見出し画像

建築探訪08:全国1位の美術館が「公園みたい」な理由―金沢21世紀美術館の3つの仕掛け


金沢21世紀美術館。行ったことある人も多いと思います。でも「何が凄いの?」って聞かれると、意外と答えられない。
「綺麗だった」「円だった」「人が多かった」・・・
それはそうなんですが、建築として何が革新的だったのか、案外知られていないんじゃないでしょうか。

この記事では、観光名所として人気のこの施設が、「建築としてどこが凄いのか」を3つの仕掛けから解説します。
観光の際には「へ~、そうなんだ~」と思ってもらえると幸いです。


この記事を読むとわかること

・年間200万人が訪れる、建築的な理由
・美術館なのに「公園みたい」と感じる3つの仕掛け
・次に行ったとき試してほしい、建築の楽しみ方
・「見上げない」「入口がない」「白い」が意味すること
・なぜこの建築が、これほど愛されるのか





「あれ? ここ、美術館だよね?」
金沢21世紀美術館を初めて訪れた人は、そう思うかもしれません。

子供たちが芝生の上を走り回るように、白い床を駆け回っています。カップルがベンチではなく、床に直接座り込んでおしゃべり。老人がぼんやりと、何も見ずに休んでいます。
美術館なのに、誰も「静かにしなきゃ」とは思っていない。

この美術館、実は全国トップクラスなんです。
2015年度、全国のミュージアムで来館者数1位を獲得。年間200万人以上が訪れ、2004年の開館から20年以上経った今も、金沢観光の定番として紹介され続けています。延べ入館者数は2500万人を超えました。

開館時の目標は年間30万人でした。それが実際には、7倍近い数字を叩き出し続けている。
なぜ、こんなに愛されるのでしょうか?



「公園みたい」ってどういうこと?


設計したのは妹島和世+西沢立衛 / SANAA。
妹島さんは、この建築を「公園のような建築」と呼んでいます。
「いろいろな年代の人が同時にいられる場所。それぞれが自分の時間を過ごしながら、一緒に場所をつくっている」

なんとも心地よい響きです。
でも、よくよく考えると変じゃないですか?

       公園        建築
場  所 : 屋外      ⇔ 屋内
用  途 : 決まっていない ⇔ 明確
アクセス : 誰でもいつでも ⇔ 所有者がいる

公園と建築、定義がほぼ真逆では?

こんなに違うのに、なぜ「公園みたい」と言えるの?
詭弁だと思います? でも、実際に訪れると本当に公園みたいなんです。
その秘密は、3つの仕掛けにありました。



仕掛け1:天井が低い—見上げない建築


21世紀美術館に入ると、不思議な感覚があります。
「あれ? 建物、低くない?」
そうなんです。この建築、見上げないんです。

普通の美術館って、天井が高いですよね。自然と見上げてしまう。重厚な雰囲気。「ここは特別な場所です」というメッセージが、建物から伝わってきます。(それが敷居の高さにもなっています)
豪華な吹抜けのエントランスがあったりしますよね。

でも21世紀美術館は違います。天井の高さは約4メートル。豪華な吹抜けも無い。目線の高さで建物と向き合える。「目線を合わせる」ことで、リラックスさせる効果があります。これが、親しみやすさの秘密の一つなんです。

建物は低いのに広いことも面白いところ。直径113メートルの円形です。円形部分だけを見るとコインのような平べったさ。そこを自由に散策できる距離感。公園を歩くような感覚があります。

次に行ったら試してみてください。天井を見上げると「あ、低い」って気づくはずです。そして、その低さが心地よいことに驚くはずです。

外観はどこから見てもガラスの円形   @金沢市


仕掛け2:入口がどこにもない—迷子になる楽しさ


もう一つ、不思議なことがあります。
「入口、どこ?」
初めて来た人は、たいてい迷います。私も近くの公園から何となく歩いていったら、気づいたら入口の前に着いていました。「入るぞ!」という感覚がない。

