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フランケンは、なぜ「辛口一筋」を貫けたのか

今回は「ドイツの注目産地」の章から。
この章には、「ファルツ」、「バーデン」、「フランケン」、という地のワインについて書かれています。

「ファルツ」と「バーデン」はフランスと隣接している地域で、近年の温暖化の影響で「ピノ・グリ」や「ピノ・ノワール」などのアルザス地方の品種の栽培が盛んになってきているようです。理由は、これまでの記事に書いているのでぜひ参照してみてください。

今日気になったのが、次の3点です。

  • 1980年代以前、他産地が甘口ワインを量産する中、なぜフランケンは辛口スタイルを貫いてきたのか。

  • なぜドイツでは、リースリングよりもシルヴァーナーがアスパラガス料理に合わせられるのか。

  • なぜ伝統的に「ボックスボイテル」という、ずんぐりとした扁平瓶に入れられるのか。

一文としては理解できるのですが、「なぜ?」の部分が気になって、そのままにできませんでした。順番に紐解いていきます。

他産地が甘口を量産する中、なぜフランケンだけ辛口を貫けたのか

まず一つ目。以前の記事(ドイツワイン法は、なぜ「糖度」から「土地」へ向かったのか)でも書いた通り、ドイツワインは1971年制定の格付け制度「Prädikatswein」で、収穫時のブドウ果汁の糖度によってKabinett→Spätlese→Auslese...と等級が決まる仕組みでした。本来は「糖度」の指標であって「甘さ」そのものではないのですが、実際には遅摘みで糖度を上げた果汁を発酵しきらずに残糖を残す造りが主流になり、結果的に甘口ワインが量産される構造になっていたようです。

その象徴が、1980年代半ばに輸出向けで大ヒットした「Liebfraumilch(リープフラウミルヒ)」です。ラインヘッセンやプファルツなどのリースリングやミュラー・トゥルガウをブレンドした、安価で甘い量産ワインで、Blue Nunなどのブランドで世界的な知名度を得ましたが、同時にドイツワイン全体の評価を下げる一因にもなったと言われています。さらに1985年には、一部業者がオーストリア産の不凍液混入ワインを自社ワインにブレンドしていたことが発覚する「グリコールワイン・スキャンダル」が起き、消費者のドイツワイン離れが加速。これを機に、業界全体が「甘口→辛口」へと大きく舵を切っていくことになります。

つまり、フランケン以外の産地は、この転換以前は甘口路線が主流だったということです。その中でフランケンだけがなぜブレずに辛口を貫けたのか、正直、これを直接説明する一次資料までは見つけられませんでした(要確認)。ただ、状況証拠はいくつか見つかりました。

  • 土壌: フランケンはBuntsandstein(赤色砂岩)とMuschelkalk(貝殻石灰岩)という2つの土壌が中心です。石灰質なのはMuschelkalkの方で、こちらはミネラル感のある繊細な味わいを生みやすいとされています。一方Buntsandsteinは石灰質を含まない砂岩で、より柔らかく果実味のある味わいになりやすいようです。

  • 気候: 大陸性気候で夏は暑く乾燥し、冬は寒い。降水量も少なめで、これが骨格のはっきりしたワインに向いているようです。

  • 独自基準: フランケンには「fränkisch trocken(フレンキッシュ・トロッケン)」という業界内の自主協定があり、ドイツワイン法の一般的な辛口基準(残糖9g/l以下)よりも厳しい、残糖4g/l以下でないと「trocken」を名乗れないという独自ルールを持っています。

ドイツワイン協会(Deutsches Weininstitut)の公式サイトによれば、この厳格な独自基準を満たす「fränkisch trocken」は現在のフランケンワイン全体の約4割。一方、一般的な辛口基準まで含めると9割近くという情報も複数の商業メディアにありました(数値に幅があるため要確認)。いずれにしても、辛口であること自体がフランケンのアイデンティティとして相当強く根付いているのは間違いなさそうです。

