【Gorillaz The Mountain考察 #6】Orange County | 過去の私は敵ではない
To Gorillaz fans around the world: what happens when the person you used to be tells you, “I’m not your enemy”?
This is my reading of “Orange County.”
Please use your browser’s translation feature to read the full article.
僕はこの曲を、「悲しみに押しつぶされそうになりながら、それでも愛する力を取り戻そうとする曲」だと感じました。
この曲は、前曲“The Hardest Thing”から生まれた曲です。
同じメロディと歌詞を引き継ぎながら、さらに深く、喪失の悲しみと向き合います。
僕にはこの曲が、「現在の私」と「過去の私」とによる、自己との対話のように聴こえます。
現在の私と過去の私は、語り合いながら少しずつ前を向いてゆく。
"Orange County"は、そんな姿を描いた曲なのだと思います。
なお、この記事はあくまで僕個人の解釈であり、公式見解ではありません。
僕のフィルターを通したこの考察が、あなたに新たな視点をもたらすことを願っています。
また、この記事は、長いので気になるところだけを読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ブックマークなどして、何回かに分けて読むのも良いかもしれません。
アルバム内でのこの曲の位置づけ
2曲目"The Moon Cave"で「私」は、純粋さを失ってしまったために死者とつながることが出来ませんでした。
3曲目"The Happy Dictator"では、「フィクションの幸福」を選び、純粋さを失ってしまった人々が描かれました。
4曲目"The Hardest Thing"では、悲しみに押しつぶされそうな「私」が、亡き父からの励ましを受けながらギリギリで耐えている姿が描かれました。
この曲では、悲しみに押しつぶされそうになりながら、それでも愛する力を取り戻そうとする「私」が描かれます。
そしてそれは、自己との対話という形で、内面に深く向き合う姿に見えます。
概要
"Orange County"は、4曲目の"The Hardest Thing"から発展した曲です。
バンドは、"The Hardest Thing"を完成させた後、この曲にはもっと探求する価値のあるアイデアがあるかもしれないと感じ、この曲が出来上がりました。
公式発言と、この解説での読み方
デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットは、BBC Radio 1 "New Music Show with Jack Saunders"で、"Orange County"について興味深い発言をしています。
デーモンは、この曲は恋愛関係への別れとも言えるし、必ずしも死別である必要はない、といった趣旨のことを語っています。
さらにジェイミーは、"The Hardest Thing"が死についての曲であるのに対し、"Orange County"は、愛している人を失い、もう二度と会えないことについての曲とも言える、と語っています。
この曲は、死別だけではなく、恋愛、友情、家族、あるいは人生のある時期との別れまで含む、より広い「喪失」の歌として開かれているのだと思います。
僕は、この公式発言が示す「愛する人との別れ」という広い枠組みを踏まえた上で、歌詞の文脈から、「亡き父との別れ」に焦点を当てて解説していきます。
タイトルについて
デーモン・アルバーンはKROQのインタビューで、“Orange County”は当初ペソ・プラマと制作する予定だった曲であり、ペソ・プラマがOrange Countyにスタジオを持っていたため、デーモン自身もそこを訪れた、と語っています。
最終的にコラボレーションは実現しませんでしたが、その制作の出発点となった場所が、曲名“Orange County”の由来になったとされています。
僕はこの曲のタイトルから、「オレンジ色の場所」というイメージを持ちます。
オレンジは夕焼けの色です。
一日が終わる直前の、光がまだ残っている状態です。
この曲での「現在の私」は、まさに夕暮れにいるように思います。
父との時間は終わった。
子供時代の純粋さも終わった。
でも完全な夜ではない。
まだオレンジ色の光が残っている。
"Orange County"というタイトルは、「光の残滓」という形で、わずかに残った希望を描くこの曲を比喩的に表現しているのではないかとも思います。
テーマとこの解説の視点
この曲のテーマ
この曲のテーマは「悲しみに押しつぶされそうになりながら、それでも愛する力を取り戻そうとする」というのが僕の解釈です。
この曲は2Dと客演のカラ・ジャクソンが歌います。
カラ・ジャクソンは、アメリカのシンガーソングライターであり詩人です。
ソウルフルなフォーク・ミュージックといった曲調と、アーシーで深い歌声を特徴とします。
そして彼女が扱うテーマは、家族の系譜、土地、記憶、女性たちの物語などです。
僕はこれらのテーマに、この曲の「過去の思い出」や「レガシー」といったモチーフと強い親和性を感じます。
このバックグラウンドが、彼女がこの曲でコラボレートするに至った理由なのではないかと、僕は勝手に想像しています。
この解説の視点
先に、この解説における役割分担を簡単に整理しておきます。
僕が歌詞の内容から読み取った役割は下記の通りです。