実は、どこからでも入れるんです。
建物は丸い形をしています。だから「正面」がありません。北側からも、南側からも、東側からも、西側からも。どこから入っても正解です。

普通の美術館は、正面玄関から入りますよね。そして順路に従って鑑賞します。「こちらへどうぞ」と誘導されて、気づけば出口。

でも21世紀美術館は違います。順路も自由。好きなように歩けます。

館内を散策するように、自然に歩ける。街をぶらぶらする感覚です。中庭がいくつもあって、それぞれ違う表情を見せてくれます。

建物に歩かされるんじゃなくて、自分で歩く。この違いが、公園みたいな居心地の良さを生んでいるんです。

ふつうの建物は正面が豪華で裏は地味。
でもここはどこも同じ顔で裏表がない。   @金沢市


仕掛け3:ぜんぶ白い—建物が消える魔法


21世紀美術館を歩いていると、気づくことがあります。
「なんか、どこも白いな」
床も、壁も、天井も、外壁も——ぜんぶ白色。

どこを見ても白。外も中も同じ白。だから「ここがエントランスホール」とか「ここが展示室」って、パッと見てもわからない。(厳密には床はグレーですが)

なぜ、こんなに白いんでしょう?

実は、これが三つ目の仕掛け。建物を主役にしないためなんです。
シンプルな白い背景だからこそ、人の活動が目立ちます。子供が走る姿、カップルが話す様子、老人が休む姿。これらが生き生きと浮かび上がってくる。

妹島さんはこう言っています。「建物が主張しすぎず、人々の活動が生き生きと見えてくる」

建物が一歩下がることで、人が主役になる。これが、白い空間の意味なんです。

ちなみに展示室はホワイトキューブと言って、美術品を引き立てるために白い空間ですが、ここでは展示室だけでなく、どの部屋も同じように白い部屋。エントランスだからお金かけようとか、通用口だから安くしようとか、そういう格差をつけない。どの部屋が何かわからないと、どの部屋にも気持ちはフラットなまま、肩肘張らずに入れるのです。

天井も壁も家具も白い空間   写真:scarletgreen


だからみんな来ちゃう


3つの仕掛け、いかがですか?

・低い:見上げない、親しみやすい
・どこからでも:自由に歩ける、迷子になる楽しさ
・白い:建物が消える、人が主役

これらが合わさると、建物は主張せず人々がリラックスできる。
だから公園みたい。
だからみんな来ちゃう。

年間200万人。開館から20年以上経っても、愛され続ける理由がここにあります。


こぼれ話
以前、建築関係者に聞いたのですが、外観に使われている曲面ガラスは目玉が飛び出るほど高価だと。ざっくりした価格も聞いたのですが、ネットには情報が出ていないようなので控えておきます。
わずかにカーブし、面積も大きなこのガラスは技術力の結晶です。沢山の技術者のおかげだな~と見てみてください。



次に金沢を訪れたら


次に金沢21世紀美術館を訪れたら、ぜひ3つ試してみてください。

1.天井を見上げてみる
「あ、低い」って気づくはず。見上げない建物の不思議を体験できます。

2.変な方向から入ってみる
どこからでも入れることに驚くはず。迷子になる楽しさを味わえます。

3.床に座ってみる
美術館なのに公園みたいに座れることに気づくはず。リラックスできる空間を実感できます。

そして、周りを見渡してみてください。
子供たちが走り回る姿。カップルが座り込む様子。老人がぼんやり休む姿。
すべてが、あなたを主役にする仕掛けだったことに、気づくはずです。


関連記事
「見上げない」という視点は他にも効果があります。先日「かわいい建築」って可能なの?ということを書いたのでそちらもどうぞ。 

妹島和世さんの他の作品については以下にもあります。山にガラスがペタリと張り付いたような建築を初めて見た!と驚いたことを書いています。

西沢立衛さん設計の豊島美術館について。これまで4回行きましたが、毎回感動します。




いいなと思ったら応援しよう!