家族と、私と、あなたと、手と手。
小さくて骨ばった、細長い手のひらを、確かめるように握り返す。
冬休みのおわり。次女とふたり、手をつないで歩いた。
私の美容院にひとりだけついてきて、それが終わった後に、彼女の新しい靴を探しまわった。
「ぴかぴか光るのがいい」
という次女に付き合って、3店舗回り、ようやくお眼鏡にかなう靴を見つけた。
「ぼく、明日からがんばれそう!」
次女は私に向かって笑顔をはじけさせた。
帰り道。いつも、双子の弟や三男の抱っこなど、先約でうまっている私の手を、彼女は強く握った。
がんばらなくたって、いいんだよ。
そのままで、十分だから。
私は思うけれど、口にはしなかった。
代わりに、その手の感覚を忘れないようにそっと握り返し、反対の手のひらで、その手の甲を撫ぜた。
うふふ。と、次女は笑った。
彼女の障がいを証明している「愛の手帳」が、私のカバンの中で揺れる。
その手帳からは計り知れない愛を、次女は持っている。
「寒いね」「さむいー」
そんな言葉を交わしながら、ゆっくり歩いて帰った。新しい靴を入れた袋が、前へ踏み出すたびにかさかさと鳴いた。
ほんとはちっとも、寒くなんてなかった。
ただただ、幸せだなって思った。

「はやくみんなのところに帰ろう」
そうだね。みんなといっしょがいいね。

おててが、いいかんじだね。
「ママとパパみたいに飲んでみたい」と、
缶のままジュースを飲んでみた日。
大人だね。
***
乾燥してかさついた双子弟の手のひらに、たっぷりと取ったワセリンを塗る。
残ったワセリンを指にとって、そっと彼の顔に近づけると、
「うーーー」と言って、唇を突き出したおちょぼ口を作って待っている。
まだキス顔も知らない、君の隙だらけの顔。
指をひっこめて、顔を近づけてみると、そのまま頬に隙だらけの顔でキスをしてくれる。
「ママ、すきーーーー」
そんな言葉も添えてくれる彼に、ありがとうの意味を込めて、改めてワセリンをそっとのせる。
双子弟の手は、アトピーでいつもカサカサ。
「かゆいよ」と言って布団から起き上がる彼のその手を握って、
「こうしていよう」って言って、私はもう一度、彼と横になる。
これでも、当然ダメなときはダメ。
かゆくってたまんないよ~と言う彼の身体に、各所でもらったり買ったりした薬を塗る。
眠りにつくときの体温の上昇でかゆみが出てきてしまうその手をとって、ふうふうと気休めに息を吹きかけてみる。
「わあ、すずしい~」
夜は鬼が来ちゃうから早く寝ないと、と律義に考えている彼は、目をぎゅう、と強く閉じる。
そのまま、彼は私の方に向き直って
「ママ、大好き」とささやいてくれる。
きっといい男になるよ、あなたは。
そんな思いで、私は彼を抱き寄せて、もう一度深く、眠りにつく。

誰よりもたくましくて力強いその手。
きっといつか、誰かを守り抜くその手。
***
「ママぁ。みてみてーーーー」
そう言われて振り向いたとき、たいていおかしなことをしている、双子兄。
この日は、姉の指輪入れを鼻に見立てて
「うにゅうーーーーー」とひとこと。

一番、パパにそっくりなおてて。
あなたは、落ち着かなくって、保育園でもすぐに立ち歩いてしまうね。
いつも甲高い声をあげて笑っては姉に「うるさすぎ!」って、怒られるし。
「双子弟くん、ねえ、いっしょにやってよおーーーー」
って、弟に付きまといすぎて困らせるし。
最近では三男にすら、目が合うとバシバシ叩かれて。
(暴君の三男はおそらく、双子兄だけ同い年だと思っている。笑)
でもさ、あなたがいないと、この家族は面白くないんだよね。
そして。
誰よりもやさしいのも、知ってるよ。
誰かが泣いていると真っ先にかけつけて、その涙をぬぐうのは、パパにそっくりなあなたの白い手。
「双子兄くんのこと。三男くん、電車だと思ってるんですけどーーー」
そう言って三男のおもちゃにされていても。けして振り上げない、あなたのやさしい手。

不器用だけど、やさしい手のひら。
兄と弟。
いつか大きくなっても。
「双子」としてうまれたこの運命を大切に。
このままどうか、支えあって生きてほしい。

***
その小さなおててには、いつも色んな絵が広がっている。

実は、足もすごいことになってる。
おててに並ぶ、夫画伯によるアンパンマンたち。
「このおててじゃ。温泉はお断りだね…」と、夫氏。
ペンを持ち出してしまったとき。
気分が落ち着かずにやたらと大騒ぎしてしまうとき。
「保育園いきたくないよ」って日の朝。
私は、手にたくさん、絵を描いてあげて送りだす。
これは長女のときから、みんなにやっていて。
長女には似顔絵を。
次女には「応援してるよ」のメッセージを。
双子には、恐竜や電車や線路を。
三男にはこうして、アンパンマンや好きなモノを描いてあげる。
上の子が大きくなってきたら「ぼくが描いてあげる」と、姉たちが弟のおててに絵を描いたりしている。
手を通じて、家族の想いは循環していく。
なんだかいいなって思う。

