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エプソムソルトのお風呂が「湯冷めしにくい」本当の理由

エプソムソルトの話をすると、どうしても「マグネシウムが肌から吸収されるのか」という議論になりがちです。前回、それについては「否定も証明もされていない」と書きました。

でも実は、吸収とはまったく別のところに、もっとはっきりした根拠があることがわかりました。今日はそちらの話です。


1. 日本では「保温」の効果として認められている


日本の入浴剤は、大きく6つのタイプに分けられます。そのうち、硫酸ナトリウム(芒硝)や硫酸マグネシウム(エプソムソルト)を主成分とするものは「無機塩類系」と呼ばれるカテゴリです。

そしてこのカテゴリの効果として明確に位置づけられているのが、保温効果です。

ここが重要なのですが、これは「マグネシウムが体内に吸収されて効く」という話ではありません。まったく別のメカニズムです。


2. 皮膚の表面に「ベール」ができる


無機塩類系入浴剤のしくみは、こう説明されています。

硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなどの塩類が、皮膚表面のタンパク質(アミノ酸)と結合して、薄い膜(ベール)をつくる。

この膜が熱の放出を防ぐため、お風呂から出たあとも体温が下がりにくくなる。つまり「湯冷めしにくい」「ポカポカが長く続く」という状態が生まれます。

温泉の世界でも同じことが古くから知られています。塩化物泉が「熱の湯」と呼ばれるのは、皮膚表面のタンパクや脂肪と塩分が反応して皮膚を膜状に覆い、発汗を防いで保温効果が強まるからです。そしてこの保温の持続によって、末梢の血流が改善するとされています。

体の中に入るのではなく、体の表面に留まって働く。これがエプソムソルト入浴の主な作用です。


3. さら湯との比較実験がある


入浴剤メーカーの研究では、硫酸マグネシウムについて40℃・10分間の全身入浴という条件で、何も入れないお湯(さら湯)との比較が行われています。その結果、保温効果と血流増加効果の両方が認められたと報告されています。

ここが経皮吸収の議論と決定的に違う点です。経皮吸収の研究は「対照群がない」「再現されていない」という弱点を抱えていましたが、保温効果についてはさら湯という比較対象を置いた検証が行われています。

日本の学術誌に掲載された総説でも、入浴剤のタイプ別の効果として、炭酸ガス系は血行促進効果、無機塩類系は保温効果、スキンケア系は保湿作用、というかたちで整理されています。


4. むくみに対するデータもある


これは私にとって特に興味深かったのですが、硫酸マグネシウムを含む炭酸ガス入浴剤について、足のむくみに対する有効性を客観的に実証したという研究報告もあります。

炭酸ガスによる血管拡張作用に加えて、硫酸ナトリウム・硫酸マグネシウムによる保温・血流促進が組み合わさるという説明です。

「むくみは血流の滞りが関係している」という以前書いた話と、きれいにつながります。湯船に浸かるだけでむくみが変わったという体感には、こういう裏付けがあったということです。


5. 実践で知っておきたいこと


この仕組みがわかると、使い方も変わります。

お風呂から出たあと、洗い流さないほうがいい。

保温効果は皮膚表面に残った成分が膜をつくることで生まれるので、上がり湯で流してしまうと、その膜ごと落としてしまうことになります。無機塩類系の入浴剤については、洗い流さないほうが効果を高められるとされています。

もうひとつ。リラックスを目的にするなら、熱いお湯より39℃前後のぬるめのお湯のほうが向いています。副交感神経が優位になりやすい温度帯です。

そして、これは効果の話とは別に、書いておきたいことです。

お風呂は、事故が起きる場所でもあります。

とくに気をつけたいのは、熱いお湯に長くつかること、飲んだあとに入ること、そして脱衣所と浴室の温度差です。血圧が急に動くので、高血圧・心臓や脳の病気がある方、ご高齢の方は影響を受けやすくなります。

この記事で「ぬるめのお湯」をすすめているのは、リラックスのためだけではなく、そのほうが体への負担が小さいからでもあります。

それと、入浴中は思っている以上に汗をかきます。前後に水分をとってください。

のぼせる、めまいがする、動悸がする。そう感じたら、もったいないと思わずにすぐ湯船から出てください。保温効果より、そっちが先です。


6. 正直に書いておきたいこと


こうした研究の多くは、入浴剤を製造しているメーカーによるものです。企業が自社製品について研究し、結果を公開すること自体は正常なことですが、利害関係がある情報源だという前提は持っておいたほうがいいと思います。

そのうえで、経皮吸収の議論と比べると、こちらのほうが確実性は高いと感じています。理由は3つあります。

  • さら湯という比較対象を置いた検証が行われている

  • メカニズムが単純で説明がつく(体内に入る必要がない)

  • 日本では入浴剤の効能として制度上も位置づけられている


7. まとめ


エプソムソルトのお風呂について、私は今こう理解しています。

マグネシウムが体に吸収されるかどうかは、まだはっきりしていない。
でも、湯冷めしにくくなること、血流が上がることには、比較実験にもとづく根拠がある。

そして体が温まった状態が続けば、血流が良くなり、むくみが取れやすくなり、眠りにも入りやすくなる。吸収の話を抜きにしても、十分に意味があるということです。

私が最初に感じた「お腹がじんわりポカポカ温まる感じ」。あれは気のせいではなく、ちゃんと説明のつく現象だったのだと、調べていて腑に落ちました。


参考にした情報源

  • 渡邊智・石澤太市・綱川光男「入浴剤の現状と展望」(J-Stage 掲載)

  • 株式会社バスクリン「温泉ミネラル」研究領域ページ(硫酸マグネシウム 40℃10分間全身入浴のさら湯比較)

  • 株式会社バスクリン「足のむくみに対する硫酸マグネシウム含有炭酸ガス入浴の有効性を客観的に実証」

  • 花王「入浴剤にはどのような効果がある?」

  • アース製薬「入浴剤の種類と特長について」

  • 日本温泉協会「温泉の医学的効果とその科学的根拠とは!?」

  • 北海道薬剤師会「北海道の温泉」(塩化物泉の皮膜形成と保温)

  • 日本浴用剤工業会


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この記事について

この記事は健康に関する情報の共有を目的としたもので、医学的な診断・治療の助言ではありません。入浴中の事故は、高齢の方や、高血圧・心疾患・脳血管疾患のある方で起こりやすいことが知られています。熱い湯での長時間の入浴、飲酒後の入浴、脱衣所と浴室の大きな温度差は避けてください。入浴前後の水分補給も忘れずに。のぼせ、めまい、動悸を感じたらすぐに湯船から出てください。持病のある方、通院中・服薬中の方、妊娠中の方は、入浴の習慣を変える前に主治医にご相談ください。小さなお子さんと入浴する場合は、目を離さないでください。

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