トマス・フミモテの、World Crazy Wars Report。戦場Ⅵ:UKーー知識人の涙と大衆のゲップと陰謀のスパイスが混じった紅茶
わたしの名前はトマス・フミモテ。世界でいちばん臆病なジャーナリストです。Yes, I’m scared。very scared。わたしはグレイト・ブリテンが恐ろしい。ジェントルマンぶった格好と、自虐ジョークに騙されてはいけません。あんな恐ろしく、しぶとい国はありません。すべて歴史に記されています。ところがそのイギリスがここ数年でスウィングしている。ここが見どころです。わたしが解説しましょう。ご安心ください、わたしはけっしてあなたに日本の国際政治解説者の水戸黄門アキラ・イケガミみたいな気の抜けたエールを注ぐつもりはありません。
アメリカ人のわたしから見れば、ブレグジット後のUKは「アメリカより小さく、しかし同じくらいバカ」。だからわたしには判断がつかないんです。これは「歴史の必然」なのか、「愚か者の祭典」なのか。当時Prime MinisterだったDavid Cameronに無念を聞くべきか? Boris Johnsonの二日酔い vomit をのぞき込むべきか? それともJohn Lydonに “Punk still matters, mate?” と問いかけるべきか? 正解はありません。わたしはフィッシュ&チップスを齧りながらエールで流し込みます。しょせん他人事ですからね。Oops, sorry.
ただ、わたしだって一応 “ニューヨーカー・イン・UK” としての現地体験はあります。ピカデリー・サーカスそばのWaxy O' Connor's(アイリッシュ・パブ)でギネスを飲み、「This is the real thing!」とうれしがっていたら、隣の酔っぱらいに絡まれました。 “Ye’rr an Amer’can, roight? Nine-eleb’n, dat waz all staged, innit?”(おい、ヤンキー、9/11は自作自演ちゃうんか?) あの強烈なダブリン訛りは、果たしてEnglishなんでしょうか。臆病者のわたしは「Yes, maybe…」とつぶやいて、toilet に逃げ込むしかなかった。
いくら田舎者の酔っ払いとて、こんなことを言ってはいけません。 なぜなら、わたしにとって9/11は冗談では済まされないのです。あの日、わたしはニューヨーク市立大学(CUNY)の入学式直前の新入生でした。ブルックリンのキャンパスから、遠くマンハッタンにそびえるツインタワーの黒煙を見た。秋の青空を裂くような煙でした。あれは、臆病者のわたしが政治学と歴史学を学びはじめる「入学式の鐘」でもあり、同時にトラウマの火ぶたでもありました。だから、くだらない酔っ払いの conspiracy joke (陰謀論的ヨタ話)は、わたしの心臓を直撃するのです。
……Let's get back to the main topic.ブレグジット前夜のUKメディアは完全なるカオス。知識人 vs ポピュリズムの伯仲勝負を、わたしはまざまざと見ました。わたし、息を吞みました。ハラハラしました。BBCは “impartial” を装いながらも、結局は専門家残留派の偏りを隠せず、怒号に押し流された。David Dimblebyは、英国版・ソーイチロウ・タハラ。討論番組”Question Time”で質問を仕切るけれど “Next question, please” で庶民も知識人も斬り捨てる。その結果? BBCは公正を装ったままポピュリズムに敗北。あぁ、UK、おまえも負けたのか。臆病者のわたしには、それは知識人が自分の首を絞める公開ショウに見えました。
The Times(中道右派)は当初残留支持でしたが、世界的メディア王のRupert Murdoch所有という事情もあって、微妙なバランスを取り続けました。骨のある編集長のJohn Witherowは、読者層の分裂を察知し、編集の意地として両論併記を貫こうとしましたものの、しかし、それがかえって優柔不断に映りました。勇気を持ってキーボードを叩いていても、でも、エディターも辛いんですよ、社の意向がありますからね。
