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#しくみのスキマ|デジタルを“雇う”しくみの発想


システムは“仮想人”としてチームに加わる

DXを進めようという機運が社内で高まると、多くの場合、まず話題に上るのは「どんなシステムを導入しようか」「どのSaaSが便利そうか」という、ツールの選定です。 しかし、私は業務設計者として、少し違う角度からこの現象を眺めています。

人には、得意なことと苦手なこと、つまり人の性質があります。そして会社にも、長い時間をかけて培ってきた会社の性質(法人としての性格)があります。 では、システムはどうでしょうか。 私はここで、システムを単なる便利な道具や文房具として扱うのではなく、「仮想人(デジタル社員)」と呼んで、チームに迎え入れることにしています。

仮想人とは、人のように働きながらも、人とは決定的に異なる特性を持つ存在です。 彼らは、決められたルールに沿った作業を、文句一つ言わずに、正確に、24時間365日休まずに繰り返すことができます。しかしその反面、その場の「空気」を読んだり、前後の文脈を汲み取ったり、微妙なグレーゾーンをよしなに判断したりすることは、致命的に苦手です。

その冷徹なまでの特性を正しく理解し、適材適所で彼らに仕事を任せること。 システムをただのITツールとして導入するのではなく、新しいメンバーをチームの一員として「雇い入れる」という視点を持つことで、DXの景色は単なる効率化から、組織の再構築へと大きく変わっていきます。


パッケージかフルカスタマイズかの迷路

仮想人をチームに迎え入れるとき、私たちは必ず「パッケージ(SaaSなどの既製品)にするか、フルカスタマイズ(自社専用のスクラッチ開発)にするか」という選択の迷路に立たされます。

業務設計の観点から見ると、これは機能の優劣というよりも、採用する仮想人の「性格」の違いと捉えることができます。

パッケージ型の仮想人は、例えるなら土台が「陽キャ的」な性格です。外部の標準的なプロセスや、業界のベストプラクティスという広くオープンな知見をすでに取り込む傾向があります。 また、生成AIのような自社だけでは習得が難しい高度な技術も、彼らはアップデートという形で外部から柔軟に学び、成長していくことができます。

一方で、フルカスタマイズ型の仮想人は、自社の業務に特化して作られるため、性格が「内向き」になりがちです。 外部の新しい知見を柔軟に取り込むことは苦手ですが、自社特有の複雑な社内ルールや、長年培ってきた内部の経験・ノウハウを忠実に再現することには長けています。ただし、その進化はあくまで内部知見の範囲に留まるため、組織自体のアップデートが止まれば、彼らもまた古いやり方に固執してしまうリスクを抱えています。

どちらの性格の仮想人を雇うにしても、もっとも重要な前提があります。 それは「彼らに任せるべき仕事の境界」が明確に設計されていなければ、どんなに優秀な仮想人であっても組織の中でうまく立ち回ることはできない、ということです。


仮想人を面接し、任せる仕事を設計する

DXの本質は、どのようなITツールを買ってくるかという「手段の調達」ではありません。 どのような性格の仮想人を面接して採用し、その彼に「何を任せ、何を任せないか」をどう設計するかという、組織の再編成にあります。

パッケージ的で外部知見を柔軟に取り入れる陽キャ型を選ぶのか。あるいは、フルカスタマイズで自社のノウハウに徹底的に寄り添う内向き型を選ぶのか。 その性格や特性に応じて、任せる領域を明確に定義していくことで、自然と「残された人間たちの働き方」も見えてきます。

私たち業務設計者の視点は、とてもシンプルです。 仮想人に任せるべき、ルール化可能で反復的な領域は、しっかりと彼らに任せ切ります。たとえば、毎月の経費データの集計や、書式が定まった帳票の自動生成などは、彼らの独壇場です。 そして、そのシステム化によって浮いた時間と労力を使って、人は「人にしかできない仕事」に集中させます。集計されたデータを見て「来月はどの事業に投資すべきか」を議論することや、システムの例外処理に落ちてしまった顧客の感情に寄り添い、特別な対応を決断することなどは、決して仮想人には任せられません。

こうして、人とシステムの価値の再配置を意図的に設計すること。 それこそが、DXの核心です。 任せる部分と、人が判断すべき部分の境界線を明確に分けることで、人間も仮想人も不要な摩擦で疲弊することなく、チーム全体としての価値を最大化することが可能になります。


スキマを埋めるのは、人の観察力

仮想人は、与えられたルールに対しては恐ろしいほど正確に稼働します。しかし、前述の通り、文脈や状況のゆらぎを判断することは苦手です。 導入したシステムが、初日から現場で完璧に回り続けることなど、現実にはあり得ません。

どうしても生じてしまうそのシステムと現実の「ズレ」、あるいは仮想人と人の間に生まれる「スキマ」。 これを見極め、日々の運用の中で微調整していくことができるのは、やはり人の力なのです。

業務設計者は、冷徹な仮想人と、感情を持った人の間に立ち、そのスキマを埋める翻訳者であり、調整者としての存在になります。 現場から上がる小さな違和感や、ビジネス環境の変化を見つけ出し、ルールをアップデートし、適切に調整を重ねることで、仕組みは初めて組織の中で呼吸をはじめ、生き続けることができます。

だからこそ、単に便利なしくみを作る(導入する)だけでなく、彼らをどう働かせ、人とどういう関係性を築いていくのかを設計する「思想」が求められるのです。 仮想人と人が、互いの得意分野で補完し合い、共に新しい価値を生み出す世界を描きながら、私は日々、DXの設計という仕事に向き合っています。

あなたの組織では今、仮想人は「誰の代わり」として、どんなふうに働いているのでしょうか。 彼らは、ただの便利な道具として放置されてはいませんか。


処方箋:もっと深く「スキマ」を覗きたい方へ

機能やツールの導入にとどまらず、システムと人の共生という構造や思想に触れたい方に向けて、思考の補助線となる記事をご案内します。

・システム導入を「機能」ではなく「組織の構造」として捉え直したいマネージャーの方へ なぜ部分最適(現場の便利さ)と全体最適(組織の論理)はぶつかってしまうのか。仮想人に仕事を任せる際に必ず直面する、構造的な摩擦について解説しています。 #問いの設計|部分最適と全体最適の摩擦

・システムと現場の間に立ち、言葉が通じないもどかしさを感じている推進者の方へ 冷たいデジタルの言葉と、熱を持った現場の言葉をどうつなぐか。スキマを埋める「翻訳者」としての立ち位置の思想です。 #業務設計者論|翻訳者はしくみの言葉を編む

・システムに現場を合わせるか、自社のやり方を貫くかで迷っている企画担当者の方へ 標準化(パッケージ)というフリーサイズの服を、自社の組織にどう着せるか。その妥協と境界線の引き方についての設計論です。 #しくみのスキマ |標準化の罠を越えてスキマを設計する

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