放置プレイの果てに三職兼務。社長辞めた郎、まさかの第6章開幕」〜売られると思ったら、なぜか“使われ始めた男”の話〜
社長からの突然の召喚
〜1年ぶりのイベント発生音〜
ある日、スマホが震えた。
LINEだったか、Slackだったか、正直もう覚えていない。
でも文面だけは妙に頭に残っている。
「今度オフィスに行くので、少しお時間もらえますか?」
……来たな、と思った。
この「少しお時間」ってやつ、
社会人経験が長い人ほど分かると思うんだけど、
だいたい“少し”で終わった試しがない。
ゲームで言うと、
「ちょっと話がある」って言われて
城の玉座の裏に連れて行かれるやつ。
効果音で言うなら
テレレレレーン(不穏)。
考えてみれば、
こうやってちゃんと呼ばれるのは、
M&Aのクロージング以来だから、ほぼ1年ぶり。
正直に言う。
不安しかなかった。
なぜなら、状況は最悪だったから
M&Aされた後、
「よし!これで安泰!」
……なんて話には、残念ながらならなかった。
むしろ逆。
市場は、完全に荒野。
雑草すら枯れてるレベル。
大手と言われていた会社が事業撤退
別の大手はM&A
さらに別の大手は「この市場、無理です」と静かにフェードアウト
もうね、ゾンビ映画のラスト10分みたいな状況。
生きてる会社の方が少ない。
売上?立たない。
笑えるくらい立たない。
「努力が足りない」とか
「工夫すればどうにかなる」とか、
そういう精神論を全部焼き払ったあとに残る、
物理的に無理な市場。
10円で仕入れて100円で売ってた世界が、
10万円で仕入れて100円で売る世界になった感じ。
計算する意味、ある?
そして俺は暇だった(※本人比)
そんな中、俺はどうしていたか。
一言で言うと、
暇だった。
……と言うと、
「いやいや、何もしてないわけじゃないでしょ」
と言われる。
その通り。
グループのために動いてはいた。
経営者の相談に乗ったり、
社員の愚痴を聞いたり、
M&A周りの資料を手伝ったり。
でもね。
売り物がないと、人は全力で働けない。
そして元々の俺の会社の商材の進捗はゼロだ。
なんせ半年以上仕入れができていないのだから。
だから暇だと感じてしまう。
働きたいのに、
「売るものがない」
「攻める市場がない」
「打ち手がない」
これ、地味にキツい。
走りたいのに、
トラック競技場が工事中。
しかも工事完了予定、未定。
だから俺の脳内では、
こんな考えがぐるぐるしてた。
あ、売られるのかな
いや、解雇か
いやいや、ロックアップあるし
でも“役割消滅”ってやつか
ついに幽霊社員から成仏か?
前向きになる余地、ほぼゼロ。
実際に会ってみた
オフィスで会った社長は、
あの時と変わらなかった。
ぐったりしてない。
イライラもしてない。
むしろ、相変わらず穏やか。
この人のこの感じに惹かれて、
俺はM&Aを決めたんだったな、と
一瞬で思い出した。
……と同時に。
「いやいや、
1年も放置しといて
その笑顔は反則やろ(笑)」
という、
怒りに似た感情も
ちゃんと心の奥でうごめいていた。
人間って複雑。
そして告げられた、意外すぎる話
雑談が一通り終わり、
本題に入る。
俺は内心、身構えていた。
「さて、どんな宣告が来るんだろう」と。
ところが。
言われたのは、
まったく想定外の話だった。
①「実は、評判がめちゃくちゃ良い」
まず言われたのが、これ。
「社長辞めた郎さんの力が必要です。」
……はい??
「俺が“暇”でやっていたことが、
グループ内で猛烈に評価されていたらしい。」
???
話を聞くとこうだった。
M&Aされた会社の経営者や社員は、
だいたい同じ状態になる。
社長と話せない
先が見えない
相談相手がいない
自分の立ち位置が分からない
そんな中で、
社長辞めた郎が、なぜだか知らんが
どこからともなく
普通に話しかけてくる。
相談にも乗る。
しかも経験者で元経営者。
そして実作業まで猛烈に対応してくれる。
これが、
めちゃくちゃ安心材料だったらしい。
「正直、社長辞めた郎さんと
一緒に働きたいって声、結構来てます」
……マジか。
俺、
ただの暇人相談窓口
くらいの認識だったんだが。
② 任命:「PMI後フォロー担当」
その結果、何が起きたか。
俺は正式に、
PMI後フォロー担当
に任命された。
PMIってのは、M&A後の統合プロセスのこと。
つまり、
買われた会社の不安を吸い取る
社長と現場の通訳
混乱を減らすクッション材
……要は、
元社長が一番やりたくないけど、
一番必要な役割。
俺、
そんなポジションになるとは
1年前、1ミリも思ってなかった。
③ まさかの「M&Aの買い手側、手伝って」
さらに続く。
「実はもう一つあって」
嫌な予感はしなかった。
でも、驚いた。
「M&Aの買い手側としても、
一緒に動いてほしい」
……え?
俺、売られた側やぞ?
話を聞くと理由は明確だった。
俺が善意で作っていた、
事業説明資料
経営の整理資料
課題と改善案のPPT
これが、
買い手としてめちゃくちゃ使いやすかったらしい。
結果、
競合とバッティングしても勝率が上がった。
つまり俺は知らぬ間に、
M&A用の武器職人
になっていた。
④ そしてトドメの三つ目
最後に言われたのが、これ。
「人事も、お願いしたいです」
……はい?
人事?
俺?
面接官ならやったことある。
でも人事責任者的な立場は、
人生で一度もない。
でも理由を聞いて、
ちょっと納得した。
どこも人が足りない
採用がうまくいかない
組織設計が分からない
そして何より、
M&Aされた会社の“人の不安”を、
一番理解してるのが俺だった。
そりゃそうだ。
俺自身が、
一番不安だった側なんだから。
こうして始まった、第4章
気づけば俺は、
PMI後フォロー
M&A買い手サイド
人事領域
という、
三職兼務を任されていた。
どれも未経験。
どれも正解がない。
どれも正直、怖い。
でも同時に思った。
「あ、これは面白いな」と。
そして見えてきたもの
この役割を通して、
俺はこれから、
なぜM&Aされる会社は苦しんでいるのか
何が足りなかったのか
どこで判断を間違えたのか
を、
売り手でもあり、
買い手でもあり、
中の人でもある
という視点で見ることになる。
これ、
めちゃくちゃ貴重だ。
しんどいけど。
旅は続く
売られると思っていた男が、
なぜか使われ始めた。
解雇されると思っていた男が、
なぜか任命された。
放置プレイの末に、
急にイベントが三つ同時発生。
人生、分からん。
でも一つだけ確かなことがある。
社長辞めた郎の物語は、早いもので
ここから第6章に入った。
この先、
何が起きるかは分からない。
でもまた、
書ける話は増えた。
俺の旅は、
終わらない。
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