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夏の夜の童話【カフェ浪漫主義16】

【カフェ浪漫主義】
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夏の短夜にはファンタジックな童話が似合う。たぶん日本の生んだ童話の最高峰は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』だろう。

我家の星祭りも『銀河鉄道の夜』に出て来る星祭りと盂蘭盆をまぜたような物をやっている。

宮沢賢者の童話三部作初版本を全て集めるには、費用よりむしろ長い月日とかなりの幸運が必要だ。

この3冊をコンプリートすれば愛書家猟書家として一流と言われるのももっとだと思う。

『風の又三郎』『銀河鐡道の夜』『グスコーブドリの傳記』
初版 宮沢賢治

この『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『グスコーブドリの傳記』辺りは古書市場に年間2〜3冊しか出て来ない希少本と言うから、タイミング良くこの本と出会うには運が最も重要な要素なのかもしれない。

しかも適度に傷んで私に買える価格でないといけないから、こうして我家に3冊揃った幸運に感謝し精一杯の祭壇を築き荘厳なる燈明を捧げよう。

宮沢賢治は若くして亡くなったため、この3冊共その死後に遺稿から刊行された物だ。

彼の生前に刊行されたのは自費出版の『春と修羅』と『注文の多い料理店』だけで、それらも全く売れず、中原中也が『春と修羅』が夜店に積まれているのを見つけて買い集め、知人達に配った話が残っている。

彼がもう少し長生きしてくれれば、きっと日本のファンタジー文芸ももっと大きく広がり、ひいては戦後の西欧物質主義の氾濫も多少は抑えられた気がする。

また、ますむらひろしの猫版のアニメ『銀河鉄道の夜』は日本のアニメ史上に残る名作だろう。このアニメ映画のサウンドトラックがこれまた細野晴臣による名作で、私を夏の夜のファンタジーに誘ってくれる。

細野晴臣の『源氏物語』のサウンドトラックも、邦楽のアルバムとしては格別の出来だ。

戦後の邦楽界が長らくこれといった新しい音楽を出せない中で、サンプラー音源だとしてもこのアルバムは和風アンビエントとしての唯一無二の選択となる。

中でもこの『若紫』は日本の箏曲としても燦然と輝く名曲だろう。

その後の歴史を調べると日本の童話は戦前昭和が黄金期で、戦後昭和のファンタジーは文芸に代わって漫画が圧倒的に興隆して行く。

今から省みれば、童話の分野でも他の日本の諸芸術と同じく戦後昭和は文化の大衆化欧米化は進んだものの、質においては明らかに戦前より劣化していると思う。

童謡もまた戦前の方がレベルが高かった。

『かなりや』直筆色紙 西條八十

西條八十の『かなりや』は現代では失われたセンスオブワンダー(不思議感)に満ちている。

うたをわすれたかなりやは
ざうげのふねにぎんのかい
つきよのうみにうかべれば
わすれたうたをおもひだす

西條八十『かなりや』

因果関係を突如途切らせて俗な解釈を拒否するような飛躍の仕方は、他にも同時代の竹久夢二や小川未明らの童話童謡に同じ傾向が見られる。

そんな名詩の直筆色紙を飾れば、幻想的な月夜の海の情景が心中に涼風を運んでくれよう。

卓上は青白磁禾目茶器に白桃烏龍茶、明治の三田青磁菓子鉢にカウチポテト風ジャンクフードを盛り、これで今宵はゆったり涼やかに過ごせるだろう。

『かなりや』の初出詩集は『砂金』だが、その初版本は稀少な私家版でまずお目に掛かれない。我家にあるのも残念ながら第3版だ。

まあ西條八十の他の詩集は全て初版でコンプリートしているので、『砂金』初版も何とか諦めずに探していればいつか出会えるかもしれない。

例えそれが入手出来なくとも、この色紙があれば十分満足だ。

まだまだ続く暑き日々にも、涼しげな書画や古書を眺めていれば精神の清澄さは保てる。更にファンタジックな童話童謡で短夜の夢幻に浸れれば、暑さに疲れた心も洗われる気がする。

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