99%を捨てた経営。 〜シェア1.8%が利益を生む理由〜
こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。
先日、ある記事を読んでいて、思わず二度見しました。
シェア1.8%。
市場全体が縮小傾向のカメラ業界で、最下位グループにいる小さな会社。普通に考えれば、いつ撤退してもおかしくない数字です。
ところがこの会社、堂々と黒字なんです。
それどころか、社長は「成長フェーズに移行している」と胸を張っている。
いったい、何が起きているのか。
📷 オリンパスが「カメラ会社」をやめた日
その会社の名前はOMデジタルソリューションズ。
かつてのオリンパスのカメラ事業です。2021年、オリンパスはカメラ事業を投資ファンドに売却し、新会社として再出発しました。
新会社が下した最初の判断は、ある意味で過激でした。
「カメラ愛好家を、メインの顧客から外す」
これ、よく考えるとすごい話です。
カメラ会社が、カメラ好きの人を主要顧客から外す。寿司屋が「寿司好きの人はうちのターゲットじゃありません」と宣言するようなものです。
では、どこに賭けたのか。
🏔️ 登山愛好家
🦅 野鳥撮影者
⛺ アウトドア趣味の人
カメラを「持ち運ぶのが大変な精密機器」ではなく、「山に持っていける軽量装備」として位置づけ直したのです。
実際、彼らがイベントを開くと、来場者の服装は登山靴とアウトドアウェア。提携先も、カメラショップではなく、登山アプリのYAMAPやアウトドアメーカーです。
そして結果が出ています。
シェアは1.8%に落ちましたが、営業利益率5%を基準に黒字を維持し、経営陣は「成長フェーズだ」と語る。
普通なら「縮小」と呼ばれそうな局面を、彼らは「選択」として引き受けたわけです。
💡ちょこっと理論紹介💡
⚔️ ランチェスター戦略
イギリスの航空工学者ランチェスターが第一次大戦中に発見した法則を、戦後マーケティングに応用したのがこの戦略です。
要するに、強者と弱者では戦い方の文法がそもそも違うということ。 強者は広く戦い、物量で勝つ。でも、弱者がそれを真似たらまず勝てません。
弱者の唯一の勝ち筋は、戦場を狭く絞り、一点集中で局地的なNo.1になること。OMDSが「アウトドアの中で勝つ」と腹をくくったのは、まさにこのセオリーそのものです。
🤔 私自身、絞れずに何度も負けた
実はこの「絞る勇気」、私が一番苦労してきたテーマです。
独立して株式会社スプリングボードを立ち上げた直後、最初に構想していたのは個人向けの学びのマッチングサイトでした。今でいうストアカのようなイメージです。
「学びをもっと身近に」
「先生も生徒も自由に集まれる場を」
理念は立派でした。
でも、まったく売れない。
一人のユーザーも集まらない月が続きました。資金は減る一方で、夜中に天井を見つめる時間だけが増えていった。
そんなある日、知り合いからこう声をかけてもらいました。
「御社で新人研修やれませんか」
これが転機でした。
私は腹をくくって、法人研修だけに絞り込みました。個人向けは全部やめた。マッチングサイト構想も封印した。
すると、不思議なくらい仕事が回り始めたんです。
広げていた時より、絞った後のほうが、圧倒的に成長スピードが速かった。
あの時の私は、たぶん「全方位でいい人になりたい病」にかかっていたのだと思います。
誰にも嫌われず、誰のニーズにも応える。
聞こえはいい。
でも結局、誰の心もつかめないんですよね。
OMDSが「カメラ愛好家を捨てた」と聞いた時、私はものすごく既視感がありました。
捨てる勇気がない人ほど、結局誰にも届かない。
これは、会社にも、個人にも起こることなのだと思います。
🍜 安藤百福が、ラーメン1本に絞った理由
似たような物語で思い出すのが、日清食品の創業者・安藤百福です。
48歳の時、彼は信用組合の理事長として大失敗し、財産をほとんど失いました。家族と裏庭の小屋で再起を図ることになった時、安藤が選んだのは、「ラーメンを家庭で食べられるようにする」という、たった一つのテーマでした。
奥さんが天ぷらを揚げる姿を見て、油で麺を揚げる発想を得る。
試行錯誤の末、1958年にチキンラーメンが誕生する。
これが世界中に広がるインスタント麺の原点になります。
ここで面白いのは、安藤が「食品全般」で再起しようとしなかったことです。
パンでもない。
菓子でもない。
レトルトでもない。
ラーメン一つに、すべての時間と情熱を注いだ。
48歳から始めた事業で世界を変えるには、何でもやる時間はない。
そう判断した安藤の選択は、70年後のOMDSの判断と、驚くほどよく似ています。
💡ちょこっと理論紹介💡
🎯 ニッチャー戦略
経営学者フィリップ・コトラーは、企業を市場での地位に応じて4つに分類しました。リーダー、チャレンジャー、フォロワー、そしてニッチャーです。
ニッチャーの戦略は、特定セグメントの王者になること。大手が魅力を感じない狭い市場で圧倒的な存在になることで、高い利益率を維持する。 広く勝とうとしない。その代わり、狭い場所では絶対に負けない。
OMDSも、安藤百福も、この「狭く深く勝つ」という構えを選んだのだと思います。
🪨 「全部やる人」が、最初に負ける時代
ここで、私たちの仕事に話を引き寄せてみます。
30代、40代でリーダーや課長職になると、
「全部やらなきゃ」というプレッシャーがものすごく強くなります。
🗂️ 部下のマネジメント
📊 自分の数字
📝 上司への報告
🚀 新しい施策
🤝 社内調整
気がつくと、全部抱えている。
でも、全部が中途半端になっている。
どれも70点。
大崩れはしない。
でも、突き抜けたものが何もない。
それで上司から「もう少し成果を」と言われる。
すると、さらに頑張る。
さらに広げる。
さらに薄まる。
この負のスパイラルを、私自身も何度も経験してきました。
OMDSの城田執行役員はこう語っています。
「大手と同じ土俵ではシェアを伸ばせない」
これは企業の話ですが、私は個人にもそのまま当てはまると思うんです。
全方位の優等生では、誰にも記憶されない時代になりました。
むしろ大事なのは、「あの人といえば〇〇」と思い出してもらえること。
自分の登山道を、一本でいいから持つ。
それが、これからのリーダーに必要な土俵なのかもしれません。
🌱 捨てた先に、自分の場所がある
OMDSは、シェア1.8%という数字だけ見れば、たしかに「敗者」のようにも見えます。
でも、社員の表情も、決算の数字も、雄弁に語っています。
自分たちの場所で、自分たちのお客様と深く向き合えている喜びを。
これは、私たち働く人間にとっても、かなり希望のある話だと思うんです。
全部の人に好かれなくていい。
全部の領域で勝たなくていい。
「自分が誰の役に立ちたいか」を絞り込んだ時、初めて深い仕事が始まる。
私自身、独立してから何度も
「もっと広げたほうがいいんじゃないか」
と迷いました。
今でも時々迷います。
でも、そのたびに思い出すんです。
絞った後に開けた景色を。
あなたの仕事には、「やめてもいいこと」が、いくつありますか。
よかったらコメントで教えてもらえると嬉しいです。
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「主流で勝てないなら、別の土俵で花を咲かせる」という意味で、かなり近い話です。
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