2D:喪失を経験し、傷つき、前に進むことを恐れている「現在の私」
カラ・ジャクソン:まだ父の記憶や愛する力を失っていない「過去の私」。
この曲の歌詞は抽象的です。
「君」とは誰なのか、「レガシー」とは何なのか、「敵ではない」とはどういうことか、これらについて公式には何も説明されていません。
そこで僕は一歩踏み込んで、この曲は「現在の私」と「過去の私」が対話する構図なのではないかと、一つの補助線を引いてみました。
なお、これはあくまでも僕がどう感じたかという解釈であり、公式の発表でもなければ、他の解釈を邪魔するものでもありません。
読み方の一例として受け取っていただければ幸いです。
なぜカラ・ジャクソンが「過去の私」なのか
はじめ僕は、この曲の全てのパートを2Dが歌っているものと思って聴いていました。
ところがクレジットを見ると、歌っているのは2Dとカラ・ジャクソンです。
僕には、この曲でのカラ・ジャクソンの声が、若い頃のデーモン・アルバーンにそっくりに聴こえます。
僕の知るカラ・ジャクソンは、もっと深い声で、独自の世界観と危うい揺れを持った素晴らしいボーカリストです。
もちろん、カラ本人がデーモンに似せて歌った、と断定するつもりはありません。
ただ、僕の耳には、この曲での彼女の声が、たまたま若い頃のデーモンのように聴こえてしまったのです。
ちなみに僕は、Blurのデビュー当時からリアルタイムでデーモンの声を聴いてきました。
彼の若い頃の声が僕の青春時代と結びついているために、こんな勘違いをしてしまったのかもしれません。
その後、この聴き間違いがきっかけで、「この曲でのカラは、若い頃の2Dの役割なのではないか」というアイデアを思いつきました。
すると、抽象的だった歌詞がすっと紐解けたのです。
この記事は、僕の直感に基づいて解説しています。
ちょっと突飛かもしれませんが、僕が感じたままを書いたので、あくまでいろいろな見方がある中の一つとして楽しんでいただければ嬉しいです。
《参考:Kara Jackson - no fun/party》
参考に、僕の好きなカラ・ジャクソンの曲をリンクしておきます。
彼女の素晴らしい歌声と世界観を、ぜひ感じてみてください。
《参考:blur - She's So High》
ちなみに、僕が勝手に勘違いした、デビュー当時のデーモンの声はこんな感じです。
懐かしい〜!
歌詞の解説
Intro:"The Hardest Thing"から持ち越される喪失のループ
[2D]
You know the hardest thing
君は知っている、一番辛いことは
Is to say goodbye to someone you love
愛する人に別れを告げること
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
Bam-bam, bam-bam-bam
Bam-bam, bam-bam-bam
Bam-bam, bam-bam-bam
Bam-bam, bam-bam
この曲のIntroとChorusでは、前曲"The Hardest Thing"での歌詞とメロディがそのまま歌われます。
Introでの2Dの声は、喪失の想いに押しつぶされ、いまにも崩れ落ちんばかりです。
この悲痛な始まりが胸を締め付けます。
この曲で歌われる喪失の悲しみには、いくつものレイヤーがあるように思います。
デーモンやジェイミーが経験した父親との別れ。
トニー・アレンの死。
そして、僕たちリスナー一人ひとりが思い浮かべる大切な人との別れ。
それは死別かもしれないし、恋愛や友情の終わりかもしれません。
“Orange County”で表現されている「喪失」は、一つの出来事に閉じず、様々な人や場面へ開かれているように思います。
これをこのアルバムの文脈で言うと、「私」が2曲目"The Moon Cave"で会いたいと願った、亡き父親に対する想いが歌われている、というのが僕の解釈です。
2曲目"The Moon Cave"では会いたい故人が誰なのかは不明でしたが、この曲には「父の顎」という言葉が出てきます。
また、4曲目の"The Hardest Thing"でのトニー・アレンのチャントは、失意をもって進む「私」を後押しする、亡き父親の声のような響きでした。
もちろん、トニー・アレン自身が「私の父」という意味ではありません。
ただ、アルバム内の物語として聴くと、そのチャントは、失意を抱えて進む「私」を後押しする、死者からの声、あるいは亡き父の声のような役割を帯びて聴こえるのです。
僕はこの曲は、アルバムストーリー上は「私の亡き父親」について歌われながら、デーモンやジェイミーの想い、リスナーが思い描く大切な人、そういった様々なレイヤーへの開かれたナラティブとして表現されていると思います。
Chorus:悲しみを抱えながら前に進む姿
[2D]
You know the hardest thing
君は知っている、一番辛いことは
Is to say goodbye to someone you love
愛する人に別れを告げること
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
ChorusではIntroと同じ歌詞とメロディが歌われますが、曲の印象は少し変化します。
Introの後半からボーカルと同じメロディの口笛が加わり、Chorusではボーカルと口笛がユニゾンで奏でられます。
この口笛の響きが、悲しみを抱えながらも明るく前向きです。
2Dの崩れ落ちそうなボーカルに、どこか明るく前向きな口笛が寄り添っています。
この対比と調和が実に素晴らしい!
