【煉獄のパールライト】07.命の譲り方
浩輔は未知の経験をした高揚感が冷め、心が少し沈んでいるのを感じた。
無意識にポケットの中で、携帯用のピルケースの溝を爪でカリカリと引っかいていた。これが、考えごとをしているときの癖だと、自覚したのはいつだっただろうか。
どうしたものかと思案していると、ふと隣にいたみことと目が合った。軽く微笑み返すが、少女は何も言わず少年のほうを向き、この事態をぼんやりと眺めている。
やはり、この子は……。
浩輔はみことの表情を、昔の自分と重ねていた。希望を持つことをやめ、ただ状況に流されながら生きていく。そんな処世術が、自然に身についてしまったあの頃。もしこの子も、諦めたと思いつつも、心の奥底では救いを求めているのだとしたら……。
「これ以上、説明することは特にありません。そろそろ、解散してください」
少年の態度があまりにもそっけなく、新たな情報が出てこないので、取り囲んでいた人々の輪が解け始めていた。浩輔は、そんな輪の中心に向かって歩き出す。
「珠を譲渡するには、どうすればいい?」
少年の前まで進み出て、浩輔はそうたずねた。少年は浩輔の顔を見返し、少し間をおいてから答えた。
「特別なことはありません。自分の珠を、相手の珠に重ね合わせてください」
「わかった」
そう言って浩輔は踵を返し、みことの元に向かった。何をするのかと、人々の視線が浩輔の背中を追っている。
「君の珠を出して」
浩輔がそう言うと、少女は言われるがまま自分の珠を差し出した。浩輔の意図も、大事な珠も、すべてに関心がないような反応だった。
浩輔は優しく微笑みながら、自分の珠を少女の手のひらに添えた。
「君に俺の珠をあげるよ。もし生き返れたら、つらくても楽しい、価値のある人生を送れるといいね」
浩輔の珠が、みことの珠と触れ合った瞬間、ほのかに光り輝いて融合した。ひとつになった珠を呆然と見つめてから、みことは浩輔の顔を見上げる。
「どうして……」
みことは小さくそう尋ねたが、浩輔は何も言わず手を振って、再び少年の元に戻っていった。
「珠を譲った人間は、どうすればいい?」
そう問われた少年は、少し驚いた表情で浩輔を見せた。そして、面白そうに微笑みながら言った。
「何もする必要はありません。みなさんと一緒に、7日経つのを待ってください」
そう言われた浩輔は、不満げな表情を返した。
「譲った者は、退場するんじゃないのか……」
そうつぶやく浩輔を、少年は興味深そうに見つめていた。
人々も浩輔の行為を、驚きを持って見守っていた。そんな彼らに向かって、少年は高らかに言った。
「さあ、残された時間で、考え抜いてください。あなたが取るべき、最後の選択を!」
自分の隣に帰ってきた浩輔を、結衣香は怪訝な表情で見つめ、率直な質問を投げてきた。
「自分が生きたいとは、思わないんですか?」
彼女の質問に、浩輔は苦笑しながら答えた。
「まあ、なんていうか。そういう順番だったんだよ」
意味がよくわからないという表情の結衣香は、さらに何かを問いかけようとしていた。そんな彼女に向かって、浩輔はひと言謝りを入れた。
「ごめんね」
「え?」
謝られた理由がわからず、結衣香はさらに困惑した表情になる。
「君に譲るという選択肢も、あったと思うんだけど」
浩輔の言葉が予想外だったのか、結衣香はあわてふためいた。
「な、何言ってるんですか!? そんなの、謝るようなことじゃないですよ……」
結衣香はさらに何かを言おうとしたが、急に頬を赤らめてうつむいてしまった。彼女の気に障るようなことを、言ってしまったのだろうか? 浩輔が不思議に思っていると、結衣香は恥ずかしそうにぽつりとつぶやいた。
「私、そんなに物欲しそうな顔してました?」
彼女は自分の中にある浅ましい思いが顔に出たのかと、恥じていたらしい。浩輔は笑いながら、そんな彼女に好感を抱いた。
