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「治療と仕事の両立支援」の努力義務化 ~成功のカギはGive & Takeの社会参加~

2026年4月、労働施策総合推進法の改正により、「治療と仕事の両立支援」が企業の努力義務として法律に明確に位置づけられました。


企業において、病気を抱えながらも働く人が、治療を理由に仕事を諦めなくていいように支える仕組みが法律に明記されます。日本の労働人口の3人に1人が何らかの持病を抱えながら働いています。がんにいたっては、診断されて最初の治療が開始されるまでに、退職する人は4割。少子高齢化が進み、人材確保が難しくなる時代において、病気を抱える従業員をどう支えるかは、経営課題そのものです。今回の法改正は、企業が“備えるべき最低ライン”を示したと言えます。



昨今、企業経営において、CSR(Corporate Social Responsibility)が問われるようになりました。CSRとは、「企業が利益だけでなく、社会・環境・人権に対して責任ある行動をとるべきだ」という考え方です。いわば、企業の社会的責任を意味します。CSRを軽視することは、取引先からの敬遠、顧客離れ、投資家の評価低下、ブランドの失墜につながるでしょう。社会的責任(SR:Social Responsibility)に関する国際ガイドライン「ISO26000」によると、企業が社会的責任の実践において尊重すべき行動は、説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重と7つの原則が示されています。’’どんな姿勢で社会と向き合うか’’を問われるものです。


病気と向き合いながら働く人は、決して少数派ではありません。がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患といった五大疾病、難病・慢性疾患……。治療と仕事の両立は、誰にとっても“明日の自分ごと”になるものです。今回の法改正は、企業が「社会の一員としての責任」と「持続的な成長」を両立させるための、ひとつの分岐点でもあります。長期治療をしながら働く人が増える中、「従業員の健康を守る」ことは、もはや善意ではなく、企業の責務になりました。


一見、企業側に不利益に見えますが、これは企業経営においても大きなメリットをもたらします。離職率の低下、職場の心理的安全性の高まり、労働生産性の向上。「人を大切にする企業ほど強くなる」、人的資本経営の基盤となるものです。治療と仕事の両立支援は、これからの経営スタンダードを象徴する取り組みとなります。「企業の良心」ではなく、「企業の生存戦略」として必要です。そこで、社会・企業・従業員それぞれがWin-Winの関係を構築できる仕組み作りが重要となります。





今回は、難病の社会保険労務士が、「治療と仕事の両立支援」の努力義務化をわかりやすく徹底解説します。そして、コレさえ読めば、”明日から「治療と仕事の両立支援」が導入できるゾ’’というレベルまで説明致します。


メニューは次の通り。


僕自身、クローン病になって20年以上。病気を抱えながら働くことには苦労が絶えませんでした。偏見、誤解、辛抱、必要以上の努力。さまざまなことがあります。そういった経験を糧にして、病気の理解が広がるように、知識の情報共有をしていきます。




治療と就業の両立支援指針の概要


2026年4月1日より労働施策総合推進法が改正され、「治療と仕事の両立支援」が条文に明記されました。それに先立ち、2026年2月10日に厚生労働省告示第28号「治療と就業の両立支援指針」が公表されています。これは、’’病気になっても働き続けられる体制”を企業が実現するためのロードマップです。病気を理由に優秀な人材を失うことは、企業にとって大きな損失になります。治療と仕事の両立支援を実現することにより、企業にとっては人材の定着や生産性の向上につながり、働く人にとっては治療をあきらめずに済む安心感が生まれるものです。


厚生労働省 治療と仕事の両立について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html

厚生労働省HPより



それでは、
要点を説明していきましょう。



――――――――――――――


【企業側】


企業が取り組むべき柱は
次の3点に集約できます。



・「環境整備(制度・体制の構築)」

企業がまず取り組むべきは、従業員が病気を抱えながらでも安心して働ける「土台」を整えることです。そのために、事業主が両立支援に関する基本方針を明確にする必要があります。相談窓口を設け、管理職や従業員への研修を行うことが求められます。さらに、治療と仕事を両立しやすい勤務制度を整備することで、従業員が無理なく働き続けられる環境をつくります。

