『自分らしさに向かって(仮)』#6
◀︎『自分らしさに向かって(仮)』#5
今日5件目の猫探し依頼で、ビリーとルナはモーリスさんの家を訪ねていた。
ビリーは、モーリスさんの背後にあるテーブルに乱雑に置かれた求人広告が気になっていた。
一方で、ルナの視線は、さっきから部屋の隅にある別の小さなテーブルに釘づけだった。話の切れ目を見つけるや否や、
「すみません。あそこに置いてあるものは何ですか?」
と、たまらずモーリスさんに訊いた。
「ルナ、今は猫探しの依頼で来てるんだよ。」
「ごめん、ビリー。でも、気になっちゃって、猫に集中できないんだよ…」
「あっ、いいですよ。時間もありますから…。でも、商業的には失敗作なんです…」
「えっ?なんでですか?見た感じ出来はすごく良さそうなのに…」
「これは、鍵を掛けたら《絶対に開かない錠前》」
「これは、コインを入れたら《絶対に取り出せない貯金箱》」
「これは、切ろうとしても《絶対に切れないハサミ》」
「機能はバッチリなんですけど、雑貨屋とかに持ち込んでも、取り合ってもらえませんでした」
ビリーは、「まぁ、そうだろう」という顔で聴き流していた。
しかし、ルナは目をキラキラさせながら、
「本当に、開かないの?」
「本当に、取り出せないの?」
「本当に、切れないの?」
と、矢継ぎ早に前のめりにたたみかけた。
「あぁ、本当だよ」
「なんなら、どれか試してみるかい?」
「そしたら、まずは、《絶対に開かない錠前》からいこうかな?」
ビリーは内心でつぶやいた。
——ぜんぶ行く気か? こいつ
——今日は、ここで終わりかな。
モーリスさんは、《絶対に開かない錠前》を2つ持ってきて、ルナに渡した。
「こっちが鍵を掛ける前のもの。こっちが、鍵を掛けた後のものだよ」
ルナは天然っぽいけど、直感も鋭い。
「おじさん、これ、本当にさっきまで開いてたものを閉じたんですか?」
「お嬢さんは、見かけによらず、疑り深いね」
「では、目の前で鍵かけるよ」
モーリスさんは、そう言って、ルナの目の前で錠前を閉じた。
「さぁ、これでいいかい?」
モーリスさんは、最初は作品について、訊かれるのが嫌そうだったけど、ルナの喰いつきに、なんか機嫌が良さそうだった。
「ありがとうございます。これで全力で挑めます」
ルナが、全力で挑むと言った。
猫を追って街中を走り回っているときとは、まるで違う顔だった。
ビリーは、不思議なものを見るようにルナを見ていた。
「あっ、ちょっとチートかもしれないけど、スキル使ってもいいですか?」
「もちろん。破壊しなければ、どんなスキルを使ってもいいよ」
——モーリスさん、ずいぶん自信があるんだな。
「ありがとうございます。では、早速」
ルナは背中の小さなカバンを下ろし、中から工具箱を取り出した。
そして細い工具を一本選ぶと、そっと鍵穴へ差し込んだ。
ルナがスキル《解錠》を発動させると、指先が鍵穴の奥を探るように動きはじめた。
けれど、いつものような手応えは返ってこなかった。
1分が経ち、2分が経ち、
…
そして、5分が過ぎた頃。
街中を走り回っても涼しい顔をしていたルナの額に、今は汗が浮かんでいた。
「あーっ!開かないっ!」
「……」
「すみません。これお借りしてもいいですか?ちゃんとお返ししますので」
どんだけ負けず嫌いなんだ。
ビリーは、ルナを見ていた。
「いいよ。鍵を掛けてしまったものは、使い道ないからね」
モーリスさん、使い道ないって自覚してるのか?などとビリーは考えていた。
「あと……他の2つも、借りていいですか?」
「えっ」
ビリーとモーリスさんの声が重なった。
猫の聴き取りもようやく終えて、ビリーとルナはモーリスさんの家を後にした。
ルナは、
《絶対に開かない錠前》
《絶対に取り出せない貯金箱》
《絶対に切れないハサミ》
3つも借りてきた。
モーリスさんも、はじめはなんか取っ付きづらかったけど、ルナが喰い付き出してからは、だんだん穏やかな表情に変わっていた。
ルナは、歩きながらも《絶対に開かない錠前》をいろいろと分析していた。
もう、フェリアの北西にある男爵家の居城の近くにオレンジ色の陽が隠れようとしていた。
ルナの手の中では、開かない錠前が夕陽を受けて、小さく鈍く光っていた。
ビリーの頭には、モーリスさんの背後に積まれていた求人広告が、なぜかまだ残っていた。

※ featuring シンフォニム「価値は用途が決める」
「特徴、用途、価値」
※ このオリジナル創作小説の世界観から、Sunoで生成した楽曲です。
それぞれのことばが、
迷いながら創るあなたの、小さな創作のヒントでありますように。
#創作のヒント
#思考のヒント
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Photo: Unsplash
(c) s.f.出版
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