むちむちの、おてて
おてての肉線よ…消えないで…。
そんな三男は、まさに今、「強欲の塊」を体現している。
「あれ!」「これ!」
「あっち!」「こっち!」
「きて!」「あっちいって!」
たくさん大声を張り上げながら、親や姉や兄を動かす。とくに、姉たちは三男がかわいくて仕方ないので、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
きっと、してやったり、と思っているのだろう。
姉に抱っこされながら、ほくそ笑んでいるのを私は知っている。
でも、この姉や兄に一生懸命ついていって、たくましく育っているのも事実。転んでもすりむいても、すぐに立ちあがり走り出す。保育園の1歳児クラスの中で、一番末っ子だけど、最もガッツがある。
この調子で。三男よ。
天下獲ってくれエ!!!
***
誰よりも繊細な、あなたの手のひら。
不安でたまらないとき、こっそりと爪を噛んじゃうあなた。
みんなの爪を切っていても、あなたはほとんど必要ないくらい。
「ママは、長女ちゃんの爪を切りたいんだけどなあ」って、いつか言ったっけ。
「ママ。ぼくは最近、爪を噛まないようにしたよ。だから、ほら、伸びてきたでしょ」
はい。切ってください。
そう言って。この前、伸びてきた白いそれを誇らしげに見せながら、膝に乗ってきたね。
いつまでもかわいいあなたの手をとって、爪を丁寧に切った。
床に落ちていった爪さえ、愛しかった。

お友達の赤ちゃんをいつまでも膝にのせてたね。
愛おしそうな顔が、かわいいな。
あなたが「長女」であることで、きっと大変な思いをさせてしまっているんだろうな。
私は、そんなことを何度も思った。あなたが学校に行けなくなってから、余計にそんなどうしようもないことを、ぐるぐる考えたこともあった。
でも、あなたは言ったね。
走り回る妹と弟を私の隣で眺めながら。
「妹や弟って大変そう。ぼくは、一番上でよかったな」
そう言ってた。
「そうなの? 大変じゃない? ママは、末っ子だったから、けっこうラクしてきたと思ってるけど」
私がそんな風にいったら、あなたは私の手をとった。
「だって、ぼくが一番、ママとお話してる」
そしてあなたは、にっこりして、私の手をそっと撫でた。
そうか。
足りてないなって思っても。
誰よりもママと生きてきた時間は、長いもんね。
じゃあ、よかった。
あなたを最初に生んで、よかったなあ。
いや。
あなたはクラスでも、かけっこが誰よりも、速かったもんね。
ママの隣に、あなたが、滑り込んできてくれたんだね。

食べやすいように横にしてくれたね。
あなたのやさしい手のひらには、可能性があふれてる。
夢を描けるし、抱けるし、創っていける。
たくさんのメッセージも届いたね。
コメントくださった方も
見守ってくれている方も
ありがとうございます。心から、感謝を。
さっそく、彼女は夢に向かって走り出しています。
***

5人育ててもなんだか緊張している様子。
私の手はふたつしかない。
ときに、このふたつの手では、子どもたちを守り切れない。
だから、あなたの手のひらが必要。
それは子どもを、家族を守り、
ときに私の頭をなで、強く抱きしめてくれる。
誓い合ったおそろいの指輪。
誕生日にもらったおそろいの時計。
結婚10周年で買った、おそろいのブレスレット。
それを見つめる度、私は心からやすらぐ。
ああ、よかった。想いはつながっている。って思う。
手をとり合ってあの日誓った言葉は、ずっと胸の奥にある。
あなたとつないできた奇跡を、これからも続けて生きていきたい。
***
無骨な私の手のひらは、私の父にそっくり。
骨ばっていて関節が太くって、手のひらだけみたら、完全に男。
昔は嫌いだったこの手のひらを、今は毎日、愛しく見つめてる。
子どもをがっしりと支えられる。
ラケットを強く握ることができる。
ゴツイ指輪が映える。

私の親指には、父の結婚指輪がある。
父の誓いを、母に許可をもらって、私が引き継いでいる。
いつか、父のもとに。そして、母のもとへと返すつもり。
でも、それまでは。
私たちを守ってくれる気がして、私はそっと、親指に思いを込める。
迷ったとき。私は自分の手のひらを眺める。
引き継がれてきたもの。
誓い合ったもの。
それらが合わさった、私の手のひら。
今日も明日も、この先も。
手と手をとって、重ねて、合わせて、繋いで。
生きていく。
いつも、やさしく、あたたかい言葉と気づきを与えてくれる、くりすたるるさんの「#手」の記事募集に参加させていただきました。
家族それぞれの「手」を見つめてみた結果、湧き上がる思いがあり、そのままにつらつらと連ねてみました。
るるさん、素敵な記事をありがとうございます🍀
今年初の「#なんのはなしですか」になりました。
コニシ木の子さん、お手数おかけします。
よろしくお願いいたします😊
長女の絵の次は、次女が、不思議な不思議な、まさに「なんのはなしですか」を書いています。
どこかで披露してあげたいって思っています。
そのときはまたどうか、よろしくお願いいたします✨
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