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AIは「遅い思考」を拡張する

AIに対する過度な期待

最近は、トップダウンで「AIを使って効率化を進めろ」という号令がかかる会社が多い。

おそらく大半の会社の社長は、昨今のAIの波に乗り遅れたくないのだ。そして、そのまた半分の会社の社長は、AIを使うことによって(いや、AIを使いさえすれば、なんだかよくわからないけれど、ものすごい魔法のようなことが起きて)、自社のオペレーションが2倍速で進むんじゃないかと思ってらっしゃるフシがあるように感じる。

だけどボクは、AIを使って効率化を進めるより、メーリングリストやデータの保管場所を見直す方が先だと主張したい。

不要なメーリングリストが大量に残っていたり、同じ情報がメールとチャットの両方に流れていたり、どこに何のデータが保存されているのかわからなかったりする状態では、AIは散らかった情報を高速で処理するだけだ。

重要なのは「5S」だ。
まずは、情報の5Sから始めるべきなんだ。

「5S」とは、単に片づけをすることではない。
それは「モノもしくはコトの定位置化+習慣化」であり、これができない限り、どんな優秀なAIを持ってきても効率化は実現しないのだ。


認知負荷を「投資」と考える

さて、問題はAIを導入したくない層の経営者だ。
彼らがなんで頑なにAIを導入したがらないのか…

ボクにはひとつの仮説がある。

AIを導入したい人と導入したくない人の違いは、AIそのものの技術的な問題ではなく、その人の「認知負荷」の捉え方によるんじゃないだろうか。

認知負荷とは、人間が頭の中で情報を処理して理解するときに、脳の作業スペース(ワーキングメモリ)にかかる「精神的な負担」のことを指す。だから、新しいツールを覚える、情報を整理し直す、仕事のやり方を変える、といった新しい情報によって、人の認知負荷が大きくなる。

こうした認知負荷の増加を「コスト」と考える人が、AIの導入(AIだけではなさそうだが…)を嫌がるのだろう。

一方で、それを「投資」と考える人もいる。
最初は面倒でも、あとで大きなリターンがあるなら、今の負荷の増加を受け入れられる人だ。そういう人はきっと「5S」もきちんとできる人だろう。


思考をどう整理すべきか

ダニエル・カーネマンは、彼の著書「ファスト&スロー」の中で、人間の思考を「システム1」と「システム2」に分けた。

システム1は、直感的で速い思考
システム2は、論理的で時間をかける思考である。

ボクは、本を読んでいるときやボーっとしているときに、「あれ?」という違和感やフラッシュアイデアがよく浮かぶ。だけど、それは霞のようなもので、放っておくとすぐに霧散してしまう。つまり、それは「システム1」で産み出された思考の断片だ。

そういった断片を整理するのはなかなか難しい
それは、まだ何とも結びついてないフワフワした状態だからだ。どうカテゴライズすべきか、どんなインデックスを付けるべきか、フラッシュアイディアの時点ではわかりづらい。

その断片を育てていくことによって様々な接続が生まれる。そのあたりでやっと構造が明確になり、インデックスを付けることができるようになってくる。ボクは、この過程がカーネマンのいう「システム2」に近いのではないかと考えている。

つまり「情報の5S」においては、「システム1」で思いついた直感的なアイディアでは整理することは難しく、「システム2」の状態まで引き上げたうえで、必要なラベルを付けてしかるべき場所に格納することになるのだ。

だから「情報の5S」は難しい。
それは、一度誰かの頭の中で「システム1」→「システム2」のプロセスを経なければならないからだ。

AIは「システム1・2」どちらも代行してくれない
そして(今のところ)人が脳内で構造化したアウトプットを自動でどこかに格納してくれる機能もない

そういう意味でAIは万能じゃない。
結果「情報の5S」は人が行わなければならないのだ。


AIにできること、人がやるべきこと

だけど、ボクはAIが「システム2」の補助をしてくれると思っている。

人が思考をするとき、フッと浮かんだ「システム1」の大半は指の間からすり抜けていく。だが、AIを使うことによって、そういったフラッシュアイディアをつなぎとめておけるような感覚があるのだ。

だから、ボクにとってのAIは「質問に答えてくれる装置」でも「ボクに変わって考えてくれる装置」でもなく、「ボクの脳のシステム2を効率よく動かすための増幅装置」なのだ。

AIの価値は仕事を速く終わらせることだけじゃない。
人間が、より深く考えるための時間と余力を生み出すこと。

だからこそ、AI時代になっても最後に問われるのは、人間が情報を整理し、意味を与え、定位置を決める力なのだ。

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