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首に蛇を巻いた男、逆上がりをする女


 首に蛇を巻いている男がいた。
 路地裏ではなく、お日様が眩しい日曜日の公園で。入口を入ってすぐの芝生の上、蛇を首に巻いて、腕をくねらせながら舞うように蛇と見つめあっていた。

 Tシャツに麻のパンツを身につけて、足元はラフなサンダルだった。どことなく異国情緒あふれる雰囲気もするけれど、日焼けしているだけの日本人にも見える。

 蛇を首に巻いている男の周りには2組の親子連れがいて「すごーい」「へびだぁ」と感嘆の声をあげている。

 が、この男は大道芸人ではない。

 蛇男のかたわらに息子と娘らしき子どもたちがいて、その子たちも同様に首に蛇を巻いている。蛇男ではなく蛇家族であった。

 娘と思しき小学生ぐらいの少女が蛇の首を掴もうとしているが、なんだか微妙にぎこちがなくて、蛇男がそれを咎める。
「ちがうちがう。持ち方が違う。」

 蛇男の顔は真剣である。そりゃそうか。一歩間違えば娘は蛇に噛まれてしまうんだから。蛇家族は周りにギャラリーがいることもお構いなしに、蛇の持ち方と操り方を真剣に練習しているように見えた。

 わが家の息子たちも「へびだ!」と蛇家族の正面に陣取って、体育座りで芝生に座ろうとした。大道芸には必ず引き寄せられて、最後にフラフープや縄跳びを購入しがちなので今回もそれと同じだと思ったのだろう。

 「見ててもいいですか?」と聞いてみようかと一瞬頭をよぎったが、5人家族のわが家が目の前に座ったらそれはもう大道芸のそれみたいになってしまうわけで。わが家がカマボコ状のギャラリーを完成させるのは忍びないと思った。

 「お邪魔になるから」と諭してその場を離れるよう子どもたちを促す。「この方たちは見せようとしているわけじゃないから」私はそう言おうとして、その言葉を飲んだ。

 この方たちは見せようとしているわけじゃないから? ……本当に?

 駐車場が併設されているほど大きな公園で、誰もが通る入口横の、子ども連れが賑わう芝生広場で蛇使いの練習をしているのは「見せようとして」そこにいる可能性も、あるんじゃないだろうか。


 見せようとしているのか、見せようとしていないのか、判断が難しいシーンは他にも存在する。蛇家族を見送ってから、私の脳裏には別のものが去来する。

 それは、リフティングをしている親子である。もとい、リフティングをしているお父さんである。

 「ほら見ろ!こうやるんだぞ、いち、にぃ」
と子どもにリフティングをやってみせながら、公園中の視線を集めることに成功しているお父さんをたまに見かける。むろん、私も見ちゃうし、息子もすげーって顔で見てる。当のお父さんはそんな視線には全然気づかないぞ、という顔をしながら胸トラップまで魅せてくれたりするのだけれど、あれって見ててもいいんですか。

 見ててもいいのだろうか、自分に置き換えて考えてみる。私の場合はどうだろう。見ててもいいと思いながらしていることはあっただろうか。



 ……あるな、あるわ。
 実は私は鉄棒がものすごく得意なのがプチ自慢なのだが、その鉄棒技を披露する場が無い。そんな私が、唯一鉄棒を披露できるシーンが「子どもに鉄棒を教えるシーン」である。

「逆上がりできなーい」と言う子どもたちに
「ほら、こうやるんだよ、見ててごらん!」と言いながら豪快に逆上がりをして、ついでにクルクルと回ってみせる。

 と、この時、もしも他のご家族のお父さんお母さんお子さんがいたら、ぜひ見ててもいいですよ、と心の中で思っていたりする。
「ママすごい! もっとやって!」
 などといい感じに子どもがリクエストしてくれたなら「んもーしょうがないなぁ」と言いながらも内心ニタニタして別の技でクルクルを披露する。これは、見てていいやつ。っていうかなんならちょっと見ててほしいやつ。

 しかし、その一方で見られたくないのもある。面倒なことを言って申し訳ないんだけど。

 例えば縄跳び。これも「こうやるんだよ」とか言いながら子どもと一緒に練習したりするのだが、実は子どもに教えているフリをしてダイエットをしている。1人で縄跳びをするのは恥ずかしいが、子どもに教えているフリなら恥ずかしくない。問題なのは、産後の女性にとっての縄跳びは鬼門だということで、出産によってゆるんだアレがアレして若干前のめりの体勢になってしまうのだ。

 だから、もしも縄跳びをしたり二重跳びをしていても、見ないでほしい。絶対に。



 鉄棒は見られたいが縄跳びは見られたくない。鬼ごっこも走り方が無様だから見られたくない。そんなしちめんどくさい心情を、もしも私以外の公園にいる全てのお父さんお母さんが持ち合わせているとしたら、私が見つめていいのは誰になるんだろう。

 リフティングをしていたけど失敗して公園からボールが出ちゃっておむすびころりんすってんとんと追いかけるお父さんはたぶん見ない方がいいし、虫取り網で一撃でトンボを捕まえたお父さんは見つめた方がむしろいい気がする。井戸端会議中のお母さんたちには目が行きがちだけど、あんまり見ない方がお互いのため。


 よくよく観察してみれば、私の視界にはキャッチボールやザリガニ釣りやテントで昼寝など、実に様々な親子が過ごしているのが映る。


 息子が大きな声で私を呼んだ。
「ママ見ててー! リフティング15回出来るようになったから! すごいでしょ!」

 太陽が眩しい。私の横を通り過ぎていく別の家族が、晴れやかに笑っている。
「ねぇ! へびの人たちすごかったね!」

 

 そうか。蛇家族も、リフティングのお父さんも、鉄棒で回る私も、そして息子も。みんな少しだけ「見て、すごいでしょ」と言っていたのかもしれない。




 



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