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趣味のデータ分析109_都道府県別NISA口座開設率①_金子氏の先行研究

2025年11月、金融庁から、2025年6月時点の、都道府県別年齢別のNISA口座開設数のデータが公表された。

これまで公表されていない新データで、都道府県別年齢別のデータがあると、結構色々な分析ができそうなものだが、瞥見の限り、NRIの金子氏以外の3本の分析以外に、きちんとした分析をしている人がいなさそうな感じ。

そして、金子氏の分析の本丸はおそらく2つ目(3つ目は2つ目の実践例のようなもの)だと思われるが、この分析が、正直結構微妙である。
というわけで今回からしばらく、金子氏の分析を批判的に検証しつつ、NISA口座の都道府県別年齢別開設率について、追加的な分析をしていきたい。今回は、金子氏の分析を紹介しつつ、その問題点を指摘する。



金子氏の分析概要

金子氏のNISA分析シリーズ

まず上述のとおり、金子氏の分析は3種類ある。以下、公表順に①、②、③と呼ぶ。

  1. 2025年11月20日公表の「初めて明らかになったNISA普及の地域別実態 -政府目標達成への示唆-」

  2. 2026年1月27日公表の「NISA普及における地域間較差の要因分析」

  3. 2026年3月23日公表の「東京都と青森県の比較に見るNISA普及較差の要因と職場における投資教育の意義」

①は、都道府県別のNISA口座開設数を、年齢別の都道府県別人口で割返して、都道府県別のNISA口座開設率を計算したうえで、(割と直感的に)カテゴリ分けしたものである。その意味では、結構他愛のない分析である(超失礼)。
②は、①で求めた都道府県別のNISA口座開設率を被説明変数に、収入等を説明変数にして重回帰分析を行っている。この3つの分析の中では、最も分析らしい分析であり、本稿での主たる批評対象である。
③は、②の回帰結果を具体的に適用したもの。②の分析の解釈の話でもあるので、今回合わせて検証対象としたい。

②の分析内容

さて、では②の分析について検証をしよう。まず触れておきたいのは、金子氏は、(コンサルの分析にしては珍しく)そのデータ源や手法についてもかなり詳細に公表されており、今後の検証や分析の復元も、そのおかげで実現できている。

②の分析は、比較的シンプルな重回帰分析で、被説明変数に、都道府県別年齢別のNISA口座開設率、説明変数にa. 都道府県別年齢別の年収、b. 都道府県別年齢別の業種グループ割合、c. 年齢階級ダミーをおいている。就業者を分析種対象としている関係上、年代は20~50代に絞っている。年齢ダミーは要するに、収入や職種とは関係ない、「ライフステージとしてのNISA口座開設率の変動」とみなすことができるだろう。
回帰式は図1、業種グループの仕訳は図2のとおり。

図1:金子氏の重回帰式
(出所:NRI)
図2:重回帰式における職業分類の詳細
(出所:NRI)

回帰の結果は次の通り。モデルⅡは、モデルⅠの年収と業種構成比について変数を正規化したうえで分析したものなので無視してよい。本体はモデルⅠである。
自由度調整済み決定係数は0.7626で結構高い。また収入の係数は、「地域の平均年収が100万円上昇するとNISA口座開設率は約1.53%ポイント上昇する」程度。金融・不動産業の構成比が1%ポイント上昇すると、NISA口座開設率も0.98%ポイント上昇することや、30代になるだけで同じく8.47%ポイント上昇することと比較すると、結構小さいように見える。

図3:重回帰の結果
(出所:NRI)

なお、多重共線性(VIF)についても確認されており、「年代ダミー変数のVIFが10を超えていた」が、「他の説明変数のVIFは10未満であり、年代ダミーも高い有意水準を維持していることから、本分析の結果は解釈に耐えうる信頼性を持つと判断した」とのこと。

図4:重回帰式の多重共線性
(出所:NRI)

最後に、全都道府県別でのこの回帰式(理論値)と実績値との乖離を示したのが図5となる。赤が実績値>理論値、青が実績値<理論値の地域である。

図5:都道府県別の回帰理論値と実績値との差
(出所:NRI)

③の分析内容

③は、②の分析を、口座開設率最高の東京都と、口座開設率最低の青森県に絞って、その差分を要因分解したものとなる。これを見ると、まず両都県のNISA口座開設率の(20~50代の加重平均の)差は36.3% vs 20.2%の16.1%。うち、a.平均年収の差は3.0%で、b.職業構成の差が11.6%と、実に4倍近い影響度の差がある。金子氏によれば、「両都県の較差の大部分は「年収の差」ではなく、単純に「どのような仕事に就いている人が多いか」という産業構造の違いによって決定づけられている」という。

図6:東京都と青森県のNISA口座開設率の差分の分解
(出所:NRI)

職業別の影響度の差を示したのが次の図で、プラスの影響を及ぼすIT・教育・インフラでうち半分近い5.3%、逆にマイナスの影響を及ぼしている運輸・一次産業で3.3%の差分を生んでいる。

