血縁があっても、事情でどうにもならない
『血縁関係』
生物学的または婚姻によってつながった
親族のこと。
高齢社会。
身寄りのない高齢者、身寄りがあっても
疎遠など色々なパターンがある。
子どもを持つことはそれぞれの自由。
実の子でも親の世話に関わらない人もいれば、
姪や甥でもよくサポートされる方もいる。
関係性は、本当にさまざまでいいと
思うんです。
この話、少し重いかもしれません。
明るくて、よく笑うおばあちゃん
90歳代のおばあちゃん。
難聴が強くて、耳元で大きな声で話すとやっと聞こえる。
足腰はまだ十分で、押し車で移動できていた。
キーパーソンは姪っ子さん。
姪っ子さんには中学生の子どもがいて、
いわゆる「お金がかかる時期」。
面会は必要最低限。
衣替えや書類の手続きのときだけ
来られていた。
それでも、おばあちゃんはよく笑った。
難聴でも、身ぶり手ぶりで一生懸命やりとり。
一緒にこぼれる笑顔は、本当にやさしくて、
穏やかで。
施設の中でも印象に残る人だった。
「目が見えなくなってきてるの」
ある時期から、おばあちゃんが繰り返し
言うようになった。
「なんか、目が見えなくなってきてるのよ…」
白内障?緑内障?
目薬でなんとかなったらいいな。
姪っ子さんに連絡して、眼科受診を
お願いした。
返事は「忙しくて行けません」
結局、私たち看護師が付き添って受診
することになった。
診断と、止められたかもしれない未来
診断は、加齢黄斑変性症。
高齢者の失明原因のひとつ。
医師からの説明はこうだった。
定期的な治療が必要
1回あたり、保険診療で2万円弱
期間を空けて数回続ける
進行は抑えられる可能性が高い
「治療すれば、目が見えなくなるのを
防げるかもしれない」
そう分かっている病気。
すぐに姪っ子さんへ連絡して、
病気のこと、治療内容、費用のこと、
すべて説明した。
「出せません」という現実
返ってきた答えは、短かった。
「子どもにお金がかかる時期なので、
出せません」
責められない言葉。間違ってもいない。
姪っ子さんにも生活があり、守る家庭がある。
2万円弱を数回。
誰しも優先順位がある。
90歳代のおばあちゃんの目を守るのか、
中学生の子どもに使うのか。
それは姪っ子さんの自由。
でも同時に、私は少し思ってしまった。
『治療すれば防げる未来でも、
現実ってこんなもんだよな』と。
見えなくなっていき、閉じていく
それから、おばあちゃんの視力は
ゆっくり、でも確実に落ちていった。
目が見えにくくなるにつれ、
強い難聴と合わさって、どんどん
会話が減った。
笑顔が減り、口数が減り、
いつもどこか不安そうな表情。
目が見えなくなるって、
世界から少しずつ切り離されていくこと
なんだと、私はその姿を見て感じた。
もし、この人に『実の子』がいたなら
あとから、おばあちゃんから聞いた話。
若い頃、結婚して男の子を授かったこと。
その子は幼いときに病気で亡くなり、
その後、夫とも離婚したこと。
それ以来、再婚しなかったこと。
「優しいお母さんだっただろうな」
私はそう思った。
おばあちゃんの子どもが、生きていたら。
もしその子が、キーパーソンだったなら。
目が見えなくなる未来は、止まっていたのかな。
答えは、分かりません。
でも私は今もときどき、そう考えてしまう。
これは誰かを責めたい話じゃない。
ただ、
『これが高齢社会の現実なんだ』という話。
誰も悪くない。
でも、誰も救えないことって確かにある。
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