それ、本当にオアハカ刺繍?プエブラ刺繍の見分け方と、市場で起きている混乱──ハイブリッド刺繍の存在【現地調査】
それ、本当にオアハカ刺繍?
オアハカでは、刺繍は「村の名前」で呼ばれる文化です。
でも今、市場では別の地域の刺繍が「オアハカ」として売られていることがあります。
こんにちは、オアハカ在住のさるです。
旅行で購入した「オアハカ刺繍」として紹介されているものの中に、実は別の地域の刺繍が混じっていることもあります。
その代表がプエブラ刺繍です。
「これ可愛い!」と気に入って買うのはいい。
運命の出会いだと思うし、メキシコの刺繍は本当に可愛い。
でも、「オアハカ刺繍」として紹介してしまうと、文化的に誤解を招くことがあると思っています。
今日は、長年刺繍ブラウスの買い付けをしてきたバイヤー視点と、4日間かけて行った市場調査をもとに、
・プエブラ刺繍の特徴
・市場で起きている変化
・第三の刺繍の存在
についてまとめてみます。
個人の調査なんで…異論は認める。笑
市場で良く出会う「オアハカだよ!」勢
今回、改めて市場で刺繍の産地を確認してみました。
観光客のフリをして……というか、日本人だから普通に観光客に見えるんだけど(笑)。
明らかにプエブラに見えるブラウスを指して、
「これはプエブラ?」
と聞くと、
「オアハカだよ」
と高確率で返答。
さらに村名を聞くと、
「オアハカで作ってる」
の一点張り。
正直、そこまでオアハカっていうんだからオアハカなのか?いや、この特徴どうみてもプエブラだろ?と思ってしまう。
なかには、「それは、私が刺繍している」という店員さんまで出てきた。笑
翌日も市場へ。
結局、謎が謎を呼び、調査は4日間に及びました(粘着すぎ)。
若い店員さんはほぼ100%オアハカと言いましたが、年季の入ったオーナーさんに聞いたら――
「それはプエブラだよ」
きちんと答えてくれました。
他にも、
「それはプエブラ。テワカン刺繍。私は嘘をつくのが嫌なの」
という方も。
経験上、店舗オーナー本人の方が情報の精度は高い印象です。
さらに念のため、テキスタイル博物館のショップスタッフにも確認しました。
すると、見分け方の特徴が、私が思っていたものと同じで、やっぱりそうかも、という一つの答えが見えてきました。
そして、色々と複雑になっている問題の一つ、刺繍図案のコピー問題は、海外だけでなくメキシコ国内でも広がり、刺繍の持つ意味があいまいになっているのです。
プエブラ刺繍の特徴と見分け方
オアハカの市場には、メキシコ各地から集められた刺繍ブラウスが並びます。
さらに、市場に流通しているプエブラの量産タイプは、比較的価格が抑えられていることが多い。
それが、日本で広く流通している理由の一つになっています。
これが日本で知名度の高い、いわゆる“プエブラ刺繍”または“メキシコ刺繍”と呼ばれているタイプです。

写真をみたらなんとなく共通点わかりますか?
長年、目安の一つとされてきたのは、例えば次のような特徴です。
・「ピコ」と呼ばれるギザギザ装飾
・マーガレットやコスモスのような花柄
・前身ごろ中央に大きな刺繍が入る構成
カホン(胸元の合わせ部分)に入るギザギザ装飾のピコ。
これが一番特徴的だと思う。

日本で「プエブラ刺繍」として知られているものには、こうした特徴が見られます。
メキシコ文化紹介雑誌『Mexico Desconocido』でも、プエブラ州San Gabriel Chilac村の刺繍として紹介されています。
高級なものはさすが!と思うクオリティですが、良く市場に出ているものは写真を見たら、ああコレコレ!ってなる、よく知られるメキシコ刺繍です。
オアハカでは、この刺繍を「テワカン刺繍」と呼ぶ場合もあります。
見分け方が通用しなくなってきた理由
今回の調査で気づいたのはここでした。
あれ?このプエブラでもないオアハカでもないニュータイプな刺繍服はなんなの?
これを調べるキッカケになったのは、1枚のタグでした。

市場に増えている「ハイブリッド刺繍」
この企業様。
メキシコの手仕事を世界に広める事業に取り組んでいます。
サイトをみたら、
プエブラ伝統刺繍、オアハカの伝統刺繍もあれば、
自社でデザインした複数地域の特徴を併せ持つデザインも見られました。
商品は、現地の刺繍職人と提携活動しているらしい。
プエブラの特徴とオアハカの特徴を併せ持つハイブリット刺繍服。
色々なお店で聞いたけどプエブラだったり、オアハカだったり。
みんなが違う事をいう、不思議な商品。
興味ある人はサイトを見てください。
本来の地域刺繍とは異なり、複数の地域意匠が組み合わさったタイプを、この記事では「ハイブリッド刺繍」と呼びます。
プエブラの特徴である胸元のピコに、前身ごろにはオアハカのサンアントニーノ風な縦長の刺繍が入って、脇にも長い刺繍が入っているタイプ。

