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マネジメント負債#2|現場の努力が負債に変わる時

前回は、実態と乖離した計画が、私たちの「仕事への責任感」や「真面目さ」ゆえに止まらなくなっていく、静かな会議室の風景を覗き込みました。

今回は、その会議室の外、つまり実際に業務が動いている「現場」において、何が起きているのかを構造的に紐解いていきます。

結論から言えば、破綻しかけている計画やシステムが、今日までなんとか息を長らえてこられたのは、現場の担当者が優秀だからです。

システムの仕様が実際の業務フローと全く合っていなくても、現場の人々はなんとかしてしまいます。不足しているデータを別のファイルで手入力し、システムが吐き出す不完全な数値を、長年の経験と勘で補正する。
目標設定の前提が崩れていても、現場は「与えられた数字だから」と、本来やらなくてもいい付帯作業を増やして、どうにか辻褄を合わせようとします。

現場は「仕事だから仕方がない」と割り切り、持ち前の工夫と忍耐によって、その場を成立させてしまうのです。
しかし、この「なんとかしてしまった」という事実こそが、組織全体にとって最も恐ろしい罠となります。

経営層や管理職から見れば、期末の報告書にはそれなりに整った数字が並び、導入した新しいシステムは問題なく稼働しているように見えます。
現場が裏側でどれほど泥臭い手作業をしているか。理不尽な運用をカバーするために、どれほどの精神的ストレスを抱えているか。その「摩擦熱」は、上に報告が上がる過程で綺麗に冷却され、見えなくなってしまいます。

すると、どうなるでしょうか。
上層部は「この計画はうまくいっている」「このシステムの導入は成功だった」と誤認します。
そして、誤認したまま、次の新しい施策や、さらなる高い目標を、同じように現場へと下ろしてくるのです。

現場はすでに、前の計画の辻褄合わせでリソースの余力を奪われています。そこに新たな負荷が重なることで、日々の運用はさらに複雑に絡み合い、特定の「あの人」にしか処理できない属人的な業務が雪だるま式に増えていきます。

本来であれば、計画の不備やシステムのエラーは、なるべく早い段階で「このままでは業務が回りません」というアラートとして、組織の上流へ還流されなければなりません。それが、組織が健全に呼吸するためのフィードバックループです。
しかし、現場の「なんとかする力」がそのアラートを吸収し、結果的に隠蔽してしまうのです。

これが、マネジメント負債が静かに、そして確実に膨れ上がる構造です。

機械やシステムの不具合であれば、いつか必ずエラーコードを吐き出して停止します。しかし、人間は優秀で誠実であるがゆえに、限界を超えるまでシステムを支え続けてしまいます。
組織という大きなシステムを、人間の「気合」と「自己犠牲」という極めて不安定な部品で回している状態。これを放置し続けることは、組織の土台を静かに腐らせていくことと同義です。

私たちは、現場の「努力」や「工夫」といった美しい言葉で、この構造的な欠陥から目を背けてはいけません。現場の頑張りによって組織が回っているとき、それは美談ではなく、しくみの敗北なのです。

では、この見えない負債の連鎖を断ち切るには、どうすればいいのでしょうか。
気合で回せてしまう人間に対して、「無理だと言いなさい」と精神論を求めても意味がありません。必要なのは、人が感情で無理をする前に、自動的にブレーキがかかる「冷たいしくみ」です。

最終回となる次回は、プロジェクトが始まる前の最も冷静な時期に仕込んでおくべき、「撤退基準」というしくみの設計についてお話しします。

もっと深く「スキマ」を覗きたい方へ
・現場の属人的な工夫が負債に変わる前に、しくみとしてどう捉え直すか
業務設計者論|改善の裏にしくみを描く力

・システムと組織の間に生じる「誰も止められない」状況に、どう線を引くか
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・現場の言葉にならない摩擦熱を、組織の構造へと翻訳する視点について
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