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ゼロックスとジョブズとイノベーションのジレンマ(1/3) 〜ゼロックスを衰退させたのはスティーブ・ジョブズなのか?

私はこれまで「イノベーションのジレンマ」について何度か取り上げた。

イノベーションのジレンマとは、クレイトン・クリステンセン(Clayton Christensen)が記した上記の書籍で提唱されたビジネス理論のこと。最初に読んだ際の印象が非常に強烈だったことに加え、この理論を意識することで世の中のテクノロジーの移り変わりについての見方が大きく変わったことが、しつこく紹介している理由だ。

かつて一世を風靡したコピー機メーカー、ゼロックスが衰退してすっかり輝きを失ったこともその典型例。富士フイルムによる買収の試みからの買収断念、そして提携解消と、ゼロックスの凋落が話題になったのは2018年から2021年にかけてのことだ。このようなゼロックスの繁栄から衰退の歴史を「イノベーションのジレンマ」という観点から見ると、極めて興味深い側面が見えてくる。

さらにこのゼロックスの物語には、あのスティーブ・ジョブズという大物も関係している! 
ということでゼロックスとスティーブ・ジョブズ、さらにはイノベーションのジレンマの関係について掘り下げてみたい。

以前に取り上げたコダックの経営破綻の際には、コダックの倒産をイノベーションのジレンマに関連付けた論考がWeb上で多数見られた。

一方でゼロックスの衰退については、富士フイルムによる買収が騒がれた当時もWeb上にそのような記事はほとんど見受けられなかった。おそらくコダックと違ってゼロックスが倒産したわけではないことが理由なのだろう。それでもゼロックスやコピー機産業の衰退は明らかであるし、それは明らかにイノベーションのジレンマの典型例と言える。その点を分かりやすく説明してみたい。

コピー機が使われなくなった要因

私が大学を卒業し、新卒で企業に就職したのは1990年のこと。当時コピー機はオフィスにおいて最も重要な備品だった。その頃はPCすら十分に普及しておらず、仕事で扱う文書の大半は手書きで作成されていた(今では信じられないことかもしれないが)。そのように作成された(手書きの)文書を社内で回覧する場合も、取引先に配布する場合も、すべてコピー機によって印刷されており、コピー機がなければ業務が成り立たなかったと言える。

当時はゼロックスをはじめ、キヤノンやリコーといったコピー機メーカー間で激しい販売競争が繰り広げられていた。それはまさにコピー機の製造・販売が十分に収益の上がるビジネスであったからだ。

コピー機

それから35年が経過した2025年の記事執筆時点で、企業オフィスでコピー機の存在意義は見る影もなくなっている。「紙の文書」をそのままコピーすることはほとんどなくなった。

文書を紙に印刷する場合もPCから直接印刷することが大半だ。PCからの印刷に使用されるオフィス用プリンタの多くは、ゼロックスやキヤノンといったコピー機メーカーが「複合機」という形で提供している。単なる『コピー(複写)』から『PCからのプリントアウト・スキャン機能』へと主役が入れ替わり、機能を進化(複合化)させることで生き残りを図ってきたのだ。

PCが普及した直後の時代には、手書き時代よりも印刷される紙の量が増加した時期もあった。ところがここ数年で状況は大きく変化し「PCからの印刷」需要すら急減しているのが現実だろう。

実は私が新卒で就職した頃から「PCが普及すればペーパーレス化が進む」との未来予測はあった。実際のペーパーレス化の進展は、35年前の予測に比べて相当に遅れたものの、2010年代にようやく予測が現実のものとなったと言える。ペーパーレス化が近年一気に進展した理由は様々であるが、私は「タブレット端末の普及」が大きな要因の一つであると考えている。

iPadが初めて実現した「真のペーパーレス」

上述の通り、PCが普及する前から「PCの普及によってペーパーレス化が進む」と予測されていたが、実際にはそのようにはならなかった。PCの普及によって、むしろ紙の印刷量が増加したくらいだ。PCによって誰もが容易に大量の文書を作成できるようになったことに加え、最終的なアウトプットとしてはPCではなく紙で読みたいというニーズが依然として存在していた。

紙で文書を閲覧したい理由は、PCによる閲覧の利便性が紙に及ばなかったからである。紙であれば簡単に可能な「片手で持って、必要に応じて近づけたり遠ざけたりする」という操作が、(少なくとも当時の)PCでは困難であった。

しかしながら、タブレット端末の登場、特にiPadの登場によって、ようやく電子端末でも紙に近い操作が可能となった。片手で持ち、目と表示画面の距離を調整するような操作が実現されたのである。

タブレットでの文書閲覧

私の個人的な経験を述べるならば、タブレットが普及する以前、数百ページに及ぶソフトウェアのマニュアルを紙に印刷し、それを見ながらPCで操作することをよくやっていた。当時のPC画面上での文書閲覧は極めて不便であり、紙の方が遥かに使いやすかったのである。

ところがiPadを使うようになってからは、そのような目的で紙に印刷する必要がなくなった。紙の文書と同等の操作が可能であるばかりか、キーワード検索機能など紙にはない利便性も備えている。

この変化も、イノベーションのジレンマによって明確に説明可能だ。コピー機にとって、「電子端末による文書表示」は、不連続な(破壊的な)技術革新であった。しかし、PC時代まではユーザーの要求水準を満たすに至らなかった。それでも電子端末は進化を続け、高速化・軽量化し、ついにiPadの登場によって文書表示端末としてのユーザーの要求水準を満たすに至った。こうして、文書表示において、コピー機による紙文書からタブレット端末への移行が一気に進んだわけだ。

コピー機から情報端末への移行

ここで極めて興味深いのは、PCの登場にもタブレット端末の登場にも、「あの人物」が深く関与していたという点である。
そう、スティーブ・ジョブズである!

Steve Jobs

そしてさらに興味深いのは、ジョブズがマッキントッシュを世に送り出す際に当のゼロックスが深く関わっていたという事実である。

すなわち、
ゼロックスはジョブズがMacを開発するきっかけを提供し、
ジョブズの生み出したiPadによって瀕死の打撃を受けた、

と言えるのである。

今回の記事は一旦ここまで。
次回の記事では、ゼロックスがどのようにMacやGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の誕生に貢献したかを紹介したい。


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