環境整備スタートのポイントは、「事業主が指針を宣言」することです。



・「連携体制の構築」

治療と仕事の両立支援は、企業だけでも、本人だけでも完結しません。従業員から申出があった際には、主治医の意見書を確認し、産業医・保健スタッフと連携しながら、どのような就業上の措置が適切かを検討することが重要です。場合によっては、企業側の要望を主治医に伝えるための勤務情報の提供も必要になるでしょう。告示では、病気を理由に安易に就業禁止にするのではなく、本人の状態に応じて働き方を調整する姿勢が強調されています。主治医と職場がつながることで、従業員は治療を続けながら働くという選択肢を現実的に持つことができます。

連携体制の構築のポイントは、「本人の要望を柔軟に検討・実施」することです。



・「個人情報の保護」

治療や病状に関する健康情報は、従業員にとって非常にプライバシーの高い情報です。企業はこれらのセンシティブな情報を厳格に取得・保存・利用することが求められます。これらの健康情報を取得・保存・利用する場合は、目的を明確にして、あらかじめ労働者本人から承諾を得ることが基本となります。また、病気に対する誤解や偏見が生まれないよう、職場全体で理解を深める取り組みも欠かせません。「相談したら不利になるかもしれない」という不安を取り除くことが、両立支援の第一歩です。安心して声を上げられる職場こそが、企業の信頼性と持続的な成長につながります。

個人情報保護のポイントは、「本人の同意と不利益扱いの禁止」です。



――――――――――――――


【労働者側】


労働者が取り組むべき柱は
次のとおりです。



・「自己保健義務」

自己保健義務とは、簡単に言えば「自分の健康を守るために必要な行動をとる責任」 のことです。自己責任とは、意味合いが違います。’’本人が健康を守る行動をとる’’ことで、企業も適切な支援をしやすくなり、結果として治療と仕事の両立がスムーズに進むという考え方です。医師の指示に従って治療を続ける、適切な服薬を行う、生活習慣のリズムを守る、症状が悪化したら無理をせずに相談する。治療や疾病の増悪防止について適切に取り組むことが求められます。また、治療と仕事の両立支援は、「本人の申し出」からスタートすることが明記されたことも特徴的です。企業が「どんな支援が必要なのか」を判断するための大切な情報にもなります。

自己保健義務のポイントは、「必要な支援を主体的に申し出る」ことです。



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今回の「治療と就業の両立支援指針」が示した目的は、「安全と健康の確保」です。企業は環境を整え、本人は自分の健康を守る行動をとるという、お互いが支え合うための「新しい協働のかたち」をつくるものです。

企業が相談しやすい体制や柔軟な働き方を用意し、本人が自己保健義務を果たしながら必要な支援を申し出る。その二つが重なったとき、治療と仕事の両立はようやく現実のものになります。

病気になっても働き続けられる社会は、’’優しさ・思いやり・助け合いの個人の努力’’でなく、ルールに関する’’規範意識’’を持つことで実現されます。



両立支援の導入プロセス


「治療と仕事の両立支援」を導入したいが、実際の職場では「どこから手をつければいいのか分からない」という声が多く聞かれます。「治療と仕事の両立支援」は、特別な制度を急に導入することではなく、職場の理解を育て、相談しやすい環境を整え、働き方の選択肢を広げていくプロセスです。



合言葉は、
「周知→研修→窓口→規則」



この4つのプロセスにならって、順を追って導入していくことをお勧めします。どれも難しいものではなく、職場の’’当たり前’’を少しずつ変えていくための実践的な手順です。それでは、紹介しましょう。