図6:東京都と青森県のNISA口座開設率の差分の分解(職業別詳細)
(出所:NRI)

以上が金子氏の分析の概要である。


金子氏の分析の問題点

さて、以上の分析には、いくつか大きな問題がある。以下で3つ指摘したい。

①年齢ダミーと多重共線性

図3をよく見ると、観測数が188となっている。つまり、47都道府県×4、縦に20代~50代の、都道府県別年代別のa. 平均年収とb. 職業別構成比を並べ、更にc. 年齢階級ダミーを設定している。
aもbも、各年代の平均値になっており、分析的には年代別で個別に回帰しても良さそうなものだが、おそらくサンプルを増やすために、全年代を一括して回帰したうえで、ダミーを追加したのだと思われる。

次に、金子氏の分析でも言及されている多重共線性(VIF)について触れておこう。
多重共線性がある場合、各変数の影響が共振してしまい、回帰の結果の解釈などがかなり難しくなる。そして今回の分析で言えば、ミクロならともかく、平均値でみてしまうと、年収と年齢には明らかに多重共線性がある。そのため、年収の変化による影響と年代による影響が区分できなくなり、片方の影響が片方に「吸収」されてしまう可能性がある(具体的な解説は補足1)。

金子氏の分析では、図4で多重共線性についても検証した、としており、確かに年齢と年収以外の関係は多重共線性が10以下と、分析上は問題ない水準になっている。ただ金子氏の分析は、③で見るように個別の変数の影響度を抽出しており、そうした場合、この平均年収と年齢ダミーの多重共線性は、かなり重大な問題になると思われる。そもそも年齢と年収で多重共線性があると、少なくとも両者の回帰係数の解釈に大きなブレが出ることは、金子氏の主張上も間違いないはずなので、自由度調整済み決定係数の高さでヨシ!していること自体が不思議。

②業種とNISA口座開設率に関係はあるのか?

金子氏の分析では、業種とNISA口座開設率に関係があるという前提で議論されているが、その根拠については、「勤務先の業種と投資意欲との関連については、職域金融サービス関係者の間で以前から指摘されてきた」としか言及がなく、ごく薄弱である。

個人の(勤務先)業種と投資行動に関する論文は、瞥見の限りではあまり見つけられなかった。例えば森(2017)では、記述統計量でざっくり分析(私が普段やっているのと同じような分析)をしているが、説明変数にしているのは農林漁業従事者比率だけで、それ以外の職業構成比が影響しているかについては分析されていない。またBetermier et al. (2012)では、「賃金のボラティリティが高い業種に転職すると、リスク性資産の割合が減る」という、直感的にも正しそうな分析がなされている。ただしこれは、スウェーデンの分析であるのと、金子氏の分析では、年間収入が比較的安定していると思われる「公務」でも、同じレベルでNISA口座開設率にネガティブな影響があり(図3)、これだけでは説明できない要素があるように思える。

逆にいえば、これ以外には、イマイチ業種と個人の投資行動に関する分析を見つけることができなかった。そもそも金子氏の分析における職業区分けも恣意的で、運輸と一次産業を一緒にカテゴライズする根拠も薄弱だと思う(一次産業、二次産業、三次産業くらいならまあ……)。
業種と投資行動の相関がないというつもりはないが、業種と年収の間の相関もあるし、「相関あるでしょ」という前提で分析するにはちょっと危うい気がする。

③データが古い

理由はよく分からないが(補足2)、金子氏の分析での「平均年収」は、2023年の賃金構造基本調査を用いている。実際には、金子氏の分析が公表された時点でも、2024年時点のデータは公表されており、NISAの調査結果も2025年6月時点のものなので、少なくとも2024年のデータを使うのが筋なのではないか。
少なくとも、2023年のデータを使う積極的な理由はない


まとめ

今回は、金子氏のNISA口座の地域別開設率をネタに解説してみた。金子氏の分析が直ちに誤り、というわけではないが、正直、後半で触れた通り、分析手法、データについては真に受けると事故りそうな内容になっている。大学学部レベルの論文でも結構怒られるんじゃないだろうか。
上記で触れた以外にも、以下のようなツッコミどころがある。

  • ③で、東京都と青森県の差分を、業種別などの影響に分解しているが、図6にあるとおり、対人支援・生活サービス、小売・一般サービス、製造・建設は5%有意ですらない。ので、③の+11.6%というのはそれを考慮する必要がある。有意じゃないものを除いても、数字が大きく変わるわけではないが、「+11.6%の内容」は変わってきうる。少なくとも、「業種別の影響合算」と簡単にまとめるのは少々迂闊だと思う。