この曲には、悲痛な悲しみを歌いながらそれでも前向きに進むようなトーンがあります。
僕はこの曲を聴くと、いつも胸がいっぱいになってしまうのですが、悲しみ一辺倒のトーンだったらそうはならなかったと思います。
悲しいけど明るさをもって進もう、そんな姿に心を打たれるのだと思います。
Verse 1:過去の自分が、父の記憶を差し出す
[Kara Jackson]
Every face you forgot
忘れてしまったすべての顔
Father's jaw, they suspend the clock
父の顎、彼らは時計を止める
「彼らは時計を止める」からは、父を看取った人々が父の時計を止める様子が思い浮かびます。または、父の死によって「私」の時間が一度止まってしまった、という比喩としても解釈できます。
Another start
もう一度やり直そう
Get another chance to love
もう一度愛するチャンスを掴もう
Verse 1で出てくるのは、「忘れてしまったすべての顔」、「父の顎」、「時計を止める」、そして「もう一度愛する機会」です。
これを「過去の私」が「現在の私」に対して歌っていると読むと、とても切ない情景が浮かんできます。
「君は忘れてしまったかもしれないけれど、僕はまだ大切な人たちの顔を覚えてる」
「父の顎の形も覚えている」
「父が亡くなった時、人々が彼の時計を止めたのを覚えている」
「もう一度やり直そう、もう一度愛するチャンスを掴もう」
「過去の私」は、「現在の私」が忘れてしまった「父の顎の形」まで覚えています。
「過去の私」にとって父の死の記憶はまだ生々しいままなのです。
その生々しい傷を抱えた「過去の私」が、「現在の私」に「もう一度愛そう」と呼び掛けています。
「過去の私」はまだ純粋さを失っていないのです。
重要なのは、Chorus(2D)とVerse 1(カラ・ジャクソン)のメロディがほぼ同じであることです。
これは、同一人物が同じ課題を別の視点から語っている、という構図にも見えます。
Verse 2:大きすぎる代償
[2D]
I hear you now
言いたいことはわかる
I understand, you lost today to get tomorrow back
分かるよ、君は明日を取り戻すために今日を犠牲にしたんだね
But what of the toll?
でもその代償は?
That's the hardest thing we've been sold
それが俺たちが売りつけられてきた最も辛いことなんだ
「現在の私」は、過去の自分の言葉に一見理解した姿勢を見せますが、「代償が大きすぎるために前へ進めないかもしれない」と言います。
「明日を取り戻すために今日を犠牲にする」とは、今の悲しみを乗り越えて前に進む、ということだと思います。
「代償は?それが俺たちが売りつけられてきた最も辛いことなんだ」は、前に進めないほど悲しみが大きすぎる、ということだと思います。
頭ではわかっていても、喪失の悲しみに負けて再生に向けて進めないかもしれない。
これが「現在の私」です。
「現在の私」は、前向きな純粋さを失い、目の前の痛みに囚われています。
2曲目"The Moon Cave"でのアシャ・プトリの言葉が思い出されます。
「月の光に乗って旅をしたことがある?」
僕の解釈では、アシャ・プトリはこの歌詞を「純粋さの喪失」として歌っていました。
Refrain:僕は君の敵じゃない
[Kara Jackson]
I'm not your enemy
僕は君の敵じゃない
Your legacy frightens me, will I keep it gold?
