地図最強の弟と、迷子案内人の私
私は方向音痴なのに、なぜかよく道を聞かれる。
地元でもわからない。
出張先でもわからない。
海外でも、わからない。
それなのに、なぜか人は、私に道を聞いてくる。
最初は本当に慌てていた。
「なんで私に!?」
「もっと詳しそうな人、いるでしょう!?」
と、毎回心の中で叫んでいた。
でも最近は、少し慣れてきた。
わからないなりに、一緒に案内板を見たり、スマホの画面を覗き込んだりしている。
羽田空港で、外国人観光客の人に話しかけられたことがある。
「この電車で合ってる?」
駅名を言われても、正直よくわからなかった。
でも、その人のスマホの乗換案内を見ると、路線ごとに色がついていた。
だから私は言った。
「この色と同じ色の電車に乗れば、大丈夫だと思います」
相手は納得したように去っていった。
よかった、と安心した数分後。
その人は、再び誰かに聞こうとしていた。
そしてなぜか、また私のところに戻ってきた。
……方向音痴ガチャを、二回引かないでほしい。
羽田には、何千人もいた。
地元の人も、駅名を知っている人も、英語を話せる人も、きっとたくさんいた。
なのに、また方向音痴の私のところに来るのである。
「いや、私に聞いても、一緒に迷うだけよ……」
心の中で、そう思った。
そういえば、カナダのバンクーバーでも道を聞かれたことがある。
「ごめんなさい、私、観光客だからわからないんです」
そう答えたら、相手は不思議そうな顔をしていた。
たぶん、現地の人に見えていたのだと思う。
確かに私は、迷っていても、迷っていないふりをする。
間違った方向だと気づいた時は、急にスマホを見て、「あ、はいはい」という顔で方向転換する。
まるで、今届いたメッセージで予定変更した人みたいに。
本当は、
「うわ、違う。駅ない」
と思っている。
でも、長年そんな小芝居を続けているうちに、落ち着いて見える技術だけは身についてしまった。
最近は、大都市でない地方都市でも外国人観光客が増えてきた。
地元の人が少ないからか、かなりの確率で乗り換えや道を聞かれる。
地方では、乗り遅れたら次のバスまで数時間待つこともある。
だから、なんとか教えてあげようと頑張っている。
最初はおたおたしていたけれど、最近は少し余裕が出てきた。
「楽しい旅を!」
くらいは言えるようになった。
ただし、その人たちが本当に目的地に着けたのかは、知らない。
道を聞かれて困ったことを、弟に話してみた。
弟は、路線図ならだいたい頭に入っているほど地図が得意だ。
英語も話す。
弟は言った。
「スーに道を聞く時点で、人を見る目がないよね。その人たち。旅行に向いてない」
……なかなか厳しい。
そして、こう続けた。
「でも俺、人生で一度も道を聞かれたことないよ」
地図は弟に聞くべきなのに、
なぜか人は、私のところに来る。
……うまくいかないものだ。
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電車でいつも座れる弟と、なぜか交通トラブルに巻き込まれがちな私の話はこちら。
「座席運の弟と、交通トラブル運の私」
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