2000分の1の出会い──文学フリマ東京42 私が選んだ二人
約2000のブースの中から、たったひとつを選ぶ。そんなルールで歩いた文学フリマで、私は二人の作家と出会った。

数えきれないほどのブースの中から、たったひとつを選ぶ。私は、そんな無謀な課題を、自分に課した。
すべてを見ることはできない。だからこそ、自分の判断でひとつを選ぶ——そのはずだった。
けれど、あの日の出会いは本当に「選んだ」と言えるのだろうか……
これは、文学フリマ東京42で出会った二人の作家と、「2000分の1」という確率の中で起きた、少し不思議な物語です。

「2000分の1を選ぶ」ルール

今回の文学フリマ東京は、約4000ブース規模。会場は南1・2ホールと南3・4ホールに分かれており、単純に考えれば、それぞれ約2000ブースずつが並んでいることになる。
半日でそのすべてを回ることは言うまでもなく不可能。ましてや、一冊一冊手に取って中身を確かめるなど到底できるはずもない。
各フロアには試し読みコーナーが設置され、多くの来場者が無数の本の中から自分に合う一冊を探している。
お目当ての作家がいる人は別として、そうでない人間にとっては、まず“あたり”をつけること自体がひとつの勝負になる。
そこで私は、ひとつのルールを決めた。
——各フロアで、一人だけ作者を選ぶ。
つまり「2000分の1」を自分で引き当てるということだ。

静かな直感で選んだ一冊 ―― 伍代祥

最初に選んだのは、伍代祥という作家だった。
きっかけは、装丁だった。「傘傾げ」という作品の表紙に目が留まった。
雨の街を傘をさし歩く女性の後ろ姿。静かな線画。余白の多いデザイン。派手さはない。けれど、妙に気になった。
手に取ってページをめくってみると、文章の雰囲気もどこか落ち着いていて、旅のお供にちょうど良さそうな気がした。
もう一冊「珈琲ときどきホットミルクそのこころは?」という作品も手に取る。
小さな本屋兼カフェを舞台にした物語のようで、こちらもやはり、静かな時間に寄り添ってくれそうな印象だった。
二冊とも主人公は女性らしい。作者名の「伍代祥」は男性の名前のようにも思えるが、実際はどうなのだろうか——そんなことをぼんやり考えながら、私はこのブースに向かった。
実際に会ったご本人は、物腰のやわらかい、いかにも本好きそうな男性だった。私は自分の感覚で、この作家を選んだ。

偶然に導かれた一冊 ―― 山川陽実子

もう一人は、まったく違う形で出会った。
試し読みコーナーで、私は少し途方に暮れていた。あまりにも本が多すぎて、どこから手をつけていいのかわからない。
そんなとき、少し離れた場所から女性二人の会話が聞こえてきた。
「ねぇ、この本100円だって。安すぎない?」
「ほんとだ、見た目はちゃんとしてるけどね……でもなんか変な本だね」
変な本……その言葉に引っかかり、二人が立ち去ったあと、私はその周辺を探してみた。
見つけたのが、「まさしと一緒! ~はじめての人面犬~」という一冊だった。
——たしかに、変な本だな。
タイトルを見て思わずそう思った。手に取ると紙は薄いピンク色。これもまた、少し変わっている。
ページをめくる。
そして思わず笑ってしまった。
ばかばかしい。けれど、面白い。
気づけば、もう一冊を手に取っていた。
「兼友さん! 小説徒然草」。古典を下敷きにしたコメディのようだ。
ここはネタバレになるので書けないが、こちらもやはり、ばかばかしい。
そして、続きが気になる。
私はそのままブースに向かった。
そこにいたのが、山川陽実子という作家だった。
作品の印象から、もっと賑やかで派手な人物を想像していた。
けれど実際に会った彼女は、驚くほど落ち着いていて、静かで、どこか芯の強さを感じさせる人だった。
そのギャップに、少し驚いた。

選んだのか、選ばされたのか

こうして振り返ると、この二つの出会いは対照的だった。
一人は、自分の感覚で選んだ作家。
もう一人は、偶然の会話に導かれて出会った作家。
けれど、本当にそう言い切っていいのだろうか。
振り返ってみると、私は昔から、偶然を偶然のままにしておけないところがある。出会いも、すれ違いも、あとから意味を探してしまう。
だからあの日の二つの選択も、単なる運ではなく、どこかで決まっていた流れのように思えてしまうのかもしれない。

2000分の1の、その先に

2000分の1。
その中から選んだ二人の作家。
けれどそれは、本当に「選んだ」結果だったのか。それとも、私がそこにたどり着くようにできていたのか。
そんなことを考えながら、私はあの日買った本を少しだけ大事に読もうと思っている。
それが、あの日の「2000分の1」の答えなのかもしれない。(文:千里ふうた)



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