エプソムソルトを切らして「にがり」を入れてみたら、ポカポカしなかった話
ある日、エプソムソルトを切らしていました。
でも家には「にがり」がある。どちらもマグネシウムなんだから、同じようなものだろう——そう思って、お風呂に入れてみたんです。
結果、あのポカポカが出ませんでした。
お湯に浸かっている間は温かい。でも上がったあと、じんわり続くはずのあの感じがない。しっとりはするのに、温かさが残らないんです。
気のせいかと思って何度か試したのですが、やっぱり違う。調べてみたら、ちゃんと理由がありました。
1. まず、ややこしい3つを整理する
マグネシウムの話がわかりにくいのは、名前の似た物質が3つあって、それぞれ役割がまったく違うからです。

私が長いあいだ混同していたのが、「にがり=酸化マグネシウム」という思い込みでした。これは間違いで、にがりの主成分は塩化マグネシウムです。海水から食塩を取り除いたあとに残る液体で、豆腐を固めるときに使うあれですね。
酸化マグネシウムは、病院や薬局で便秘薬・制酸剤として出されるもの。そもそも水に溶けないので、お風呂に入れても何も起きません。飲むと効くのは、胃酸によって溶けるからです。お風呂には胃酸がありません。
つまりお風呂に使えるのは、上の2つ。どちらも水に溶けて、ちゃんとイオンになります。
では、なぜ体感が違ったのか。
2. 理由その一:量が全然足りていなかった
家庭用の浴槽(約200L)に対する目安は、こうされています。
エプソムソルト:150〜300g
塩化マグネシウム:100〜200g
私が使っていたのは、料理用の液体のにがりでした。液体のにがりはほとんどが水なので、100mL入れてもマグネシウムの量は数グラム程度にしかなりません。
エプソムソルト150gと比べると、桁が2つ違います。これでは体感が出なくて当然でした。
「マグネシウムだから同じ」ではなく、どれだけの量が入っているかを見なければいけなかった、ということです。
3. 理由その二:保温の主役が入っていなかった
こちらのほうが本質かもしれません。
以前の記事で、入浴剤の保温効果のしくみを書きました。塩類が皮膚表面のタンパク質と結合して薄い膜(ベール)をつくり、熱の放出を防ぐというものです。
ここで改めて確認すると、その主役として名指しされているのは——
硫酸ナトリウム(芒硝)と、硫酸マグネシウム。
つまり硫酸イオンを持つ塩類なんです。エプソムソルトは、まさにこれそのものです。
では塩化マグネシウムはどうか。たしかに温泉の世界では、塩化物泉が「熱の湯」と呼ばれて保温効果が高いことで知られています。ただしあの膜をつくっているのは、主に塩化ナトリウム(食塩)です。
そしてにがりは、海水から食塩を取り除いた残りでした。
硫酸イオン → ほとんどない
塩化ナトリウム → 取り除かれている
保温の膜をつくる主役が、両方とも欠けている状態だったわけです。
実際、この2つは効果の質が違うものとして説明されています。塩化マグネシウムは保水(肌に水分を取り込む)寄り、硫酸マグネシウムは保温寄り。
「しっとりはするけど、ポカポカはしない」——私が感じたことは、この違いそのものでした。
4. 目的で選び分ける
わかったことをまとめると、こうなります。
湯冷めしにくさ・温かさの持続が目的なら → エプソムソルト
保温効果の主役である硫酸イオンを持っています。さら湯との比較実験で保温効果・血流増加が確認されているのも、こちらです。
しっとり感やコスパが目的なら → 塩化マグネシウム(マグネシウムフレーク)
重量あたりのマグネシウム量が多く、価格も抑えられます。ただし塩化物なので、敏感肌の方は刺激を感じることがあります。
お風呂には向かないもの → 酸化マグネシウム
そもそも溶けません。飲み薬としての用途です。
もうひとつ実用的な注意点として、塩化マグネシウムは金属部品への腐食性があるため、追い焚き機能付きの浴槽では避けたほうが無難とされています。この点でもエプソムソルトのほうが扱いやすいです。
5. そして、洗い流さないこと
前にも書きましたが、これが一番大事かもしれません。
保温効果は、皮膚の表面に残った成分が膜をつくることで生まれます。だからお風呂から上がったあと、シャワーで流してしまうと、その膜ごと落としてしまうことになります。
無機塩類系の入浴剤は、洗い流さないほうが効果を高められるとされています。せっかく入れたのなら、そのまま上がってください。
ひとつだけ、はっきり書いておきます
にがりは食品なので、つい「体によさそう」と思ってしまいます。私も最初そうでした。
でも、濃度の高いにがりをそのまま飲むのはやめてください。下痢や、電解質のバランスが崩れることがあります。入浴目的で買ったものは、入浴だけに使ってください。
それから、これはエプソムソルトもにがりも共通ですが、腎臓の働きが落ちている方は、マグネシウムが体内に溜まりやすくなります。腎臓に不安のある方、透析を受けている方は、入浴剤であっても使う前に主治医に確認してください。
お風呂そのものの注意もひとつ。熱いお湯に長く、飲んだあと、脱衣所が寒い——このあたりは血圧が急に動くので避けてください。のぼせ・めまい・動悸を感じたら、すぐに出ることです。
肌に赤みやかゆみが出た場合も、続けずに中止してください。
6. 名前で判断しない、ということ
今回いちばん感じたのは、「マグネシウム」という名前だけを見て同じものだと思ってはいけないということでした。
結合している相手が違うだけで、溶けるか溶けないかが変わり、お風呂で効くか効かないかが変わり、飲み薬になるのか入浴剤になるのかまで変わる。
同じことは、サプリメントを選ぶときにも当てはまります。「マグネシウム配合」と書かれていても、どの形態かによって吸収率も、お腹への影響も、得意な用途も違ってきます。
裏の表示を見る。何と結合しているのかを確認する。どれくらいの量が入っているのかを確かめる。
私が食べ物の原材料表示を見るようになったのと、まったく同じ話だったんだな、と思っています。
失敗したおかげで、ひとつ賢くなりました。
参考にした情報源
株式会社バスクリン「温泉ミネラル」研究領域ページ
花王「入浴剤にはどのような効果がある?入浴剤の効果を高める入浴方法を紹介!」
アース製薬「入浴剤のおすすめはどれ?入浴剤の種類と特長について」
北海道薬剤師会「北海道の温泉」(塩化物泉の皮膜形成と保温)
ビアンカクリニック「マグネシウム風呂とは?美容内科医が教える入浴の新習慣」(分量の目安)
Wikipedia「にがり」「酸化マグネシウム」
日経Gooday「あの"にがりダイエット"とは何だったのか?」
日本塩工業会「塩の作り方とにがりの品質」
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この記事について
この記事は健康に関する情報の共有を目的としたもので、医学的な診断・治療の助言ではありません。にがりは食品ですが、濃度の高いものをそのまま飲むと下痢や電解質の異常を起こすことがあります。入浴目的で購入したものを口に入れないでください。また、腎機能が低下している方ではマグネシウムが体内に蓄積するおそれがあります。腎臓に不安のある方、透析を受けている方は、入浴剤・サプリメントを問わず、使用前に主治医にご相談ください。入浴中にのぼせ、めまい、動悸を感じたらすぐに湯船から出てください。肌に赤みやかゆみが出た場合は使用を中止してください。