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1. 事業者の基本方針の表明と周知

両立支援の第一歩は、企業として「治療と仕事の両立を支える」という姿勢を明確に示すことです。トップが方針を表明し、社内に広く伝えることで、従業員は「相談しても大丈夫」という安心感を持てます。少なくとも事業活動の位置づけは明確になるため、「どうしてそんな仕事をしなければいけないのか?」という抵抗に「トップが方針を表明しているから」と正当性を説明することが可能です。制度づくりの前の’’職場の空気”を整える大切な基礎になります。方針の表明は、単なるスローガンではなく、両立支援を企業として、どう位置づけるか重要性の認識、どのような支援体制を提供するのか職場全体での対策、相談した従業員をどう守るのかプライバシーへの配慮を含んで検討するのがいいでしょう。また、方針は組織を構成するメンバーに周知されて、初めて意味を持ちます。どこかのファイルに閉じられて、わざわざ探しに行って確認するのでは、行動に結びつきにくいものです。そのため、方針は誰の目にも触れる状態であることが重要です。そして、見落としがちなことなのですが、既に企業には治療と仕事の両立支援に使える規則がある場合もあります。規則を再確認し、有効な規則を改めて周知することもコストがかからず、企業として「治療と仕事の両立を支える」という姿勢を鮮明にすることになります。



2. 研修等による支援の意識啓発

次に必要なのは、管理職や従業員が両立支援の考え方を理解することです。病気に対する誤解や偏見をなくし、相談を受けたときに適切に対応できるように研修や情報提供を行います。治療と仕事の両立支援の雰囲気を醸成するために、従業員の全員が参加することが望ましいです。「どう声をかければいいのか」「どんな支援が可能なのか」を知ることで、職場全体が支え合える土壌が育ちます。病気を抱える従業員が直面しやすい困難、相談を受けたときの基本的な対応、主治医・産業医との連携の流れ、偏見や誤解を生まないコミュニケーション、個人情報の取り扱い。こうした学びを積み重ねることで、職場の’’空気”が変わり、従業員が相談しやすい環境が自然と育っていきます。



3. 相談窓口の明確化

両立支援は、従業員の’’申し出’’から始まります。そのため、誰に相談すればよいのかを明確にし、相談しやすい窓口を設けることが欠かせません。人事部門、産業保健スタッフ、上司など、窓口の役割をはっきりさせることで、従業員は迷わず支援を求められます。社内に治療と仕事の両立支援はあるのだけれど、誰に相談していいのかわからないということはよくあることです。具体的に「誰が」担当であるのか従業員に伝えましょう。また、一般的に人事評価・ハラスメントは事業場内資源、コミュニケーション・法令遵守は事業場外資源が相談窓口として得意とするところです。事業場内資源と事業場外資源の使い分けも一考の価値があります。相談内容が適切に扱われるという信頼感は、両立支援の実効性を高める要素です。どの窓口が何を担当するのか、相談内容はどのように扱われるのか、個人情報はどう守られるのかをあらかじめ明確にしておくと、従業員は「相談しても大丈夫」と思えるようになります。さらに、相談内容を適切に共有し、主治医・産業医との連携につなげる仕組みも欠かせません。支援スタッフへの情報提供やネットワーク構築などのサポートを行うと、より利便性と持続性の高い相談窓口を設置できます。



4. 休暇・勤務制度の整備

最後に、治療と仕事を両立するには、働き方の柔軟性が必要です。従業員の状況に応じて調整できる制度を整えておくことが重要です。社内に就業規則等の制度が整っていることで、従業員は治療を続けながら無理なく働く選択肢を持てます。どのような制度があるのか、一例を紹介していきましょう。



・私傷病休職制度

私傷病休職とは、従業員がプライベートでの病気・怪我により働くことが困難となった場合に、一定期間、雇用を維持したまま就労義務を免除する制度です。わかりやすく言うと、期間を定めての「休職」。法律上の義務はなく、企業が任意に条件を就業規則で定めることができます。休職期間中は「労務提供義務の免除」と「賃金支払い義務の免除」がセットで発生するのが一般的です。そのため、健康保険の傷病手当金が受給できるか手続きの情報提供が必要となります。また、復職のための条件、リハビリ出勤も同時に設計するといいでしょう。


・時間単位の有給休暇

1年について5日の範囲内において、年次有給休暇を「時間単位」で取得できるようにする制度。通院や検査など、短時間の離席で済む医療行為に対応する場合に有効です。通常の勤務を維持するので、賃金減少などの影響が少ないことがメリット。就業規則の規定と労使協定の締結が必要になります。


