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疫学は分布がある、ゆれる(やさしい疫学解説9)

読んでいると自然に「疫学」に詳しくなり、その重要性や活用法が理解できるようになる「やさしい疫学解説」シリーズをお届けしています。全記事はこちらのマガジンで確認できます。

どんな疫学研究の研究デザインでも重要になるのが、集団測定方法です。これまでに「集団」の説明を行い、前回のnoteでは、自分たちの研究ではどのような人たちを調べるべきなのか、それを適切に設定することが、とても大事ということをお伝えしました。「集団代表性」という考え方も説明しましたね。

それでは今回は「測定」の内容に進んでいきます。疫学研究を実施するときに、測定したい項目をどのように測定するとよいのか。それを決めるのもとっても奥深いことがわかってきますよ(文献1)。



●疫学研究で重要な集団と測定

疫学研究を実施しようとするとき、様々な研究のやり方(研究デザイン)で行うことは、すでに説明したとおりです。そのときに使った図(図1)を再度以下に示しますね。

図1. 疫学研究の種類(集団と測定方法はいつも重要)

左のほうに、どんな疫学研究でも大事になるのが、集団と測定方法である、というふうに図で示されています。この2つは、常に、どの疫学研究のデザインのときにも関わる因子である、という意味のため、この位置に、このような配置で書かれているのです。

●測定するから科学になる

そして今回は「測定」の説明となります。以前のnote記事で、疫学の定義を解説しましたが、その中で、疫学は「健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにする」学問であるとお伝えしました。健康関連の事象の「頻度と分布を明らかにする」のが、つまりは測定ですよね。たとえば、血圧の値、身長と体重、食事摂取量など、様々なものを測定することになります。そしてその結果を、誰もが同じように認識できる数値や、正確な用語で説明していくことになります。

このように、誰もが同じように認識できるように表していくところが、科学の世界では必要でしたね。それでは、疫学での「測定」には、どのような特徴があるのでしょうか。

●値には分布がある(個人間変動)

まず、疫学は「集団」を測定するという特徴がありますね。たくさんの、日常生活を送っている人を測定し、その全体の状態を説明しなければなりません。そして、一人ひとり、その値は違います。その状態を「分布がある」といいます。分布というものを目で見てわかりやすく示す方法には、ヒストグラムというグラフを使うとよいです。たとえば、24時間蓄尿という方法を使って、1日の食塩摂取量を測定することができますが、その結果は図2のような図になります(文献2)。

図2. 1日あたりの食塩摂取量の分布(ヒストグラムで示す)

食塩摂取量は、4.8 g/日未満の人もいれば、21.3 g/日以上の人もいますね。一番多いのは、11~13g/日のようです。みんながそれぞれ異なる量の食塩を摂取しているので、「色々な値の人がいる」ことになります。この量すべてを一覧表にしても、数値が並んでいるだけで、どのような特徴があるかがわかりにくいです。そこで、それらの測定値をまとめて「平均値」「中央値」「最大値」などといった統計量で表すことになります。そうすることで、その集団の値がどのような状況なのかがわかるようになってきます。統計量で示すのは、集団の値を分かりやすく示すために便利だからなんです。

このように、疫学の測定は、分布がある値となり、それをわかりやすく説明するためにはどのような統計学の数値を使えばよいかを考える、という工夫が必要になります。疫学の用語では、個人個人で値が異なる状態のことを「個人間変動がある」といいます。これがひとつめの特徴です。

●値はゆれる(個人内変動)

次に、疫学で測定する健康関連の事象は、値が変化しやすくて、1回測定しただけでは正確な値なのかがわからない、という特徴もあります。

たとえば、家で体重を測定したときでも、1回目に測定した値と、1度体重計を降りてもう一度測定した時の値が違う、ということは、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。また、血圧も、1回測定したときと、2回目に測定したときには、まったく同じということのほうが珍しいように感じませんか?このように、同じ人でも測定する時間、場所、条件などが異なると、値が異なります。この状態のことを「個人内変動がある」といいます。これがふたつめの特徴です。

このように、日常生活を送っている人の日常の状態を測定するのはけっこう難しいことなのです。そのために、どのような状況で測定したときの値を使うのか、あらかじめ決めておかなければなりません。病気の診断で使うような値の測定方法は、どの医療機関で測定しても方法はほぼ同じになるように、測定方法が定められているものです。測定方法を決めておくことは、重要なことなんですね。

●まとめ

疫学研究では、健康関連の様々な事象を科学的に示すために「測定」を行います。そのときに、疫学の特徴である「集団の人を測定している」という状況のために、測定にも特徴があります。ひとつはたくさんの人がそれぞれ異なる値をとっている、個人間変動があること、そしてもうひとつが、あるひとりの人を測定しても測定の状況によって値が変わる、個人内変動があることです。個人間変動があることを認識できるように、集団の値は、値そのものの羅列ではなく、集団の平均値や中央値といった、統計量で表します。また個人間変動があるために、全員が同じ測定方法で測定できるように、あらかじめ測定は決められた方法で行う必要があります。

さらに、その「測定する方法」を決めるというのが、また大変です。次回に続きます。


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1. 佐々木敏. わかりやすいEBNと栄養疫学. 同文書院. 2005.
2. Asakura K, et al. Br J Nutr 2014; 112: 1195-205.


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