トナカイ料理と、少し遠回りな地図
「トナカイって、食べたことある?」
スウェーデンの安宿の食堂で、知り合ったばかりの旅行者たちに話しかけた。
「なにそれ、トナカイ?! 食べられるの?」
案の定、彼らの目はぱっと輝いて、一気に前のめりになった。
そのとき私は貧乏学生の一人旅で、ストックホルムのユースホステルに滞在していた。
朝も昼も晩も共同キッチンで簡単な料理をして居座っているうちに、イタリアから来た学生グループと親しくなったのだ。
心の中では小さくガッツポーズしながらも、顔は平静を装って、最近食べたばかりの、トナカイのたたき風グリルについて話して聞かせた。
「“Grilled Raw Reindeer”って言ってね、炙った表面はサクッとした歯応え、中はマグロみたいにしっとり柔らかくて、牛の赤身みたいな旨みなの!」
「でも、お高いんでしょう?」と彼らは口々に聞く。
ついに我慢しきれず、ちょっと胸を張って言ってしまった。
「私でも食べられる値段だったよ!」
そこは気軽に入れるレストランで、価格も良心的だった。
新鮮な肉でないとレアでは食べられない、北欧ならではのジビエ。
今食べておかないと後悔するかもよ、なんてことまで匂わせてしまった。
興奮した彼らは、さっそく翌日に食べに行く計画を立てた。
スマホもGoogleマップもまだない時代だった。
得意げに地図を書いて、店の場所を教えてあげる。
——ただし私は、100回通った道でも迷う方向音痴である。
自信満々で書いた地図は、どうやらどこかが少し違っていたらしい。
夜遅くに宿へ戻ってきた彼らは、
「すごくおいしかったよ!いいお店を教えてくれてありがとう!」とお礼を言ってくれた。
ただし、たどり着くまでには、だいぶ遠回りをしたらしい。
トナカイを探して、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしたようだ。
遠い異国の地で、迷子の集団をつくってしまった。
どうやら私の地図は、少し遠回りらしい。
——それでも、おいしいものには、ちゃんとたどり着けるのだから、まあいいことにする。
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海外旅行で迷った話はこちらでも書いています。
「方向音痴なのに、カナダで迷路に入った話」
方向音痴なのに、日本でも海外でも道を聞かれてしまう話はこちらです。
「地図最強の弟と、迷子案内人の私」
また次の更新で、そっとお会いできれば幸いです。
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