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不確実性の航海術 #2|地図を捨てて、コンパスを持て ─ TypeⅠ(正解)とTypeⅡ(仮説)の断絶

前回、私たちは会議室で起きている「3時間の迷走」について触れました。
なぜ、優秀な私たちが、いつまでも決められず、悩み続けてしまうのか。

今日は、その苦悩の根源にある「2つの世界」の話をします。

私たちは今、歴史的な転換点にいます。
それは「アナログからデジタルへ」といったツールの変化ではなく、解くべき問題の「物理法則」そのものが変わってしまった、という意味での転換点です。

あなたが苦しいのは、目の前の霧が深いからではありません。
「ジャングル(原生林)」を、「市街地の地図」で歩こうとしているからです。

私たちを育てた「TypeⅠ」の世界

私たちが学校教育を受け、新卒で入社し、評価されてきた世界。
それは、業務設計論の定義で言うところの「TypeⅠ(技術的課題)」の世界でした。
• TypeⅠの世界観:
 • そこには必ず「正解」がありました。
 • 先人が整備した「舗装された道路」がありました。
 • 「地図(マニュアル・前例・教科書)」を見れば、現在地と目的地が分かりました。

この世界での優秀さとは、「地図を正確に読み、最短ルートをミスなく歩くこと」です。
経理処理、定型業務、既存システムの運用。これらはすべてTypeⅠです。
ここでは「止まって考えること」や「計画を精緻にすること」は、失敗を防ぐための絶対的な正義でした。

私たちは、この「TypeⅠのOS」を何十年もかけて磨き上げてきました。
「間違えるな」「予習しろ」「答え合わせをしろ」。
そうやって育てられた私たちは、「地図を持っていないと不安で動けない身体」になってしまったのです。

私たちが放り込まれた「TypeⅡ」の世界

しかし、いま私たちが直面している、DX、新規事業開発、組織風土改革といったテーマ。
これらは、TypeⅠとは物理法則がまったく異なる「TypeⅡ(適応課題)」の世界です。
• TypeⅡの世界観:
 • 前例がなく、「正解」は誰も知りません。
 • 道はなく、うっそうとした「ジャングル」か、深い「霧」の中です。
 • 当然、「地図」は存在しません。

ここには、舗装された道路もなければ、頼れるガイドブックもありません。
状況は刻一刻と変化し、昨日の正解が今日の不正解になることもあります。

悲劇的なミスマッチ

私たちの苦悩の正体は、この「TypeⅡのジャングル」に、「TypeⅠの地図読みスキル」を持ち込んでしまっていることに尽きます。

真面目なリーダーほど、部下にこう詰め寄ります。
「この新規事業の勝率は何%だ?」
「失敗しないための完璧な実施計画書を作れ」
「他社の成功事例(地図)を探してこい」

これは、ジャングルの真ん中で「この先の道路交通情報を持ってこい」と叫んでいるのと同じです。
ないものを探させているのですから、部下は疲弊し、時間は浪費され、結局何も決まりません。

はっきり申し上げます。
あなたが今、必死になって会議室で探している「失敗しない計画書」という名の地図は、この世のどこにも存在しません。
ないものを探して立ち止まるのは、思考ではなく、ただの「遭難」です。

「正解」ではなく「方角」を持つ

では、地図のない世界で、私たちはどうやって歩けばいいのでしょうか。
必要なのは、詳細なルート図ではなく、たった一つの「コンパス」です。

コンパスが示すのは、「ここを通れば安全だ」という保証(ルート)ではありません。
「たぶん、北はあっちだ」という、大まかな方角(Direction)だけです。

この「方角」のことを、ビジネスの世界では「仮説(Hypothesis)」と呼びます。

TypeⅠのOSで生きる人は、仮説を嫌います。「それは確実なのか?」「証拠はあるのか?」と。
しかし、TypeⅡの世界において、確実な証拠が揃うのを待っていたら、その間に環境が変わって死んでしまいます。

「確証はない。でも、今の状況から考えると、北へ向かうのが一番生存確率が高そうだ」
この、「不確実なまま指を指す勇気」こそが、コンパスを持つということです。

コンパスを持つことの効能

地図を捨ててコンパスを持つと、仕事の仕方が劇的に変わります。
1. 「迷い」が「探索」に変わる
地図がないと嘆く時間がなくなり、「北へ進むためにはどう藪を切り開くか」という具体的な行動に意識が向きます。
2. 「失敗」が「修正」に変わる
コンパスはルートを固定しません。右へ行って行き止まりなら、左へ迂回すればいい。大切なのは「北へ向かうこと」だけであり、ルートの変更は失敗ではなく、ただの調整になります。
3. チームに「基準」ができる
リーダーが「とりあえず北(仮説)」を示すことで、チームは初めて動けます。「北は違うと思います」という反論さえも、北という基準があるからこそ生まれる建設的な議論になります。

霧の中へ踏み出すために

あなたは今、地図を探して立ち止まっていませんか?
それとも、震える手でコンパスを握りしめ、霧の中を睨みつけていますか?

「正解が分からないと動けない」という呪いを解いてください。
TypeⅡの世界では、「動くこと」でしか、地図は描けないからです。

次回は、コンパスを持った私たちが、具体的にどう一歩を踏み出し、どうやって霧の中に「構造(Structure)」を見つけ出していくのか。
「考える前に動く」という、逆転の思考プロセス(A-S-Hサイクル)についてお話しします。
コンパスは持ちましたか?
では、霧の中へ入りましょう。

(つづく)

【関連記事】
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