・フレックスタイム制

労働者が一定の期間内で総労働時間を調整しながら、1日の始業・終業時刻を自由に決められる制度。治療と仕事の両立においては、体調の波や通院スケジュールに合わせて働けるため、非常に有効な仕組みです。通常勤務に当たるので、業務への影響や賃金減少も限定的。就業規則の規定と労使協定の締結が必要になります。


・時差出勤

治療の副作用や体調の波により、特定の時間帯の勤務が困難な場合に、始業・終業時刻を前後にずらすことで対応する制度です。通勤ラッシュの回避によるストレス軽減、感染リスク低減などが見込めます。あらかじめ、就業規則に「時差出勤の対象者・手続き・期間」を明記することが望ましいです。


・テレワーク(在宅勤務)

従業員が自宅など会社以外の場所で業務を行う制度です。通勤負担の軽減と体調に合わせた柔軟な働き方を可能にします。通勤が体力的に負担となる場合や、治療の副作用が読めない場合に有効です。労働時間管理・業務指示・評価方法を就業規則で明確にする必要があります。


・短時間勤務

1日の所定労働時間を短縮することで、身体的負担を軽減する制度です。治療中はフルタイム勤務が難しいケースでも、労働時間の縮減による心身の負荷軽減が見込めます。「働き続けたい」という従業員の意思を尊重しつつ、無理のない就労を可能にします。就業規則に記載すると同時に、賃金・人事評価制度との整合性を事前に整理する必要があります。


・週休3日制

週の休日を1日増やすことで、治療や休養の時間を確保する制度です。賃金減少を伴う「所定労働時間を減らす型」と賃金減少を伴わない「1日の労働時間を延ばす型」があります。治療以外にも、従業員が資格取得をしたり、余暇を楽しむことができるためワークライフバランスの改善が見込めます。


・特別休暇(病気休暇)

法定外の福利厚生休暇として、企業が独自に新たに休暇を創設する制度です。慶弔、夏季、年末年始、リフレッシュ休暇などが一般的ですが、通院・治療のための休暇である「病気休暇」を設定することも可能です。育児介護休業法で子の看護休暇が年5日、介護休暇は対象家族1人につき年5日を与えられます。バランスを考えて、治療と仕事の両立に休暇を設計してもいいでしょう。


・積立失効年休制度

年次有給休暇の未消化分が失効する際、その一部を積み立てて、私傷病など特定の目的で利用できるようにする制度です。法定義務ではありませんが、両立支援の実務では非常に有効です。就業規則に積立方法・上限日数・利用条件を明記する必要があります。


・ジョブリターン制度

治療や家庭の事情で一度退職した従業員を、一定条件のもとで再雇用する制度です。治療と仕事の両立支援の観点から、近年導入が増えています。再雇用の条件(期間・職種・評価方法)を就業規則で明確にする必要がありますが、退職前の経験やスキルを活かせるため、企業側のメリットも大きいのが特徴です。



ここまで全て就業規則の変更を伴う制度設計ですが、就業規則の変更を伴わない「残業の免除」「有給休暇の取得率向上」なども治療と仕事の両立には有効です。病気の人でなくても、誰でも休みやすい職場環境作りをすると、病気を抱えながら働く人にとっても、休みやすい環境となります。治療と仕事の両立支援を導入する際には、これらの制度をぜひご検討ください。



――――――――――――――


治療と仕事の両立支援の導入手順は、「周知→研修→窓口→規則」です。この流れを丁寧に積み重ねることで、職場の中に少しずつ’’相談できる空気’’と’’支え合う仕組み’’が育っていきます。誰かが困ったときに「ここなら続けられる」と思える職場こそ、これからの時代に求められる’’強い組織’’の姿なのです。



最後に。


みなさん、

「組織の7S」は、

ご存知でしょうか?



アメリカのコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した組織の課題を整理するときに役立つフレームワークです。目に見える仕組みであるStrategy(戦略)、Structure(組織構造)、Systems(制度・仕組み)を「ハードの3S」。目に見えない文化・人の側面であるShared Values(価値観)、Skills(スキル)、Staff(人材)、Style(マネジメントスタイル)を「ソフトの4S」と言います。組織はこの’’7つの「S」’’で成立しているとするものです。そして、経営者が比較的に変更可能でコントールしやすいものとして、「ハードの3S」を挙げています。会社で働く労働者の質によって決まる「ソフトの4S」は変更しにくいものと定義しているのです。治療と仕事の両立支援は、「気持ちの問題」や「理解を深めるだけ」では実現しません。もちろん、価値観や文化(ソフトの4S)も大切ですが、実務的にはStrategy(戦略)、Structure(組織構造)、Systems(制度・仕組み)の「ハードの3S」を変えることが最も効果的です。組織を7つの要素に分けて捉えることで、「どこを変えれば組織が動き出すのか」を見える化する考え方なので、治療と仕事の両立支援を導入する際には、ご参考ください。



ナチュラルサポートの形成


相談窓口の設置、情報共有の方法、働き方の調整――どれも重要な要素ですが、実際の現場では「相談しやすい雰囲気があるかどうか」が、支援の成否を大きく左右します。制度が整っていても、「迷惑をかけるかもしれない」「こんなこと相談していいのかな」という気持ちが強ければ、相談はできません。



そこで鍵になるのが、

「ナチュラルサポート」です。



職業リハビリテーションの上での、ナチュラルサポートの意味は、「職場内において、障害のある人が働き続けるための必要な援助を、自然に、かつ、計画的に提供すること」を意味します。’’自然派生的なもの’’と’’計画的なもの’’が重なり合ったものがナチュラルサポートであるとされています。さらに洗練すると、特別な制度や役割に依存しない、日常の中で自然に行われる支援です。相談が特別な行為ではなくなる、病気や治療の話題がタブーにならない、上司だけでなく同僚にも頼れる――誰か一人の善意に依存するのではなく、職場全体で共有する“文化”に近いものです。



それでは。


どうしたら、
ナチュラルサポートができるのか?




ストレスマネジメントに

「ソーシャルサポートの4原則」

というものがあります。



個人のストレスを弱めるために、周囲からのサポートを行う方法を定型化したものです。治療と仕事の両立を考えるとき、“どんな支え方があるのか”を整理するための枠組みとして、とても役に立ちます。①から④の順に実践していくのが望ましいのですが、職場全体で働く人それぞれが、どれか1つでも実践できると職場の雰囲気は良い方向に変わっていきます。



① 情緒的サポート

不安や悩みを受け止め、安心感を与える関わりのサポートです。慰める、励ます、笑顔で対応する、声掛けをする、真摯に受け答えをする。病気を抱えて働く人は、「迷惑をかけるのでは」「理解してもらえないのでは」という不安を抱えやすい。何気ない雑談ができる。体調のことを気軽に話せる。そんな小さな事でも、病気を抱えながら働く人の支援となります。


② 情報的サポート

問題解決に役立つ情報を与えるサポートです。悩みや困難な立場であることについて、上司や同僚によるアドバイスによって、的確な指示や解決方法を与えることは、必要なサポートと言えます。相談窓口や制度の案内、利用できる休暇や働き方の説明、医療機関との連携・情報共有。例え、両立支援の知識がなくても、「ランチはあそこのお店がおいしかったよ」とか日常生活のちょっとしたお役立ち情報でも気分転換の立派な情報的サポートです。病気を抱えて働く人に情報が届くことで、「どう動けばいいのか」がわかり、相談をしやすくなります。


③ 道具的サポート

実際に手助けをするサポートです。仕事を一緒になって片付ける、生産効率を上げる設備投資を行う、人員を増やすといった’’行動のサポート’’です。気持ちの理解だけでは両立は難しく、実際の働き方を調整する行動のサポートは欠かせません。具体的には、通院日の勤務調整、業務量や担当の見直し、在宅勤務など働き方の転換などがこれに当たります。