The Guardian(左派)は一貫して残留派でしたが、皮肉なことに労働者階級読者の多くが離脱に投票する現実に直面しました。左派インテリのコラムニスト、Polly Toynbeeは涙ながらに書いたもの、「労働者階級に裏切られた!」知識人の彼女の失望はわかりますけどね、でも、わたしはこの人のお友達にはなれません。
Financial Timesは経済合理性から残留を主張し続けた。しかし、編集長のLionel Barberが後に認めたように「シティの論理が地方に通じなかった。」でも、わたしはおもいます、地方どころかロンドンの庶民にも通じませんよ。
The Telegraph(保守派)は複雑でした。Boris Johnsonが離脱派コラムニストとして活躍する一方、編集部は分裂していました。わたしに言わせれば、ボリスはロック・スターみたいなブロンド・ヘアで現代のバイロンを夢見る野心家。ボリスは元ロンドン市長を経て、2019年から2022年までPrime Ministerまで務めた癖に、でもボリスはA Half-Serious Man、話をおもしろくすればいいってもんじゃありませんよ。結局UKがどうなったか、見てくださいな。勝利の美酒に酔ったのはつかのま、その後はえんえん二日酔いでしょ。いいえ、不屈の男ボリスはけっして負けないにしても、しかしUKはあなたほどタフじゃない。
The Sunは「太陽が昇る、EUに別れを告げよう」の見出しで離脱を煽り、移民問題を前面に押し出しました。編集長のTony Gallagherは、かつてBoris Johnsonとジョギングした仲であるのみならず、読者の「置き去りにされた感」を的確につかんでいました。つかめばいいってもんじゃありませんけどね。
Daily Mailの編集長は「裁判官が国民の敵」という派手な見出しで、EU離脱を阻もうとする司法を攻撃。ま、しょせんデイリー・メイルもThe Sunも、UKの東スポですから、そのくらいのことは言いますよ。でもね、タブロイド紙は自説のキャンペーンをしつこく繰り返しますから、けっしてバカにはできません。(読者もバカとはいえ。)
コメディ界では、「Have I Got News for You」のIan Hislopが離脱派を皮肉り続ける一方、「Little Britain」のMatt Lucasは労働者階級の複雑な感情を表現しようと試みた。わたしの友人のUK expertの才媛も言ってます、「Matt Lucasは非政治的側面から政治力持ってるね、かれはわたしの一推し。」
音楽界では、Stomzyのようなグライムアーティストが若者の政治離れに警鐘を鳴らす一方、Paul Wellerのような年配ミュージシャンは自作の歌、"Jumble Queen"で複雑な心境を歌にした。
どうです? UKのカオスっぷりがわかるでしょ。なお、UKのEU離脱には、選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカが関与したことも発覚しました。しかし、結局のところ、そもそもUKは寄せ木細工の国家。イングランドとスコットランド、アイルランド、中産階級と労働者階級――それらを知識人が必死に糊でまとめてきた。鉄の女Thatcherをおもいだしましょう。しかし、サッチャーはもういないし、またいたとしてももはやいまのUKをまとめられるわけがない。寄木細工は、ポピュリズムの熱でその糊が溶け落ちてしまったから。
アメリカならば「Congrats, idiots!」で済みますよ。だがUKは違う。知識人と大衆の伯仲勝負の末、知識人が敗れた。その敗北感は、わたし自身が “コウモリ人間”――知識人とポピュリズムの間をコウモリのように漂う存在――であることをいやでも意識させます。
いや、わたしのことはどうでもいい。UKは世界一しぶといバカ国家でもある。第一次世界大戦で没落して当然だったのに、しかし、MI6、英連邦、シティの金融魔術を駆使して “We are still here” と居座り続ける。臆病だからこそ陰謀をめぐらし、臆病だからこそ自虐ジョークで没落を演じながら、しぶとく生き残る。 いまのUKとは、「知識人の涙と大衆のゲップと陰謀のスパイスが混ざった紅茶のカップ」である。わたしはその湯気を嗅ぎながら、怯えて、笑って、しゃべり、書き続ける。 そして、臆病者のわたしは、祈ります。 God save the Queen? No, God save me.Amen.