各地方の特徴のいい所どりで、カラフルで可愛い。
プエブラっぽく見えるけど、プエブラにはないデザイン。
メキシコらしさを彷彿とさせる、新しい刺繍デザインです。
そして、ハイブリッド刺繍を作った企業のデザインを、また誰かが真似をする……。
結果!どんどん迷路に迷い込んでいく。笑
見ても混乱するだけだよ!やられたねー。
これはもう、プエブラでもない。オアハカでもない。
「メキシコ刺繍」と呼ぶべきものなのかもしれない、と思いました。
なぜ私は「刺繍の地域性」を気にするのか
オアハカでは刺繍は単なるデザインではありません。
刺繍ブラウスやウィピルは、
「○○村の刺繍」
として呼ばれる文化です。
つまり刺繍は、コミュニティのアイデンティティでもあります。
だから、私の頭の中ではオアハカの○○村の刺繍以外は
「商業&観光用商品」カテゴリーになり、
村の刺繍じゃない=少なくとも「村由来のオアハカ刺繍」とは別物として捉えています。
極端だけど、
メキシコシティで、オアハカを代表する、繊細な小花刺繍が特徴のサンアントニーノの刺繍ワンピースを作ったら、それはサンアントニーノ刺繍とは呼べない、というのが私の考えです。
同じく、これ。
サンアントニーノの職人さんが聞いたら、コピーや盗用と感じる職人もいるほど、強い問題意識がある分野です。
うまく言えないけど、そういうこと。
私は、長く村の手仕事を優先して扱ってきました。なので、村のアイデンティティの見えない刺繍ものには違和感を感じるんです。
ほぼ病気?職業病かもしれない。
このハイブリッド刺繍は調べてみると、メキシコだけでなく、いま全世界の民族ファッション市場でも見られる流れです。
とはいえ、市場の刺繍ブラウスが、アイデンティティがないから劣るとか悪いわけではありません。
観光向けの刺繍も「ファッション」として注目され、存在しています。
昔から存在していたハイブリッド例
ちなみに、昔からあるのはこのタイプ。初期のハイブリッド刺繍とも言えると思います。
ペダル織りが盛んなミトラ周辺の生地と、刺繍が盛んな地域の委託刺繍を組み合わせ作っているものです。


私がオアハカに来た時からあったタイプ。オアハカで作っているよって言えるタイプ。
さらに、ハイブリッド刺繍でも袖にレースが付いていると、デザイン自体はプエブラっぽく見えても、仕立てや装飾の印象から、いきなりオアハカ型のハイブリッドに見えてくる。
SNS紹介や販売時に気をつけたいこと
メキシコ刺繍が可愛い。それは間違いない。
でも、オアハカで買った刺繍をすべて「オアハカ刺繍」と呼んでしまうと、本来の文化的背景が見えにくくなります。
特に、バイヤーさんが現地まで買い付けに来て販売する場合はなおさらです。
もし判断が難しい場合は、
「オアハカ刺繍」ではなく
「オアハカで購入した刺繍ブラウス」
「メキシコ刺繍ブラウス」
と表現する方が販売時の誤解を防げると思っています。
これは、現地で長年刺繍を扱ってきた、バイヤー目線、ものを販売する立場からのアドバイスです。
特に今回のハイブリッド刺繍は、村の意匠やイメージが引用され、「メキシコらしさ」を表現するファッションとして成立しているからです。
文化を守る意味でも、すでに物議を醸している分野でもあります。
メキシコらしい融合商品が生まれているなら、村の持つアイデンティティを残すことは、本気で大切なことだと感じます。
最後に
いままでSNSで「オアハカ刺繍」として紹介されているものの中に、「プエブラ刺繍」や「ハイブリッド刺繍」が混ざっているのを見て、白目を剥いていました。笑
そういうのを何度か目撃して、この記事を書こうと思ったのです。
書いてよかった。
私も、いま現場で起きている新しい流れが見えました。
村の刺繍ばかり追っていたら気づかなかったと思います。
可愛いから買う。それは素敵なことです。
そこは、私が今回指摘したい点ではありません。
でも、メキシコの刺繍文化を紹介するなら、ちゃんと理解して欲しい。
正しくオアハカの手仕事を紹介して欲しい。
それは、いつも私が願って、自分でも実践していることです。
この記事が刺繍文化を見直すきっかけになれば嬉しいです。
▼前回のセルフチェック記事
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▼みんなが好き勝手に呼んでいた結果の名称の混乱
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