【煉獄のパールライト】04.白い服の少年
さすがに信じられないといった口調で、結衣香が言った。
「本当に、宇宙人にさらわれたってことですか?」
「否定できないって話で……。ごめん、正直何もわからない」
浩輔はそう言って謝った。想像以上におかしな状況なのは確かだが、確信をもって言えることは何もないのだ。
「いったい、この部屋の存在理由はなんだ?」
浩輔が起きてから1時間ほどが経過しているが、状況は何も変わっていなかった。
ただ待っていれば、何かが変わるのだろうか?
そのうち何者かが現れて、親切にこの状況を説明してくれるのだろうか?
このままずっと、何も起こらず放置される可能性はないのだろうか?
浩輔は答えを探るように呟いた。
「これが脱出ゲームなら、虫眼鏡のアイコンで、部屋の隅々を調べ回るんだろうな……」
囚われた部屋からの脱出。そんな設定のフリーゲームを何回か遊んだことがあった。部屋にあるものをひとつひとつ調べて、出口を見つけ出すというものだ。
リアル脱出ゲームなども人気だが、もしこの部屋がそうであるのなら、早く説明を開始してほしいと思った。
「アプリの話ですか? 私もやったことありますよ。詰まったときは降参してネットで調べるんですけど、分かるわけないじゃん! ってところに仕掛けがあって――」
結衣香の話を聞き流しながら、浩輔はこれがゲームであるとしたら、何がトリガーになりうるかを考えていた。まだ気づいていない、ゲームを進めるためのフラグは何か。
時間、場所、物、人……。
浩輔は改めて部屋を見回し、それに気づいた。
「あっちだ」
突然歩き始めた浩輔の後を、結衣香とみことが慌て追ってきた。
「どうしたんですか?」
簡単な思いつきではあるが、試してみる価値はあると思った。
「これがRPGなら、まずは村人に話しかけてみようと思ってさ」
浩輔は歩きながら、結衣香に向かってそう答えた。
人々が出口を探したり、あるいは途方にくれて座り込む中、部屋中央の壁を背にして悠然と立っている者がいた。まるで人々を冷静に観察しているかのようで、浩輔はそのたたずまいが異質だと感じたのだ。
彼は白いパジャマのような服を着た、裸足の少年だった。年齢は中学生くらいのように見える。部屋着の者や入院患者と思われる服装の人もいるので、周りから特に注目されてはいないようだった。
まっすぐ自分に向かってくる浩輔たちに気づいた彼は、微笑みながらこちらを待ち構えていた。彼の態度が、浩輔の勘を肯定しているような気がした。
浩輔が声をかけると、少年は穏やかに応えた。
「こんにちは」
少年の声は落ち着いていて、外見よりも大人びた印象だった。
「この部屋について、何か知らないかな?」
浩輔が単刀直入にそう聞くと、少年はあっさりとそれを認めた。
「知ってますよ」
隣にいた結衣香が、驚いて少年に詰め寄った。
「ほんと! ここはどこ? バスに乗ってた人たちは、どこにいるの?」
浩輔は乗り出してきた結衣香と少年の間に割って入り、彼女を少し下がらせた。少年に危険な印象はないが、この特殊な状況で警戒は怠れない。結衣香は何かを訴えようとするが、浩輔の警戒感が伝わったのか、気持ちを抑えて一歩後ろに下がった。
浩輔は結衣香の顔を見てうなずくと、改めて少年に向き合って聞いた。
「説明してもらえるかな?」
「その前に、まずはこの部屋にいる全員を集めてもらえませんか? 何度も説明するのは、面倒なので」
浩輔の問いに、少年は不敵に微笑んでそう応えた。
この部屋について、何らかの説明があると声をかけると、すぐさま部屋にいる全員が集まった。
「この子が責任者?」
「まだ、子どもじゃないか」
「いつになったら、ここから出られるんだ!」
こんな部屋に放置され、口々に不満が漏れ出ていた。浩輔たちも集団の端で、説明が始まるのを待ち構えている。ずいぶん待たされたが、これで何かが起こるという期待感があった。
そんな中、ずっと黙っていたみことが、結衣香の手を軽く引っ張って言った。
「あのね、思い出したの……」
「何を?」
結衣香が優しく尋ねると、みことが意外なことを口にした。
「乗ってたバスに、トラックが向かってくるのを見たの……」
結衣香は怪訝な顔をして、どういう意味か問いただそうとするが、まさに少年の説明が始まろうとしていた。
少年が人差し指を口に当てると、人々の私語が消え、部屋がしんと静まり返った。ようやく、説明が始まるようだ。
「ようこそ、皆さん」
大声ではないが、しっかりとしたよく通る声で少年は語り始めた。
「これから言うことは、簡単には信じられないと思いますが、最後まで話を聞いてください」
いったい、どんな説明が始まるのだろうか。隣にいる結衣香を見ると、みことの後ろで彼女の肩に腕を回し、緊張した面持ちで耳を傾けていた。
「また、説明できないこともあります。納得がいかないでしょうが、世の中そういうものだと割り切ってください」
なんとも先回りした言い方で、聞く側に不満が残るのを前提としていた。皆、訝しげに彼を見つめていたが、今は黙って聞くしかなかった。
「いいですか?」
少年は改めて人々を見渡すと、全員が固唾を飲んで次の言葉を待ち構えていた。少年は満足そうにうなずくと、ついに核心を口にした。
「結論から言いましょう。ここは死と生の狭間です。みなさんは、すでに死んでいます」
彼はほほえみを浮かべ、さらりとそう言った。