君のレガシーは僕を怯えさせる、僕はそれを金色に保てるだろうか?
Or will it spoil
それともそれは傷んでしまうのか
Before I gеt the chance to grow old?
僕が年老いる機会を得る前に?
このRefrainでは、曲の核心にある言葉が出てきます。
「レガシー」と「僕は君の敵じゃない」です。
Refrainで歌われる「レガシー」には様々な意味があると思います。
父から愛された記憶、父から受け継いだ思想や技術、自分の純粋さ、人を愛すること、などです。
「現在の私」にとって、過去の自分は「純粋で、愛すれば失うことをまだ知らない存在」です。
壊れてしまった「現在の私」には、純粋な過去の自分を見るのが辛い。
だから過去の自分は「僕は君の敵じゃない」という必要があったのです。
「君が傷つき、純粋さを失い、前に進めないと感じていることとも分かっている」
「喪失を経験したことで、人を再び愛することを恐れているのも分かっている」
「でも僕は敵じゃない、君の中にまだ残っている純粋さなんだ」
一方、「過去の私」も恐れを抱えています。
父から受け継いだもの、自分の持つ純粋さ、それらを金色のまま保てるのだろうか?
年を取りそれらは傷んでしまい、やがて「現在の私」のようになってしまわないか?
「過去の私」も「現在の私」を見るのが怖いのです。
Bridge:「現在の私」はもう耐えられない
[2D]
I don't know if I can take this anymorе
俺はもうこれ以上耐えられないかもしれない
So why you tryna break me?
それじゃあ、君はなぜ俺を壊そうとするの?
I don't know if I can stay on board
このまま船に乗り続けられるかどうかわからない
(On board)
(船に乗る)
(On board)
(船に乗る)
「現在の私」は、限界を迎えています。
心の堤防が決壊しかけ、「僕は君の敵じゃない」と言う過去の自分にまで噛みついてしまう。
「耐えられない」
「なぜ自分を壊そうとするのか」
「父の死を受け入れて前に進むことができないかもしれない」
今の彼には、過去の自分の純粋さも、父のレガシーも、愛することの可能性も、全てが重すぎるのです。
Chorus:自分自身の痛みに囚われる
[2D]
You know the hardest thing
君は知っている、一番辛いことは
Is to say goodbye to someone you love
愛する人に別れを告げること
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
再びChorusが歌われます。
Verse、Refrain、Bridgeで過去の自分との対話を経た後のこの2回目のChorusは、意味合いが一段と深まっています。
1回目のChorusは一般的な響きでしたが、2回目のChorusではより自分自身に向けられた想いに聴こえます。
まるで、「俺は耐えられないんだ、わかるだろ?」と言っているかのようです。
「現在の私」は心の牢獄に囚われています。
このパートがこの曲の心理的な底です。
どこか、3曲目"The Happy Dictator"で「心の宮殿」に自らを閉じ込めた聴衆たちを思わせます。
もしかしたら、"The Happy Dictator"は「自ら心の牢獄に囚われた」人々を外から見た曲ですが、この曲は「自ら心の牢獄に囚われた」人を内側から見る曲なのかもしれません。
Refrain:過去と現在が重なり始める
[Kara Jackson, 2D]
I'm not your enemy
僕は君の敵じゃない
Your legacy frightens me, will I keep it gold?
君のレガシーは僕を怯えさせる、僕はそれを金色に保てるだろうか?
Or will it spoil
それともそれは傷んでしまうのか
Before I gеt the chance to grow old?
僕が年老いる機会を得る前に?