④ 評価的サポート

仕事内容や業績などを適切に評価するサポートです。自分の働きが周囲に認められれば、自己効力感や組織への帰属意識も高まり、モチベーションの向上、人材定着につながります。小さな成果でも「助かったよ」と伝える、病気があっても役割を持てるようにする、貢献を正当に評価する。特に障害者・難病患者は、成果を低く見積もられがちという問題があります。ですから、正当な評価をしていくことが、病気のある人が’’参加している実感’’を持つための最重要ポイントです。



ソーシャルサポートの4原則は、ナチュラルサポートを職場全体で育てるための“実践の指針”になります。


・情緒的サポート → 心理的な安心
・情報的サポート → 行動のきっかけ
・道具的サポート → 実務的な継続
・評価的サポート → 参加の実感と定着


相談体制は“形だけ”ではなく“使われる仕組み”になって、初めて意味をなすものです。ソーシャルサポートの4原則を取り入れて、職場全体で「治療と仕事の両立支援」の空気感を暖めてください。



医学モデルから社会モデルへ


障害者支援の分野では、「医学モデル」「社会モデル」という2つのアプローチが知られています。



医学モデルとは。

「病気や障害の原因は、個人の心身の問題であり、個人の努力で克服するもの」とする従来の福祉の考え方です。障害を治療やリハビリで’’治す・適応させる’’ことを目指す社会です。



それに対し。


社会モデルとは。

「病気や障害の原因は個人の問題ではなく、社会や環境の側にある」とする新しい福祉の考え方です。多数派(マジョリティ)が作った仕組みなのだから、少数派(マイノリティ)の問題は考慮されていないのではないか。社会の仕組みによって、心身機能が不利に働いているので、是正していこうじゃないかというアメリカ・ヨーロッパではスタンダードになりつつある福祉支援のアプローチです。




2022年9月に国連障害者権利委員会が、日本の福祉支援が「医学モデル」に傾倒していることを指摘。「社会モデル」を取り入れることを勧告で出しました。障害者の社会参加ができていない、社会的包摂がされていないことを問題視しています。

障害者・病気の患者だから、仕事はできない。治療に専念することが「あなたのためだから」と本人の意思を無視、他人が勝手に限界を決めつけてしまう日本のパターナリズム(父権主義)が根付いている支援を強く否定しています。


昨今の法改正の動きでも、2024年の障害者差別解消法の「合理的配慮の提供」、2025年12月の障害者雇用ビジネスに係る実態把握においても、労働契約を締結した企業でない就業場所で障害者が切り離されて就業していることが本当に障害者雇用なのかと問題視されました。障害者が雇用された企業で社会参加できていない、社会的包摂ができていないことが問題となっています。近年、障害者雇用の’’労働の質’’が問題視されるようになったことも、「社会モデルへの転換」が時代の要請であることと関連付けられます。

また、個人的にも患者社会参画(Patient and Public Involvement:通称PPI)の活動においても感じるところではあります。製薬会社はかつて、医療活動に対して、患者団体と直接関わらないことが一般的だったそうです。ですが、2~3年前から方針が変わり、直接、患者の声を聴くことを重視し、積極的にPPIの活動にも関わり始めています。病気の説明文、治験の同意文書、レイサマリーなど、患者団体の声を取り入れて、患者の心が傷つかない表現に言葉を改めたり、患者団体の要望を支援に取り入れるような活動をしています。このような変化も福祉支援の国際的なトレンド変化が影響していることは間違いないでしょう。


これからの時代は病気の患者であっても、社会の一員として参加し続けることが重要視されます。



治療と仕事の両立支援の現場では、「治療に専念をして、無理をしないで」「健康な人に仕事は任せて」という善意のパターナリズムが、時に本人の社会参加を奪ってしまうことがあります。



