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【Gorillaz The Mountain考察 #5】The Hardest Thing | トニー・アレンの声、How Far?、そして失意を抱えながら進む私

To Gorillaz fans around the world: what happens when a voice from the past tells the living to stand up and keep moving?

This is my reading of “The Hardest Thing.”

Please use your browser’s translation feature to read the full article.


僕はこの曲を、「深い失意を抱えながら、それでも進んでいく」曲だと感じました。

"The Hardest Thing"は、愛する人に別れを告げる痛みの曲です。
しかし同時に、幕が上がり、日常が始まり、ステージに立たなければならない人間の曲でもあります。

崩れ落ちそうな心を抱えながら、それでも旅を続ける。
その出発点にある、静かで深い喪失の歌なのだと思います。

なお、この記事はあくまで僕個人の解釈であり、公式見解ではありません。
僕のフィルターを通したこの考察が、あなたに新たな視点をもたらすことを願っています。

また、この記事は、長いので気になるところだけを読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ブックマークなどして、何回かに分けて読むのも良いかもしれません。


アルバム内でのこの曲の位置づけ

1曲目"The Mountain"では、「人生の修行場としてのタフな道のり」としての「山」が示されました。

2曲目"The Moon Cave"で「私」は、純粋さを失ってしまったために死者とつながることが出来ませんでした。

3曲目"The Happy Dictator"では、「フィクションの幸福」を選び、純粋さを失ってしまった人々が描かれました。

この曲では、悲しみに押しつぶされそうになりながら、それでも前に進もうとする「私」が描かれます。

概要

この曲のイントロには、2020年に亡くなったトニー・アレンの過去の音源が使われています。

トニー・アレンは、ナイジェリア出身の伝説的なドラマー・作曲家です。
1960年代に、フェラ・クティと共に「アフロビート」と呼ばれる音楽ジャンルを創始しました。

僕はかつて、"Fela Kuti and Afrika 70"の『Zombie』というアルバムを聴いて、トニー・アレンのドラムに衝撃を受けました。

アフロビートは、現代のメインストリームのサウンドにも多大な影響を与えています。
トニー・アレンとは、いわば「現代のグルーヴする音楽」の偉大なる父たちの一人なのです。

デーモン・アルバーンはトニー・アレンを大変敬愛しており、2人は長年多くのコラボレーションをしてきました。
Gorillazへのトニーの参加、デーモンとトニーが共に参加したスーパーグループ“The Good, the Bad & the Queen”、などなどです。

トニー・アレンが亡くなった時、デーモンはフランスのテレビ番組"Encore!"のインタビューで下記の様に答えています。

あまりにも大きな衝撃でした。
彼は私にとってこの世で最も大切な人の一人でした。
本当に、本当に、心から家族のような存在でした。
私の家族も皆、彼を愛していました。
彼は本当に愛されていました。
心から愛された人でした。

デーモンにとって、音楽的な父と言っても良いほどの存在であるトニーの召喚には大きな意味があります。
この曲からは、まだ癒えない大きな喪失感と、故人への強い愛を感じます。

トニー・アレンのインスタグラムより(2004)

テーマと歌詞の解説

この曲のテーマは「失意を抱えながら進む私」というのが僕の解釈です。

僕ははじめこの曲を、次の"Orange County"への短い橋渡しとして聴いていました。
でも、トニー・アレンの声の出どころに気づいた瞬間、この曲の景色ががらりと変わりました。

Intro

この曲のイントロで使われるのは、Gorillazのアルバム『Song Machine: Season One - Strange Timez』(2020)に収録された、"How Far?"でのセッションの時のものです。

この時、アルバムは2020年10月23日のリリースでしたが、トニー・アレンが2020年4月30日に急逝したことを受け、当初の予定を早め、そのわずか2日後である5月2日に追悼の意を込めて、"How Far?"が先行リリースされました。

"How Far?"でも、トニー・アレンは"Oya, ẹ dide, ẹrori"というチャントを繰り返しています。
この曲で使われているのは、この時の録音または別テイクと思われます。

"How Far?"では、トニーの声は彼自身のドラムと楽曲のグルーヴの中にありました。
一方この曲では、深いリバーブをまとい、身体を離れた声が、遠い記憶の奥から届いてくるように聴こえます。

《参考:How Far?》
曲のBridge(2:06くらい)ではトニー・アレンのチャントが確認できます。
そして何といっても、トニー・アレンが叩くドラムが聴きどころです。
この独特のグルーヴは彼ならではです。

[ヨルバ語:Tony Allen]
Oya, ẹ dide, ẹrori
さあ、立ち上がれ、__
Oya, ẹ dide, ẹrori
さあ、立ち上がれ、__
Oya, ẹ dide, ẹrori
さあ、立ち上がれ、――