  • ③では、理論値(回帰推計値)と実績値の差を「地域固有の差」としている(図6)。③の末尾では、下記のような注記がある。

……年収や業種構成といった構造的要因だけでは説明しきれない、両都県が持つ「地域固有の特性(残差)」による違いとして現れている。

NRI(2026),東京都と青森県の比較に見るNISA普及較差の要因と職場における投資教育の意義

こういうのは「地域固有の特性」とは通常言えない。回帰残差は回帰残差であって、その理由もホワイトノイズか他の隠された変数の影響なども十分考えられる。せめて時系列でパネルデータ化したうえで固有効果として分離するとかしないと、「地域固有の特性」と呼ぶことはできないだろう。
さらに、図6では理論値のことを「本来期待される口座開設率」としている。これはさらに容認しがたい表現だ。せいぜい「理論的に予想される」くらいであって、何も「本来」ではない(念の為英語でも確認したが、やはりこういう理論予想値はfitted valueかpredicted valueであり、「本来期待される」というのは、直感的な表現としても学術的な表現としても、かなり不適切だと思う)。

  • ③ではさらに、下記のような記述がある。

分析が示す通り、投資意欲や金融リテラシーは個人の資質や所得の多寡だけで決まるのではなく、所属する業界や職場の環境(日常的な情報接触機会の有無)に強く依存している。……従業員の日常的な活動拠点である「職場」において、企業側が意図的に教育の機会(情報との接点)を提供することが、社会全体に広がるNISA普及の地域間・業種間較差を縮小するための最も有効な解決策となるのである。

NRI(2026),東京都と青森県の比較に見るNISA普及較差の要因と職場における投資教育の意義
太字は引用者

だが、上記、及び今後分析で示すとおり、本分析には明らかな限界があり、結論からいえば、図6で示されるような、業種が収入の4倍近い影響があるとは認めがたい。そもそもBetermier et al. (2012)で触れたとおり、業種別にNISA口座開設率に差があるとしても、それは合理的な選択の可能性がある。本分析では、業種別の影響の要因が、金融教育の機会の差であることも、全く示されていない
その場合は「(特定の業種に対して)意図的に教育の機会」を提供してNISA口座の開設を促すこと自体がナンセンスである可能性がある(これは金子氏の分析というより、「貯蓄から投資へ」という政策自体がナンセンスであることに起因するが、これについては別シリーズで深堀りしたい)。

次回は、金子氏の分析を復元するとともに、仮に手法がほぼ同じでも、少しデータを変えれば、全く異なる結果になることを示す。


補足、データの作り方等

分析自体はNRI。補足のデータの出所は金融庁人口動態調査賃金構造基本統計調査

補足1:年齢階級ダミーがノイズになる場合

年齢階級ダミーが、事実上機能しないパターンについて例示しておく。
例えば下記のようなデータがあった場合、ABCとDEを別々に見ると、なんとなく収入とNISA口座開設率には相関がありそうな感じがする。他方で、30代ダミーが0か1かで、明らかに収入の水準間に差がある。このとき、NISA口座開設率の上昇が、収入の影響なのか30代ダミーの影響なのか、区別が出来ない。この場合、収入と30代ダミーに「多重共線性が発生している」という。
このときの推計結果は、そもそも回帰式の有意性が低いことが多いが、その点は一概に言えない(有意性と多重線形性の問題は別)。有意となる場合もあるが、いずれにせよ収入の影響か、30代ダミーの影響か、原理的に区別は出来ない

表1:説明変数間で多重共線性があって区別が出来ないパターン

区別ができる可能性があるのは、例えば下記のような場合。ABCとDEの間での収入の差が小さく、この場合は30代ダミーの影響を区分できる。つまり、30代ダミーが0のグループと1のグループで、収入にあまり差がない場合(そうしたサンプルが十分ある場合)、収入と30代ダミーの影響を分離しうる、ということだ。

表2:説明変数間で多重共線性が小さく区別できるパターン

そのうえで金子氏の分析で用いている、収入とNISA口座開設率の散布図を見ると、20代と30代で、収入についてデータが重複している範囲がごく少ないことが分かる。20代最高収入の東京都(4,035千円)より、30代の収入が低いのは10県しかない。他方、30代最高収入の東京都(5,480千円)より、40代の収入が低いのは37道県、40代最高収入の東京都(6,556千円)より、50代の収入が低いのは45道府県もある。要するに東京が高すぎるのだが、ともかく40代以上では、それ以下の年代と、都道府県別で収入額に重複が大きく、よって収入とダミー変数の影響を区別しやすい。逆にいえば、その区分がしにくい30代は、その影響が過大または過少に推計されている可能性があるのだ。

図7:平均年収とNISA口座開設値率の関係
(出所:金融庁、人口動態調査、賃金構造基本統計調査)

補足2:金子氏が2023年の賃金統計を使用した理由

これは完全に邪推だが、賃金データの出典である賃金構造基本統計調査(賃構)は、2023年までなら、データベース形式で必要な都道府県データを一括出力できるが、2024年と2025年のデータ(2025年のデータは金子氏の分析②の発表後に公表)は、24個のエクセルからデータをちまちま取り出す……という作業が必要になる(参考)。
金子氏が、調査時直近だった2024年ではなく、1年古い2023年の賃構データを使用したのは、上記の通り、2024年データは一括取得できないのが面倒くさかったからじゃないか、と個人的に思っている。要するに、サボりである。邪推だけど。


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