個人的には、「なぜ貫けたか」の答えは、後述するアスパラガス料理との相性のように、地元の食文化とセットで辛口が定着していたからではないかな、と推察しています(ここは推察の域を出ません)。市場全体が甘口に流れても、地元で飲まれ続ける限りはブレずにいられた、という仮説です。

なぜリースリングではなくシルヴァーナーなのか

二つ目の疑問。フランケンはリースリングよりもシルヴァーナー(Silvaner)を得意としている、という点です。

歴史を辿ると、フランケンでシルヴァーナーが植えられた最古の記録は1659年、カステル(Castell)伯爵の家臣によるものとされています(修道院長が植えたという話も伝わっていますが、それは1665年にエーブラハ修道院長アルベリヒ・デーゲンがヴュルツブルガー・シュタインに植えた、別の出来事のようです)。遺伝子解析では、トラミナーと「エスターライヒッシュ・ヴァイス」という品種の交配種であることも分かっているそうです。1900年頃には収量の安定性から経済的に重要な品種となり、1950年にはドイツ全体で最重要品種に。ただし1970年代以降はミュラー・トゥルガウに首位を奪われ、シルヴァーナーが再び首位に返り咲いたのは2019年と、意外と最近の話でした。現在はフランケンの作付面積の約25%を占め、ドイツの他のどの産地よりもシルヴァーナー比率が高い産地になっています。

ただ、これだけでは「歴史的に植えられてきた」という説明にとどまり、なぜリースリングではなくシルヴァーナーだったのか、という核心には答えられていません。調べ直すと、鍵は前の章でも触れたフランケンの土壌、特にMuschelkalk(貝殻石灰岩)にあるようでした。この石灰質の土壌は、リースリングにとっては必ずしも本領を発揮しやすい土壌ではない一方、シルヴァーナーとは相性が良く、土地の個性をよりストレートにミネラル感のある味わいに変換できるとされています(Grape Guru)。実際、現在もフランケンにリースリングは存在しますが、作付面積はわずか5%ほどで、シルヴァーナーの25%とは大きな差があります。

もう一つ、気候の面でも一応の説明がつきそうです。フランケンは大陸性気候で、春先の遅霜のリスクが比較的高い産地です。リースリングは他の品種と比べて発芽が早い性質があり、これは遅霜の被害を受けやすいことを意味します(Vinerra)。これに対してシルヴァーナーがどれだけ遅霜に強いか、直接比較した一次資料までは見つけられませんでしたが(要確認)、少なくとも土壌との相性という点では、フランケンがシルヴァーナーを主役に選んできた理由に、かなり説得力があるように感じました。

味わいの違いもはっきりしていて、リースリングが柑橘や花のような香りと張りのある酸が特徴なのに対し、シルヴァーナーは香りが控えめで、ハーブや土っぽさを伴う穏やかな酸味が特徴とされています。

これが白アスパラガス(Spargel)料理との相性の良さにつながっているようです。ドイツでは春の白アスパラガス収穫期が「第5の季節」と呼ばれるほど盛り上がり、その定番の合わせ方としてシルヴァーナーが選ばれています。アスパラガス特有のほろ苦さに対して、シルヴァーナーの穏やかな酸とミネラル感が喧嘩せずに寄り添う、という説明が複数のサイトにありました。リースリングの華やかな香りだと、繊細なアスパラガスの風味を上書きしてしまうということなのかな、と個人的には理解しています(この因果関係自体は感覚的な説明が中心で、学術的な裏付けまでは確認できていません)。

これは以前の記事(ラインガウとモーゼル、地形から読み解く二大銘醸地)で書いた「香りの強さの違い」の話にも通じるところがあって、品種の個性が料理との相性まで決めてしまうのは、あらためて面白いなと感じました。


ボックスボイテルという瓶に隠された話

三つ目、フランケンワインといえば、ずんぐりとした扁平な瓶「ボックスボイテル(Bocksbeutel)」も特徴の一つです。

名前の由来には複数の説があります。最も有力とされるのは「Bock(牡ヤギ)のBeutel(陰嚢)」に形が似ているからという説。ほかにも、17世紀のハンブルクで女性が賛美歌集を教会に持ち運ぶのに使った袋「Booksbüdel」に由来する説、修道士が携行していた水筒「Bugsbeutel」に由来する説などがあるようです。