2回目のRefrainでは主にカラ・ジャクソンが歌い、最後のラインの"Before I gеt the chance to”の部分だけ2Dの声が重なります。
「現在の私」が「(年老いる)機会を得る前に」、つまり「間に合わなくなる前に」と唱和しています。
Bridgeで思いのたけを吐き出したことで、「現在の私」は過去の自分を受け入れ始めています。
「現在の私」は、気持ちが少しだけ再生に向かい始めます。
Chorus:悲しみを受け入れる
[2D]
You know the hardest thing
君は知っている、一番辛いことは
Is to say goodbye to someone you love
愛する人に別れを告げること
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
3回目のChorusです。
これまでと同じ歌詞ですが、2回目のRefrainで少しだけ前に進む姿勢を見せた後のこのChorusは、同じ歌詞でも違った響きに聴こえます。
痛みと悲しみを認め、それを受け入れる覚悟をなんとなく感じます。
Post-Chorus:過去の声を受け入れ、独りで立つ
[2D]
And I'm not your enemy
そして俺は君の敵ではない
Your atom's gone, you stand alone
君の原子は消え去り、君は独り佇む
And everything you gave to someone you love
そして、愛する人に捧げたすべてのもの
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
Ooh-ooh-ooh
Ah-ah-ah
Ooh-ooh-ooh
Ah-ah-ah
このパートでは、これまでカラ・ジャクソンが歌ってきた「そして僕は君の敵ではない」という歌詞を2Dが歌っています。
「君の原子は消え去り、君は独り佇む」は、過去の自分を受け入れ、現在の自分と一体化した、ということだと思います。
「君」を主体とした言い方が、過去の自分の意見を認める形で一体化したことを示していると思います。
「愛する人に捧げたすべてのもの」は、自分がかつて愛する力を持っていたこと思い出しており、自分がやがてその力を取り戻す予感を表している、のだと思います。
最後の"That's the hardest thing"という歌い方には、もはや崩れ落ちるような危うさはありません。
認め、受け入れ、前向きになっているようなトーンに感じます。
僕はこのパートに、前曲"The Hardest Thing"のトニー・アレンのチャント「さあ、立ち上がれ」という声から僕が受け取った、「心を奮い立たせろ」というメッセージが、薄く透けて見えます。
「現在の私」は、過去の自分のみならず、亡くなった父親の後押しを経て立ち上がった、そんな姿が思い浮かぶのです。
Outro:悲しみは終わらないが、前に進む
[2D]
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
I don't know if I can take this anymore (Ooh-ooh-ooh)
俺はもうこれ以上耐えられないかもしれない
So why you tryna break me? (Ah-ah-ah)
それじゃあ、君はなぜ俺を壊そうとするの?
That's the hardest thing
それが一番辛いこと
Outroでの歌い方はこれまでになく前向きです。
もはや悲しみに打ちひしがれ、崩れ落ちるようなトーンはありません。
「やれやれ、しんどいことだぜ」といった、どこか自嘲するようなユーモアを取り戻しています。
そして、Outroでは声が遠く響きます。
前を向いて山道を遠く歩いていくかのような感じを受けます。
歌詞のまとめ
この曲の歌詞は、「現在の私」と「過去の私」が、喪失の悲しみを挟んで向き合う対話のように聴こえます。
「現在の私」は、喪失の悲しみに飲み込まれ、押しつぶされそうになっています。
頭では前に進まなければならないと分かっている。
けれど、そのために払わなければならない代償が大きすぎる。
亡き父の記憶、失われた愛、受け継いだレガシー、それらすべてが重すぎて、もう耐えられないと感じている。
一方で、「過去の私」はまだ純粋さを失っていません。
父の顔や顎の形を覚えている。
死によって止まった時計の記憶を抱えている。
それでもなお、「もう一度やり直そう」「もう一度愛するチャンスを掴もう」と呼びかけている。
「過去の私」は、「現在の私」にとって、失われたはずの愛する力そのものなのだと思います。
だからこそ、カラ・ジャクソンが歌う「私はあなたの敵ではない」という言葉が深く響きます。
過去の自分は、現在の自分を責めているのではない。
悲しみを乗り越えろと無理に背中を押しているのでもない。
ただ、「君の中にはまだ愛せる部分が残っている」と伝えようとしているのです。
そして「現在の私」も、最初はその声を受け入れられません。
純粋だった自分を見ることが辛い。
父から受け継いだものを見ることが怖い。
愛することの可能性さえ、自分を壊そうとするものに感じてしまう。