※配信歌詞ではヨルバ語の声調記号や分かち書きが省略されており、フレーズ全体の正確な訳には複数の説があります。ここでは訳を特定できないため「__」と記載しました。

Intro

深いリバーブの奥から、亡くなったトニー・アレンが、生きている「私」に呼びかけています。
"Oya, ẹ dide, ẹrori"の正確な訳については、資料によって解釈が分かれています。
僕の日本語訳は下記の通りです。

Oya:「さあ」
ẹ dide:「立ち上がれ」
ẹrori:「心を奮い立たせろ」

「心を奮い立たせろ」というのはあくまで僕の意訳です。
ヨルバ語では、"ẹrori"だけだと複数の訳があります。
この曲の歌詞の文脈から、僕には「心を奮い立たせろ」という意訳が一番ふさわしいように思えます。

トニー・アレンの声には、深いリバーブがかけられています。
そして、“How Far?”と同じ歌詞が使われていながら、この曲ではまた違った意味合いに感じます。

“How Far?”では、トニーのチャントは生きたグルーヴの一部として鳴っていました。
しかし“The Hardest Thing”では、その声は深いリバーブの中へ置かれ、まるで洞窟の奥から届く死者の声のように聴こえます。

2曲目"The Moon Cave"では、死者との交流に失敗した「私」が、洞窟を離れ「純粋さを取り戻す旅」に出ました。
僕には、この曲のIntroは、その「私」の背中をまるで死者である父が洞窟から叱咤激励しているかのように思えます。

Verse

このVerseの歌詞はとても抽象的です。
誰が誰に対して、何について歌っているかが明確に示されていません。

僕はこれを、「私」が自分自身に対して歌っているように思いました。
ここではその前提でこの歌詞を解説していきます。

[2D]
You know the hardest thing
君は知っている、一番辛いことは
Is to say goodbye to someone you love
愛する人に別れを告げること
That is the hardest thing
それが一番辛いこと
And when the curtains rise
そして幕が上がるとき
And the party begins
パーティーが始まる
Do you laugh?
君は笑っているのか?
Do you break down inside
それとも、心の中では崩れ落ちているのか?
Wondering how
どうしてなのかと考えながら
How you got to the afterlife?
どうして自分が、この死後の世界へ辿り着いたのかと

※このパートの歌詞には異なる表記があります。一部の資料では“Do you love? / Do you pray? / Down inside”とされていますが、本記事ではSpotify掲載歌詞の“Do you laugh? / Do you break down inside”を採用しています。

Verse

愛する人を失った悲しみがひしひしと伝わります。

「そして幕が上がるとき」「パーティーが始まる」には、僕は二重の意味を感じます。
ひとつは、愛する人が亡くなっても、人生という舞台の幕は上がり、日常は何事もなかったように始まってしまう、ということです。
もうひとつは、実際にステージへ立つデーモン自身の姿です。

「君は笑っているのか?それとも、心の中では崩れ落ちているのか?」には、外側と内側の強烈な分裂があります。

幕が上がれば、観客の前では笑わなければならない。
パーティーが始まれば、そこに参加しなければならない。
しかしその内側では、愛する人を失った悲しみに耐えられず、崩れ落ちようとしている。

僕にはここが、喪失を抱えたまま、それでも日常や舞台へ戻らなければならない人間の姿を描いているように聴こえます。

「心の中で崩れ落ちてしまう?」は、日常の中で、あるいはステージに上がる際、自分は耐えられないかもしれない、という強烈な喪失の念だと思います。

デーモンは2020年6月のAfropop Worldwideのインタビュー記事で「彼は素晴らしかった。残りの人生をかけてトニーの素晴らしさを語り続けると思う。まさか彼がいなくなってしまうなんて、正直信じられない」と語っています。

この曲の喪失は、ひとつの人物に限定されているというより、複数の喪失が重なった層なんだと感じます。
アルバムの語り部たる「私」にとっては亡き父への喪失、デーモン個人にとっては実父やトニー・アレンへの喪失、そしてGorillazとっては過去の仲間たちへの想い。
さらに、我々リスナーにとっての喪失の想いにも開かれています。

このVerseは、「誰か一人に向けた別れの歌」というより、失われた人々の声と記憶を抱えながら、それでも進んでいかなければならない人間の歌なのだと思います。

"How Far?"から"The Hardest Thing"へ

はじめこの曲を聴いた時の感想は「おぉ、トニー・アレン!また死者が召喚された」ってくらいの感じでした。

その後この曲のIntroの歌詞が"How Far?"と似ていることに気づき、改めて"How Far?"の歌詞の和訳を見て驚きました。
"How Far?"は、客演のスケプタが「生と死が隣り合わせのストリートの緊張感」をラップし、トニーが「さあ、立ち上がれ、心を奮い立たせろ」とチャントします。