この丸みを帯びた瓶の形自体は15世紀頃の発見例まで遡り、当初は修道士や貴族が携行用に使っていたとされています。ガラス製の本格的なボックスボイテルは、シュペッサルト地方のガラス工房で作られた1720年頃のものが最古と推定されており、「Bocksbeutel」という言葉自体の文献初出は1659年、公式な用語としての初出は1728年という記述もありました(年代の食い違いがあり要確認)。

興味深いのは、この瓶が今も法律で守られているという点です。1989年のEU規則によって、ボックスボイテルはフランケンなど指定された地域以外では使用できないボトル形状として保護されています(該当規則の正確な条文番号までは特定しきれず要確認)。フランケン以外で使用が認められているのは、バーデン地方の一部(バーディッシュ・タウバーラントやバーデン=バーデンのレープラントなど)で、こちらも18世紀からこの瓶を使ってきた伝統があるとのことでした。ポルトガルのMateus(マテウス)ロゼで有名なあの瓶も、この保護の枠組みの中にあるようです。

つまりボックスボイテルは、見た目のユニークさだけでなく、「このワインは本物のフランケン産だ」という産地保証の役割も担っている瓶、ということのようです。

ボトルの色や大きさは、味わいに関係するのか

ここまで調べていて、そもそもボトル自体はワインの味わいに関係するのだろうか、という疑問も浮かびました。せっかくなので、これも調べてみます。

まずは関係があるようです。透明な瓶ほど紫外線を通しやすく、光が入るほど「ライトストライク」という劣化が起きやすくなります。紫外線によって酸化還元反応が進み、白ワインなどでは「煮キャベツ臭」や「濡れたダンボール臭」のような不快な香りに変わってしまうことがあるそうです(CoolersommPMC研究)。透明よりも緑色、緑色よりも茶色の瓶の方が遮光性が高いとされています。

大きさも関係があります。瓶の中のワインの量に対して、瓶内に残る空気(酸素)の比率が小さくなるほど熟成がゆっくり進むため、マグナムボトル(1.5L)のような大きめの瓶は、長期熟成向けのワインに使われる傾向があるようです(Bonner Private Wines)。

一方で、形そのものが味を化学的に変えているわけではなさそうです。ボルドー型(肩が角張っている)は熟成中にできる澱を留めやすく、ブルゴーニュ型(なで肩)は保管スペースの都合や注ぎやすさから、といった実用上の理由で分かれているだけのようです(COCOSのブログ)。ただし瓶の首の角度が光の入り方に影響するという研究もあり、間接的に光の当たり方を左右する可能性はあるようです(BinWise)。

これをボックスボイテルに当てはめると、あの扁平な形自体が味を変えているわけではなく、持ち運びやすさや産地証明という実用面こそが本質だったのだろうな、と腑に落ちました。

まとめ

  • フランケンは、他産地が甘口を量産していた時代にも辛口を貫いた珍しい産地。背景には石灰質の土壌や独自の辛口基準「fränkisch trocken」があるが、「なぜ貫けたか」の核心は一次資料では裏付けきれず、地元の食文化との結びつきではないかと推察している

  • シルヴァーナーが選ばれるのは、香りが穏やかでアスパラガス料理の繊細な風味を邪魔しないから。フランケンでの首位品種としての歴史は古いが、実は現在の地位を取り戻したのは2019年と意外と最近

  • ボックスボイテルは、見た目のユニークさだけでなく、EU規則で保護された産地証明の役割も担う瓶

  • ボトルの色や大きさはワインの味わいに関係するが、形そのものは実用上の理由で分かれているだけで、味を化学的に変えているわけではなさそう

  • 辛口比率の具体的な数値(4割/9割など)や、フランケンだけが辛口を貫いた直接的な因果関係については、情報源によって幅があり、まだ推察の域を出ていない部分がある(要確認)

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