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趣味のデータ分析111_都道府県別NISA口座開設率③_何が影響しているのか?

前回前々回と、NRIの金子氏の、都道府県別NISA口座開設率の分析を批判的に検証した。109では、金子氏の分析は、手法的にも解釈的にも、小さくない問題があることを定性的に述べ、110では仮に金子氏の分析手法を正しいと仮定しても、結果は頑健でないことを示した。

では、実際にNISA口座開設率に影響しているのは何なのか?金子氏は年収と業種構成比が影響しているという仮説のもとで分析しているが、他にどういった要因が影響してそうか?
今回は、そのへんを単回帰で簡単に確認していく。



影響がありそうだった要素

今回は、影響がありそうな要素として下記のデータを用意した。

  1. 収入(2023年 or 2025年)

  2. 学歴

  3. 金融資産額

  4. 一次産業構成比

  5. 黒字率

  6. 未婚率と単身世帯率

  7. 純資産額と住宅ローン、持ち家率

  8. 金融リテラシーの高さ

  9. 二次産業、三次産業、公務その他の構成比

そして、これらを年齢別に単回帰(補足1)し、その決定係数を確認する、という形で、都道府県別NISA口座開設率の決定要因を探っていこう。
実際には、1つの説明変数につき1つの散布図で、20~50代の全年齢区分を示して、散布図上で単回帰の結果をお見せする形となる。回帰曲線の式も示しているが、かなりわかりにくいので、まとめの節でも再掲する。ざっくり、影響がありそうなものとなさそうなものの2種類に大別される。

①収入

影響がありそうな要素の筆頭は、年間収入である。これは実質110で分析した以上の話はないのだが、年代別の比較は初出なので、こちらで確認しておこう。2023年と2025年のデータで相関を見ている。
決定係数を見ると2025年のほうが大きいが、絵的には2023年も大して変わらない感じである。一番低い20代では決定係数は0.25程度で、これは流石にちょっと低い感じ。ただ、他の年代では、2023年データでも0.3~0.4、2025年では0.4~0.6超えと、かなり決定係数が高い。単回帰だけみれば、NISA口座開設率と年収には十分関係があるといえる
20代の傾きが比較的緩いが、これは逆に、年収が増えるとNISA口座開設率が上昇しやすいことを示している。この場合、50代のほうが、年収が増えてもNISA口座開設率が大きく伸びるわけではない、ということになる。

図1:平均年収(2023年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、賃金構造基本調査)
図2:平均年収(2025年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、賃金構造基本調査)

②学歴

次に相関が強かったのは、学歴。まあ、学歴は収入と直結しているので、実質収入と同じといえるかもしれない。ただ決定係数は、20代で0.28、それ以上は0.54~0.68と、2025年の年間収入よりもさらに大きいレベルとなっている。

図3:学歴(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、賃金構造基本調査)

③金融資産額

つぎは、これも結構当たり前かもしれないが、金融資産保有額(グロス)も、NISA口座開設率と相関が強い。ただ、どの年代でも年間収入よりも決定係数は低く、20代に至っては決定係数は0.02と無相関である。まあ、この金融資産保有額は平均値で、おそらく相当にブレが大きい(千円単位を円単位に記入をミスったやつが一人でもいると、データが終わる)。中央値の推計をしたかったのだが、残念ながら分布は公開されておらず、推計もできなかった。

図4:金融資産額(2019年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、家計構造調査)

④一次産業構成比

影響がありそうな要素の最後は、110でも安定して高い有意性を示していた一次産業構成比である。全年代で、明確なネガティブ相関を示している。
30代で特に決定係数が高い(0.52)。そして、20代は相変わらず、他年代と比べると低い決定係数である(0.21)。

図5:一次産業構成比(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査)

影響がなさそうだった要素

後半は、影響がなさそうだった要素たちを挙げよう。

⑤黒字率、黒字額

家計構造基本調査の勤労者世帯あたり黒字率とNISA口座開設率は、実質相関がない。というか、そもそも黒字率の都道府県別データにブレが大きい。何だよ▲40%って。まあいずれにせよ、相関がほぼないのは間違いない。
黒字額だともうちょっと相関が高くなり、特に20代が最も高い。とは言え決定係数は最大0.25、30代と50代は0.08程度にとどまる。マクロで見る限り、「家計に余裕があるから投資する」という感じではないようだ。

図6:黒字率(2024年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、家計構造調査)
図7:黒字額(2024年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、家計構造調査)

なお、内閣府で、家計調査を用いた全国ベースの分析をしており、それをみると、年齢差というより、年収別で有価証券購入額に差がありそうなことが時系列で示唆されている。

⑥未婚率と単身世帯率

未婚率、単身世帯率は似たような概念だが、これもほぼ相関はない。二人以上世帯になる=ライフステージが変わるとNISA口座開設率が上がるのでは、と思ったが、これまたそのような状況は確認できなかった
一応30代では、単身世帯率が高いとNISA口座開設率が高くなっているが、これは仮説とは逆の動きになっている。

