自分の大学で迷っていたら、隣の市に着いた話
大学生協に行く用事があった。
私は昔から体調が不安定で、当時も友人たちによく気にかけられていた。
大学院生は車通学が許可されていたので、友人が車で送ってくれたり、広い構内も車で移動したりしていた。
だから私は、大学の中を、自分の足でほとんど歩いたことがなかった。
ところが、何年か休学して大学に戻った頃には、友人たちはみんな卒業していた。
さて困った。
大学生協に行きたい。
でも、行き方がわからない。
キャンパスは、まるでひとつの町みたいな場所だった。
研究棟だけでなく、郵便局も、コンビニも、本屋も、理美容室も、旅行代理店まである。
「たぶん、こっちだった気がする」
私はそう思って歩き始めた。
すると、見覚えのある研究棟が現れた。
「ああ、やっぱり合ってる」
そう安心して、そのまま歩き続けた。
ところが。
研究棟というのは、似ているのである。
あとで考えれば、私が見ていたのは、覚えていた建物とは別の建物だったのだと思う。
でもそのときの私は、
「知っている景色が出てきた」
という安心感で、完全に納得してしまっていた。
歩いても歩いても、大学生協は見つからない。
引き返そうにも、どこも似たような建物ばかりで、だんだん自分がどこから来たのかわからなくなった。
それでも、
「このキャンパスは広いし」
と、自分を納得させながら歩き続けていた。
そのうち、研究棟が減り始めた。
代わりに、住宅が見えてきた。
「あれ?」
と思った頃には、完全に方向感覚を失っていた。
大学の門を出た記憶もない。
でも、気づいたら住宅街にいた。
そして、住居表示を見た。
隣の市だった。
ものすごくびっくりした。
大学で道に迷っていたつもりだったのに、
いつのまにか、市をまたいでいたのである。
あれは大学ではなく、ほとんど「まち」だったのだと思う。
結局、電車に乗って、ぐるっと遠回りして家に帰った。
なんとか家に帰り着いて、ほっとした。
そして結局、大学生協の用事をどうしたのかは、さっぱり思い出せない。
衝撃のあまり記憶が抜け落ちることがある、と聞いたことはある。
でも、こんなに間抜けな抜け落ち方は、あまり聞かない。
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