも、「友達に誘われた」「時間があった」といった説明をすることが圧倒的に多い。実際には両方あるのだろうが、相手に説明しやすい理由(言い訳)を選んでいるように見える。
〇 恋愛離れの正体は、「友達以上恋人未満」離れ
■ 「友達以上恋人未満」は、1991年のトヨタ・サイノスのキャッチコピーとしても有名だ。当時の若者は「今の関係を壊したくない」「振られるのが怖い」「本当に好きか確信が持てない」といった理由からその関係をつくったものの、今の若者はその曖昧な関係を避ける傾向があるように思う。不安定さを避けたい気持ちや拒否回避欲求ともつながっているのだろう。
〇 「友達の友達」に期待する恋愛観の変化
■ この部分を読んだ瞬間、広瀬香美の『ロマンスの神様』のメロディーが頭に流れた。当時は「友達の友達」に大きな期待を寄せる文化があった。しかし今は、紹介する側もされる側もリスクを感じやすくなり、そのような機会自体が減っているのかもしれない。
〇 日本人は、みんなで仲良く協力しているのではなく、協力しないと後が怖いから同調する。
■ 学校、PTA、自治会などを見ていると、確かにそうした側面はある。一方で、サッカーのワールドカップ会場で見られる日本人サポーターのごみ拾いのような行動も存在する。私は、自立した個人が内発的な動機で力を持ち寄り、「良いことをしよう」と思える社会のほうが望ましいと感じるし、そうなるよう努力したいと考える。
〇 今の若者はメンタルの安定を重視する。
■ 本書全体を通して感じたのは、この一点に多くの現象が集約されているということだ。失敗を避けるために冒険をしない。情熱的な上司を避ける。正解を早く知りたがる。感情表現を抑制する。こうした行動の背景には、メンタルの安定を最優先する価値観があるように思う。
全体を通して
本書を読みながら感じたのは、「挑戦より安定」「情熱より安心」「個性の発揮より否定されないこと」が、現代の若者の価値観を理解する重要なキーワードになっているということである。
一方で、私はだからこそ、挑戦や情熱の価値まで失われてほしくないとも思う。安定を求める気持ちを理解しながらも、自ら一歩踏み出し、組織や社会を少しでも良くしようとする人を応援したい。その意味で、本書は若者理解の本であると同時に、自分自身の働き方や価値観を見直すきっかけを与えてくれる一冊だった。