この曲"The Hardest Thing"でのトニーのチャントには、深いリバーブがかかり、まるで洞窟に響く声のように聴こえます。
僕はもうこれが「洞窟から激励する死者の声」にしか聞こえず、この曲の聴き方がガラリと変わりました。

ここで重要なのは、"How Far?と"The Hardest Thing"では、同じトニー・アレンの声が、まったく違う場所に置かれているように聴こえることです。

“How Far?”のトニー・アレンは、まだグルーヴの中にいます。
スケプタのラップ、2Dの歌声、そして曲全体の推進力の中で、彼の声は生きたリズムの一部として響いています。

しかし"The Hardest Thing"では、もうビートの中心にいる身体の声ではありません。
むしろ、身体を離れ、記憶の中から響いてくる声のようです。
それは、アルバム"The Mountain"の文脈では、死者の世界から生者に届く声のようにも聴こえます。

"How Far?"は、トニー・アレンに別れを告げる曲でした。
"The Hardest Thing"は、その別れのあとも残り続ける声と共に、もう一度歩き出す曲なのだと思います。

サウンドとプロダクション

クレジット

《プロデュース》

  • Gorillaz

  • ジェームス・フォード

  • サミュエル・エグレントン

  • レミ・カバカ・ジュニア

《作詞作曲》

  • デーモン・アルバーン

《インド楽器》

  • バンスリ(インドの竹笛):アジャイ・プラサンナ

《オーケストラ》

  • チェロ:イザベル・ダン

  • バイオリン:サラ・テューク、佐藤琴乃

  • ビオラ:シアラ・イスマイル

  • トランペット:クリス・ストール

解説

この曲のサウンドで特に重要なのは、トニー・アレンの声が「近くにいる人の声」としてではなく、「どこか遠くから響いてくる声」として配置されていることです。

彼の声には深いリバーブがかかっており、言葉の輪郭ははっきりしているのに、その声がどこから来ているのかは曖昧です。
目の前で話しているというより、洞窟の奥、あるいは記憶の底から反響しているように聴こえます。

ここで面白いのは、トニー・アレンがこの曲ではドラマーとしてではなく、声として戻ってくることです。

もちろん、トニー・アレンといえば、複雑でしなやかなグルーヴを生み出した伝説的なドラマーです。
しかし“The Hardest Thing”における彼の存在感は、リズムの肉体性よりも、声の霊的な響きにあります。

かつてグルーヴを通して人々の身体を動かしていた人が、ここでは声だけになって、深い空間の奥から生者に語りかけている。
この配置が、曲全体にとても精神的な感触を与えています。

一方で、2Dの声はとても脆く聴こえます。
トニー・アレンの声が儀式的で、遠くから響くような強さを持っているのに対して、2Dの声はもっと近く、もっと人間的で、今にも崩れ落ちそうです。

この対比が、この曲の核心だと思います。

死者の声は深く、静かで、揺るがない。
生者の声は弱く、震えていて、それでも歌い続ける。

この二つの声が同じ曲の中で重なることで、"The Hardest Thing"は単なる追悼曲ではなく、死者と生者が同じ空間にいるような曲になっています。

ストリングスもまた、派手に感情を煽るというより、悲しみを薄い膜のように広げています。
泣き叫ぶような悲劇ではなく、すでに取り返しのつかない喪失を、静かに受け入れようとしているような響きです。

そして終盤に現れるバンスリやトランペットの音色は、この悲しみの空間に少しだけ風穴を開けます。
希望とまでは言いませんが、雲間から細い光が差し込むような、まだ細いけれど芯の強さを持った蜘蛛の糸のような、かすかな光を感じます。

トニーのチャントもデーモンの悲痛な歌声も素晴らしいですが、僕が最も心を打たれるのは、このOutroのバンスリとトランペットです。

完全な救済ではありません。
悲しみが消えたわけでもありません。
それでも、閉じた洞窟の中に、外の空気が少しだけ流れ込んでくる。
僕には、この曲の終わり方がそんなふうに聴こえます。

この曲は、絶望の曲ではないと思います。
むしろ、深い失意の中にいながら、それでも歩き出すという曲です。
"The Hardest Thing"は、死者の声に励まされながら、生者がもう一度歩き出すための短い儀式のように感じます。

最後に

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

皆さんはこの曲をどう感じましたか?
音楽は開かれたナラティブです。
リスナーの数だけ解釈や感想があって良いと思います。
是非皆さんの感想をコメントや「スキ」で教えてください。

この記事の解釈をお楽しみいただけたなら、ぜひシリーズの他の記事もご覧ください。

僕の視点が、Gorillazファンに"The Mountain"への新たな入り口を提供できれば幸いです。


Thank you for reading.

Next, the journey continues with “Orange County,” where the story takes a new turn.

I hope you’ll join me for the next step.

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