社労士の世界も同じです。昨年、治療との両立・障害者等就労支援委員会の公募に応募したのですが、落選しました。幹部の人たちにも「推薦するよ」なんて言ってもらえていたので、自分の中で落選がどうしても納得できず、治療との両立・障害者等就労支援委員会に問い合わせのメールをしました。柔らかな表現ではあったのですが、「外部から手伝ってもらえるほうが、あなたとはゆっくり話ができる」という趣旨の内容が書かれていました。それを見たときに、すごく落胆したことを覚えています。優しい言葉や慰めが欲しかったわけでなく、僕が欲しかったものは「経験」でした。言葉にせずとも、難病があることで、限界を勝手に決めつけられているような気がして、病気のいたわりの言葉で本心を誤魔化しているように思えて、それが悲しかった。その後、東京都社会保険労務士会の多摩支部長にも抗議しました。障害者支援の委員の選考が「抽選」で行われたということもあり、難病や障害に興味がない人が治療との両立・障害者等就労支援委員になれると知ったからです。支部長からは丁寧な事情の説明があり、今回は諦めてほしいとのことでした。その中で「やりたいことがあるときこそ、急がば回れだよ」「知識はあるのに、自信がないことが誤解を招くから、もっと自信をつけてほしい」との厳しい言葉も頂きました。その言葉を聞いたとき、病気のいたわりで包み隠す保身の言葉より本音が伝わり、ありがたかったです。言葉の裏に社労士としての成長を願う意図があったと思います。支部長は問答に困ったようで、言葉を選びながらでしたが、真摯に向き合ってくれました。そのことで、今回の委員公募はもう諦めようと決心がつきました。同時に、福祉の知識がある障害者支援に携わっている人たちの言葉より、福祉の知識がない支部長の言葉のほうが救ってくれたように感じて、治療と仕事の両立支援に必要なものは、テクニックだけではないことに気付きました。


東京都社会保険労務士会の障害者の就労支援研修では、「傾聴」に重きを置いた研修を行っています。相手を否定しない肯定的な関心、自分の話す気持ちと態度が矛盾しない自己一致、そして、相手とわかりあうための共感的理解。委員会公募の後に、明らかに社労士会の中で「腫れ物」として扱われるようになって感じるのですが、その研修がテクニックに傾倒し過ぎることで、かえって、社労士の反応がわざとらしい演技をしているかのように見えてきました。相手を傷つけず、本心を見せないために、作り笑顔で、うん、うんと尤もらしく相づちで頷きますが、障害者本人の本心を理解できていなければ、意味がないのではないか。共感的理解が圧倒的に足りていないように思います。共感をするためには、その相手の背景の理解が必要不可欠です。支部長の言葉は、僕を「社労士」として見てくれたから厳しい言葉も与えてくれたのだと思います。しかし、治療との両立・障害者等就労支援委員会は、僕のことを「障害者」としか見ていないから、当たり障りのないことしか言わないのでしょう。僕は難病でずっと働けませんでした。ですから、欲しいものは「経験」です。その背景情報まで理解できていないから、ただの作り笑いと空虚な言葉で、本心を見せないように「うん、うん」と頷くことしかできないんだと感じています。


よく障害者の社会参加を妨げる見えない偏見・不安・思い込みの心理的な壁を「心のバリア」と表現します。なかなかわかりあえないんだろうな。社労士会の治療と仕事の両立支援は医学モデルに基づいたものです。病気の患者が支援者のサポートに要望を出すことをあまり快く思ってはいません。例えば、車椅子の人が相談に訪れると、できるだけ援助はせずに身の回りのことは自分でさせるようにとの一律的な指導があります。患者の残存能力を奪わないための対応だと思います。僕は患者社会参画の活動をしていて、もう10以上の患者団体と知り合っています。その中で、車椅子の患者さんも何人も知り合っているので、社労士会の対応について意見を伺ったことがあるのですが、評判が悪かったです。それこそ、事故・病気・怪我…車椅子になった原因はそれぞれなので、「一言、患者に訊いてみればいいのに」との声を聴きます。本当にその通りです。もし、社労士のプライドがあって患者に謙ることに心理的抵抗があって訊けないのなら、車椅子の社労士に意見を尋ねてみればいいと思います。車椅子の社労士の諸先輩はそれなりにいます。ですが、そういったことも聞きません。それだけ社労士会の事業に障害のある社労士が参加できていない証左ではないでしょうか。