しかし曲が進むにつれて、2Dの声は少しずつ変わっていきます。
崩れ落ちそうだった歌声は、やがて悲しみを認め、過去の自分を受け入れ、自分の足で立とうとする響きへ変わっていく。
この曲は、悲しみが消える歌ではありません。
喪失がなかったことになる歌でもありません。
愛する人に別れを告げることは、やはり一番辛い。
父を失った痛みも、愛を失った痛みも、完全には終わらない。
しかしこの曲の最後で、「私」は少しだけ前を向いているように聴こえます。
過去の自分を敵ではないと認め、受け継いだものを抱え、独りで立つ。
そして、山道を遠くへ歩いていく。
"Orange County"は、喪失の悲しみに押しつぶされそうな人間が、それでもなお愛する力を取り戻そうとする曲なのだと思います。
サウンドとプロダクション
クレジット
《プロデュース》
Gorillaz
ビザラップ
《追加プロデュース》
サミュエル・エグレントン
レミ・カバカ・ジュニア
※ジェームス・フォードの表記は資料によって異なります
《作詞作曲》
デーモン・アルバーン
ビザラップ
カラ・ジャクソン
サンティ・アルバラード
《インド楽器》
シタール:アヌーシュカ・シャンカール
《電子楽器》
キーボード:サンティ・アルバラード
解説
軽快なEDMビートに、口笛の素朴さとシタールのきらめきが美しい曲です。
明るく行進するようなビートの上で、2Dの悲しみに打ちひしがれた消え入りそうなボーカルが胸を打ちます。
2Dだけは一人痛切なのですが、カラ・ジャクソンのボーカルや他のインストゥルメンツは明るく、「ほら、前へ進もう」と言っているかのように寄り添った響きです。
特に口笛が良いです。
もしかしたらこの口笛は、過去の自分が「現在の私」を力づけるために吹いているのかもしれません。
この明るさと悲痛さの対比が素晴らしいです。
この、悲しみと前向きなトーンの調和に、聴くたびに胸がいっぱいになって涙が流れます。
構成も面白いです。
全体として、前曲"The Hardest Thing"の歌詞とメロディを引き継ぎ、変奏曲のように展開させています。
また、現在の私が「心の底」を見て前向きに反転する、Bridge(もう耐えられない)→Chorus2回目(痛みに囚われる)→Refrain(前を向き始める)の3つのパートでは、ドラムとベースが一旦消えます。
そして悲しみを受け入れたChorus3回目から、再び行進のようなドラムとベースが再開します。
前曲の悲しみを引き継ぎながら、「私」の心の変化を丁寧に表現したプロダクションだと思います。
コラボレーターたち
コラボレーターに目を向けると、この曲には、アルゼンチンのプロデューサーであるビザラップ(BZRP)と、その作品に多数参加する作曲家/キーボーディストのサンティ・アルバラードが参加しています。
ビザラップは、EDM、ラテントラップ、ラテンヒップホップを横断する、アルゼンチンの世界的プロデューサーです。
また、このアルバムの多くの曲に、シタール奏者としてアヌーシュカ・シャンカールが参加しています。
アヌーシュカ・シャンカールと「レガシー」の響き
アヌーシュカ・シャンカールはあのラヴィ・シャンカールの娘です。
ラヴィ・シャンカールは、インド古典音楽を世界に広め、「ワールド・ミュージックのゴッドファーザー」と称された伝説的なシタール奏者・作曲家です。
ザ・ビートルズのジョージ・ハリスンが彼に師事していたことでも有名です。
アヌーシュカは偉大な父から直接薫陶を受け、わずか13歳でステージデビューをしています。
その後もインド音楽をベースに、西洋クラシック、ポップス、エレクトロニカなど多彩な要素を取り入れたクロスオーバー作品を手掛け、何度もグラミー賞にノミネートされています。
ここからは、かなり僕の深読みです。
この曲で「レガシー」という言葉が歌われていることを考えると、アヌーシュカ・シャンカールのシタールが入っていることにも、どうしても耳が反応してしまいます。
ラヴィ・シャンカールから受け継がれたインド音楽のレガシー。
その響きが、BZRPたちの現代的なビートの上で新しい形に変換されている。
それは、父から受け継いだものを「金色のまま保てるだろうか」と問いかけるこの曲のテーマと、どこか重なって聴こえるのです。
最後に
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
皆さんはこの曲をどう感じましたか?
音楽は開かれたナラティブです。
リスナーの数だけ解釈や感想があって良いと思います。
是非皆さんの感想をコメントや「スキ」で教えてください。
この記事の解釈をお楽しみいただけたなら、ぜひシリーズの他の記事もご覧ください。
僕の視点が、Gorillazファンに"The Mountain"への新たな入り口を提供できれば幸いです。
Thank you for reading.
I hope you’ll join me in the next article as we continue climbing The Mountain.
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