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【閑古鳥雑貨店のプク】初売りに行かない正月と猫


初売りに行かない正月の朝。
静かな雑貨店で、猫のプクと過ごすひととき。
整えること、立ち止まること、
それだけで十分だった年明けの話。



元日が過ぎても、街はまだ少し賑やかだ。
福袋、初売り、何倍ポイント。
どの言葉も、元気がよくて、少しまぶしい。



私はというと、初売りに行かなかった。
行けば楽しいのは分かっている。
でも今日は、店に来るだけで十分な気がした。

店のブラインドを、いつものところまで下ろす。
羽根のすき間から、冬の朝の光が細く入ってくる。
音はほとんどしない。
それが、この店には合っている。

「おはよう、プク」

返事はない。
けれど、棚の影や机の脚のあたりに、ちゃんと気配がある。
新年でも、プクはいつも通りだ。



私はコートを脱がずに、レジの上の布を整える。
撫でるというより、確かめる。
きれいだな、と思う。
それだけで、少し落ち着く。

棚の小物を並べ直す。
値札の角を整える。
布巾を畳み直す。
大きな変化はない。
でも、こういうことをしている時間は嫌いじゃない。

整えているあいだは、
この店が今日も静かなままかもしれない、ということを、
少しだけ忘れていられる。

初売りに行かない代わりに、店を整える。
それが、今年最初の仕事になった。






指先が、ほんの少しだけ気になる。

冷えのせいか、年末の名残か。
紙の角に触れたとき、ちくりとする。
「まだ去年の手だな」と思って、ひとりで笑う。

レジ横の棚に、白いチューブが一本ある。
やわらかな白地に、「hana」の文字。
その下に、小さく「YUZU」。


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派手ではない。
でも、目に入る。
この店に置くには、ちょうどいい顔をしている。

ふたをくるっと外す。
チューブを軽く押すと、白いクリームが少しだけ出る。

指先に取る量は、ほんのわずか。
たくさんはいらない。
このくらいで足りる、という感じがいい。

手の甲に伸ばすと、すっと広がる。
しっとりするのに、重くない。
あとから、ゆずの香りがふわりとついてくる。

強すぎない。
どこかで嗅いだことのある、冬の匂い。
台所の端や、朝の皮むきのあとを思い出す。

思わず、息が深くなる。





足元で、気配がした。

見ると、プクがいる。
いつの間に、という顔で座っている。
ブラインド越しの光が、毛並みに淡く当たる。

プクは私の手に鼻先を近づけて、
くん、と一度だけ嗅ぐ。
それから、何事もなかったように視線を外した。



「うん」

私はそれだけ言って、笑う。
プクは答えない。
前足をそろえて、静かに座っている。

それで十分だ。






棚を見渡す。

福袋はない。
初売りの札もない。
店内は、いつも通り。

去年は、よく画面を確認していた。
外から、何度も。
今日は、それをしなくていい。

ここにいる。
プクがいる。
それが分かる。





チューブのふたを閉めて、棚に戻す。
いちばん取りやすい場所。

ブラインドの羽根を、少しだけ起こす。
朝の光が、棚の角をなぞる。
白いチューブが、やわらかく光る。

プクはレジの下で丸くなる。
店番なのか、昼寝なのか。
たぶん、どちらでもいい。

私は自分の手を見る。
さっきより、少しだけ落ち着いている。

今年は、いきなり頑張らなくていい。
まずは、指先が割れないこと。
それくらいで、十分だ。

「さて」

声に出すと、店が少しだけ目を覚ます。

今日の私は、初売りに行かなかった。
その代わり、ここを整えて、
白いチューブを棚に戻した。

売れてもいい。
売れなくてもいい。



プクが、目を細める。
私は、もう一度だけ手の甲を撫でる。

ブラインド越しの光みたいに、
やわらかく、静かに。




これくらいの上質さがあると、毎日の手入れも自然と丁寧になります。
しっかりうるおいながら、香りは「ゆず」がほのかに寄り添う程度。
手元に残るのは、派手さではなく、きちんと選んだ安心感です。





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