僕はSNSをやっていて、他支部の社労士の先生には、応援をいただくことが少なからずあります。ですが、合理的配慮がないため年金特別アドバイザーを3ヵ月で辞めて以来、地元の多摩支部の社労士からは避けられるようになりました。また、治療との両立・障害者等就労支援委員会の公募に落選して以降、障害者支援に携わる社労士からも「腫れ物」として扱われるようになりました。過少配慮と過剰配慮の間で揺れています。障害者雇用の現場でよくある話なのですが、経営者トップが障害者雇用を決めても、現場が煩わしさから引き受けたくないと強い抵抗にあうことがあります。「障害者雇用の総論賛成・各論反対」なんて言います。現場任せの対応でノウハウもなければ、マニュアルもない。障害者の隣で最も接する人が不安と恐怖に駆られて消極的だということも多いと思います。逆に障害者と物理的な距離が遠い人ほど、自分が面倒を見ないために、社会的に素晴らしいことじゃないかと積極的になります。障害者を取り巻く「支援のドーナツ化」とも言える現象です。社労士会の中でも同じ事が起きているように思います。どうしてこのようなことが起きるのかと言えば、障害者支援が「主観的な優しさ・思いやり・助け合い」に頼る個人的なものであるからだと言えます。防ぐためには、社会全体、職場全体で障害者支援を捉える「客観的な体制・制度・仕組み」づくりが必要です。東京都社会保険労務士会もまた、障害のある社労士が団体の活動に参加するためのルールはまだありません。自分たちができていないことを他人に勧めているのが、今の社労士会だと思います。


僕は今のままでは、「社労士が治療と仕事の両立支援のメインストリームにならない」と断言できます。


就業規則の作成・変更、障害年金の申請という有利な独占業務を持っていても、難関資格を合格したせいか、天狗になっている人が多く、病気の患者の気持ちを理解できていないからです。保健師、看護師、社会福祉士…治療と仕事の両立支援に携わりたい職業の人はたくさんいます。その中で、患者に共感するということは劣っているんじゃないかと感じます。


病気を抱えながら働く人が「自分も社会の一員として参加している」と実感できたとき、治療への意欲も、仕事へのモチベーションも高まります。支える側と支えられる側の「Give & Take」が治療と仕事の両立支援成功の鍵となります。これは特別な支援ではなく、社会モデルが示す’’環境を整えれば、人は自然と力を発揮できる’’という当たり前の結果です。誰もが排除されず、役割を持てる職場をつくることこそが、企業にとっても社会にとっても持続可能な社会的包摂の第一歩になるのだと思います。





最後に、ご報告。



2026年2月25日付で、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)の資格を取得しました。

ジョブコーチとは、企業と障害者の間に立って、職場定着の支援をする専門家です。もちろん、僕もジョブコーチとして障害者の職場定着の支援をしていきたいと思っているのですが、社会保険労務士の資格と組み合わせて、企業の’’障害者雇用の導入設計’’、’’もにす認定の取得’’と障害者雇用に理解のある職場を増やして、ジョブコーチが活躍できる場を増やしていくことも自分の役割なんじゃないかなと思っています。また、個人事業主がジョブコーチの資格を取得させてもらえることが非常に稀なことのようで、尽力いただいた障害者職業センター、ジョブコーチネットーワークの皆様には、深く感謝申し上げます。



さらに。

2026年1月28日付で、治験アンバサダーの資格も取得を致しました。

医薬品の正しい知識に基づき、患者目線で治験(新薬開発)の意義や理解を広める案内役です。患者側の声を製薬企業や研究者に届け、患者中心の治験環境を向上させる役割があります。日本の社会保険労務士で初めて就任させていただきました。難病の定義の1つに、「根本的な治療法が確立していない」ことがあります。医療技術の進歩に貢献することは、難病患者のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上につながる上、患者の尊厳や人権を守ることにも役立つと思います。主催のYORIAI Labさん、本当にありがとうございます。これからYORIAI Labさんの活動にも協力していくつもりです。



今回もブログを

最後まで読んでいただき、

ありがとうございました。




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