小説・自己中恋愛ラプソディ⑭
そういえば、シャイだったはずの雅史が「愛してる」なんて歯の浮いたセリフを何の抵抗もなくいうようになったのはいつからだろう。7年の間に変わったことを考えた時、たどり着いたのは婚約者の存在だった。婚約者は口癖のように「愛してる」というので、それに応えるうちに馴染んでいたのだ。
「ぼくもちょっとは変わったんだよ」雅史はごまかした。「愛が嫌なら──そうだな、大事に思ってるよ」違うことばで言い表そうとすると、とっさにそれしか思いつかない。
「ありがとう」次は受け取ってくれたエリは続けた。「雅史くんのこと、少しだけ待ってる。来なくてもいいけど、1人で勝手に待ってる」そのことばは雅史に向かってというより、自分に対する決意表明のようだった。
それに対して雅史はイエスともノーとも言えずに終わった。
駅の改札前。エリが手を放そうとしないので、すぐ近くまで雅史は着いてきたのが、ようやく立ち止まって手を離すとエリはこちらを向いた。
雅史が別れのあいさつを探していると、エリがおもむろにジャケットの胸元あたりを両手でぐいっと引く。少し前のめりになった雅史にキスをした。
エリからの、そしてふたりにとって2度目のキスは、数年前と同じようにごく短く触れただけのさっぱりしたものだった。
「愛してるよ」わざというとエリは笑った。
すべての思いを託したまなざしを雅史の深部へと届けるかのように、瞳をじっと見つめてくるエリ。3秒ほどだったかもしれないが、雅史は数分のように感じた。
ぱっと手を離し「じゃあね」と片手を挙げてくるりと方向転換すると、エリは改札の向こう側へと、振り返ることもなく消えていく。その様子を最後まで雅史は見送った。
友人との待ち合わせを思い出し、とぼとぼとその場を後にする。結婚まで約1年。エリとの時間はもう少し続く気がする。
<パラレルなエピローグ>
①ギリギリまで続くだろうと思われたエリの関係は、3か月も経たないうちに幕を閉じた。エリは去り、雅史はそれを受け入れた。
②決断の時は間もなくやってきた。いや、雅史はあのエリと別れた瞬間に思いを決めていたといってもいい。エリと一緒に生きていきたい。
ほかにも色々書いてますので、よろしければ読んでみてください。
