文車妖妃のアルエさん⑤
※お詫び
ミスって一度記事を削除してしまい、また書き直しました…。
削除前にスキしてくださった皆様、申し訳ありません……。
【文車妖妃(ふぐるまようひ)】
古い恋文にこもった想いから変化した妖怪。
美しい女性の姿をしているが、その体は恋文や巻物によって形づくられている。たとえ届かなくても、想いを形にする勇気には価値があると思う。
ぼくの想いは、塵のように形も成さず、ただ積もるだけだった。

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ブラックでも天国のライター時代
「元教師」を雇いたい企業などない。
基本的に世間知らずで使えないやつが多いイメージが強いからだ。ぼくが教師をやめた理由のひとつはそこだった。当然、就職活動は困難を極めた。
履歴書を送るまでもなく、100社以上から「お祈りメール」をいただいた。そんな中で、新しくライティング部門を立ち上げたばかりのベンチャー企業から「面接に来ないか」と連絡があった。

「うるせえババア!!!」
面接は割愛するけど、アッサリ採用された。
教師時代の貯金は400万円以上あったが、ぼくは就職が決まる前に使い果たしていた。バカなんだろうか。だから、しばらくは親戚の家に居候して渋谷の会社まで通うことになった。
仕事は毎日締め切りに追われて終電もザラだった。でも24時間学校に閉じ込められていたぼくにとっては、ほんと天国だった。満員電車すら楽しい。
夢の一人暮らしに忍び寄る何か
ライターになって約半年。
ある程度の貯金が貯まったので、練馬に部屋を借りた。
友達にも新しい住所を連絡しなきゃ……と思っていた矢先に、謎の郵便物が届いた。以前、職業訓練所で会ったアルエさんの妹からだった。

待ってくれ。
ぼくはまだ、誰にも住所を教えていない。
震える手で封筒を開け、なんか絶妙に下手くそな字で書かれた怪しさ満点の手紙を読んでみた。
ナマコ先輩へ
姉が東京から地元へ帰ってきました。
でも、しばらくふさぎ込んで部屋から出てきません。
連絡してあげてくれませんか?
電話番号は090ー××××ー××××

ぼくは誰にも住所を教えていないのになぜか手紙が届いた…
何を言ってるのかわからねーと思うが、ぼくも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…
怪しいから無視しようかとも思ったものの、この手紙が真実ならアルエさんにまた会えるかもしれない。でもビビリなぼくは、まず電話番号を検索した。キャリアはSoft〇ank。それなら電話しなくてもショートメッセージでいける!

アルエ:何らかの詐欺かもしれん…
「ナマコです。アルエさんの携帯ですか?」
数分で返事がきた。
「ナマコさん? なんで番号知ってるの?」
ぼくは速攻で電話をかけた。
東京のアルエさん
アルエさんとの電話は、たぶん2時間くらいは続いたと思う。
大学院に進んだアルエさんは、教授を目指して日々研究しつつ、雑誌編集の仕事もしていた。でも、若い女性にとって教授になるのは非常に狭き門。ライバル同士の争いもあったようで、アルエさんは悩んだ末に諦めた。

アルエさんの実家はお茶農家だが、継ぐ人もいないので両親の代で畳むつもりだった。もともとお茶好きだったアルエさんは、だったら自分が継ごうと考え、インストラクターの資格まで取って実家に帰った。
ただ、今までの努力は何だったのか考えると無力感に苛まれ、両親からは「継ぐんだったら結婚しろ」と言われ、だいぶ病んでいたらしい。
なお、アルエさんの妹がぼくの住所を知ったのは、彼女が郵便局に勤めていたからだった。ぼくが両親に送った書類を見たのだ。たぶん余裕で法に触れる。

ろくでもないこと考えた!!
十数年ぶりのデートだ!
アルエさんは、実家に帰ってからも雑誌編集の仕事を続けており、月に一度は東京に来ているのだそうだ。
「来週会社に行くんだけど、よかったら会わない?」
「会うー!!」
翌週の池袋。駅には、何年か前に会ったときのままのアルエさんがいた。

(つづく)
