コダックの経営破綻と「イノベーションのジレンマ」(1/3)
この記事は、2012年12月写真用フィルムメーカー大手のイーストマン・コダックが経営破綻した際に書いたものがベース。2025年4月に、内容を一部書き換えて再掲した。
イーストマン・コダックの経営破綻
米国を代表する企業のひとつであったイーストマン・コダックが経営破綻したのは、2012年12月のことだった。

ニュースを聞いた瞬間に「これはまさにイノベーションのジレンマだ!」と思った。そのように考えたのは私だけではないらしく、当時Web上ではコダック経営破綻を「イノベーションのジレンマ」と結びつけて論評している記事が複数見られた。それらの記事の多くは既に無くなっているが、2025年時点では下記のページの説明がとても分かりやすくまとめられている。
「イノベーションのジレンマ」とは、ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンが1997年に発表した著書のこと。
この本は知る人ぞ知るビジネス書の名著中の名著。私自身も2007年頃に読んで「まさに評判通りの名著」だと納得した。コダックのように「イノベーションのジレンマ」で説明できる企業の衰退は実際に多数ある。別記事で取り上げたゼロックスはその代表例であるし、かつて「ガラケー」と呼ばれた日本製携帯電話も当てはまる。同様の事例は今後も出てくるはずなので、未来予測の点で、この本で書かれた理論は極めて重要だ。
この記事では、本を読んでいない人のために、そして自分自身の備忘録として「イノベーションのジレンマ」の理論を簡潔に紹介する。そのために、コダックの事例をさらに深堀りして考える。
なお以降の説明は、私がクレイトン・クリステンセン教授の本を読んで理解した内容を私の言葉でまとめたものだ。内容的におかしなところや理解しにくい所があれば、責任はクリステンセン教授ではなく私にある。
入門「イノベーションのジレンマ」
市場で売られる製品やサービスは、複数の提供者が競争することで技術的に進歩していく。それら技術的進歩は、「持続的な進歩」と「不連続な革新」の2つに分類される。
情報機器の進歩で例えるなら、CPUのクロック、メモリ搭載量、価格性能比などが向上していくのは「持続的な技術の進歩」と言える。
一方で、それまでキーボードとマウスを使って操作していたものから、マウスもキーボードもない「画面のタッチ」によって操作する情報機器(スマホやタブレット)の登場は、「不連続な革新」となる。
上で例に挙げた「タブレット」では、iPadの登場があまりにも衝撃的だったので、「不連続な革新」とは「誰もが驚く凄い技術」であると思われがちだ。しかし実は多くの場合そうではない。「不連続な革新」が初めて世の中に姿を現す時は、「性能・機能・品質の劣る粗悪な製品」として登場する。故に「不連続な革新」は登場当初は正当に評価されず、注目も集めない場合が多いのだ。
しかし、そんな粗悪な製品でも「持続的な技術の進歩」は行われる。時間が経てばいつかこちらも市場が要求する性能・機能・品質のレベルを超えることになる。すると一気呵成に「不連続な革新」のほうに市場(利用者)は移っていくのだ。
ここまでの流れを図に表すと、下記のようになる。

今回伝えられたコダックのニュースの場合、以下のように説明できる。
赤矢印がアナログカメラで、青矢印がディジタルカメラ。ディジタルカメラの品質は当初は酷かったが、持続的な進歩により市場の要求を超えたので、市場はアナログカメラからディジタルカメラに一気呵成に移っていった。それ故に赤矢印のアナログフィルムを作っていたコダックは衰退した。
IT(情報技術)の世界では、次の例が一番有名である。
赤矢印をかつての大型コンピュータ、青矢印をパソコン、緑の点線を「企業情報システムとしての要求」と考える。登場直後(1970年代後半)のパソコンは、性能・機能・品質、いずれも貧弱すぎて企業の情報システムで使えるレベルではなかった。将来そうなると予測できた人もごく僅かだった。ところがその後の持続的な技術の進歩で、いまやパソコンとそれから発展したPCサーバーが企業情報システムの中核を担うようになった。かつての大型コンピュータは、ごく一部の金融などの分野で使われているのみ。いや、その分野でさえも置き換えが進んで、もはや風前の灯火である。
興味深いのは、青矢印の例として筆頭だったパソコンも赤矢印に分類されてしまう日も近いかもしれないことだ。その際に青矢印になりうるのがiPadなどのタブレットだ。
上にも書いたが、iPadの場合はその登場があまりに華々しかったので、「不連続な革新」が登場早々いきなり注目を集めたように思われがちだ。だが実はそうではない。タブレットのiPadは電話機のiPhoneからの「持続的な技術の進歩」であるし、さらに電話機のiPhoneは携帯音楽プレーヤーのiPodからの「持続的な技術の進歩」であるとも言える。iPodが登場した際に、これが将来パソコンの存在を脅かすものになると予想できた人はまずいなかっただろう。
ここまで読まれたかたは、次のように思われたかもしれない。
「なるほど、技術革新を生み出せるよう研究開発に投資したり、革新技術を使った製品への移行を迅速に行うことが、今後の企業経営の重要な要素になりそうだ。」
「(例えばスティーブ・ジョブズのような)英断を下せるような経営者のいる企業こそ生き残れそうだ。」
実際はそんな単純なものではない! 不連続な革新に対応できるかどうかは「研究開発や経営判断の問題ではない。」と、「イノベーションのジレンマ」にも書かれている。赤矢印の企業にとっては、どんなに研究開発に注力して、どんなに正しい経営判断をしても、青矢印の技術が出現すると衰退への道以外は無いのだと。
普通に考えれば、研究開発に投資し、赤矢印の企業自身が青矢印の「不連続な革新」を行えば良いようにみえる。だがうまく「不連続な革新」となるような技術を生み出せたとしても、それは高確率で失敗するのだ。
我々は、この事実を忘れてはいけない。
ディジタルカメラを発明したのは、コダックだと言うことを。
次回記事に続く。