図8:未婚率(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査)
図9:単身世帯率(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査)

⑦純資産額と住宅ローン、持ち家率

住宅絡みで、純資産と住宅ローン、持ち家率との相関を確認してみた。仮説としては、住宅ローンがある=持ち家率が高い=純資産が低いと、余裕資産が少なかったり、負債返済に先に資金を回したりするので、NISA口座開設率が高いのでは、というもの。
結論的には、純資産額は30代では相関がありそうだが(決定係数0.31)、それ以外では事実上相関がない。住宅保有とNISA口座開設率の間に関係があるとは言えない

図10:純資産額(2019年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、家計構造調査)
図11:住宅ローン保有率(2019年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、家計構造調査)
図12:持ち家率(2023年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、住宅・土地統計調査)

⑧金融リテラシーの高さ

色んなところで投資行動との相関が示唆されている金融リテラシーだが、少なくとも都道府県別年齢別NISA口座開設率との相関はかなり弱い。
「金融リテラシーが向上すればNISA口座数が増加する」という仮説は、マクロデータからは、ほとんど支持されない。金子氏の、一部の業種では「情報接触機会が限られ金融リテラシーの習得が進みにくい」故にNISA口座開設率が低いのでは、という仮説は、この観点でも根拠薄弱である。

図13:金融リテラシー(2025年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、金融リテラシー調査)

⑨二次産業、三次産業、公務その他の構成比

最後は、4業種区分で分析したときの、一次産業以外の壮観である。二次産業はまちまち、三次産業はポジティブ、公務その他はネガティブという傾向はあるが、相関係数はいずれもかなり低い。
実質的に業種として影響があるのは、一次産業だけだと思われる。

図14:二次産業構成比(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査)
図15:三次産業構成比(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査)
図16:公務その他構成比(2022年)とNISA口座開設率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査)

まとめ

今回は、都道府県別年齢別NISA口座開設率と、同様に都道府県×年齢でデータ取得可能なさまなざまなデータとの単回帰を確認した。結果、案外決定係数が高いデータは少なく、住宅保有率や金融リテラシーの高さも、大した相関は見られなかった。高いのは、収入、学歴、粗金融資産保有額、そして一次産業構成比である。前3つは多重共線性も発生してそう。
また相関が高いグループでも、20代では決定係数が低く、30~40代が高い傾向がある。そして50代はちょっと低い。この辺の要因も謎である。

図17:NISA口座開設率と各種指標の決定係数
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査、家計構造基本調査、住宅・土地統計調査、金融リテラシー調査)
図18:NISA口座開設率と各種指標の相関係数
(出所:金融庁、人口動態調査、就業構造基本調査、家計構造基本調査、住宅・土地統計調査、金融リテラシー調査)

まあそもそも、NISA口座開設率は50代より30代が高いという傾向があり、年収等よりライフステージやリスク選好(時間選好)などが影響している可能性は十分ある。
となると、こういったマクロデータでの相関では、NISA口座開設率を上げるための十分な施策提案は出来ない可能性も高い(逆に、今回検証したデータで相関がなさそうとしたデータ群も、ミクロでみれば相関が出てくるかもしれない)。というか、選好の問題だと、政策的操作変数ではない可能性すらあるが。

本当は今回、「都道府県別ではデータ取れるけど年代別ではデータが取れない」データ(県民経済生産やインターネット使用率、金融機関密度)でも分析してみようかなと思ったが、金融機関密度などはデータを取るのが大変だったし、年齢別でのNISA口座開設率に大きな差がある中、年齢別データを使用しないのは微妙かな、と思った。
というわけで、金子氏の分析をネタにした分析はここまで。次回で小括とする。


補足、データの作り方等

分析自体はNRI。データの出所は、NISA口座開設率について金融庁人口動態調査、年収について賃金構造基本統計調査
業種構成比、未婚率、学歴について就業構造基本調査。未婚率と学歴については本来は国勢調査が望ましいが、2025年の国勢調査の結果がまだ公表されていないので、2022年のデータが使える就業構造基本調査を用いた。ただ、単身世帯率は国勢調査以外ではデータがなかなかないので、2020年の国勢調査を用いた。
黒字率・黒字額は2024年の全国家計構造調査、住宅ローンと金融資産の額や保有率は、2019年の全国家計構造調査のデータを使用した。これは、現時点では2024年の家計構造調査では収支データしかなく、資産負債データは未公表のため。黒字率は、「(実収入―実支出)/可処分所得」で計算している。
持ち家率は2023年の住宅・土地統計調査。金融リテラシーについては、金融リテラシー調査の2025年のデータを用いた。


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