創作論|ファンタジー小説の世界観|アイディアからの拡げ方・深め方
はじめに
子どもの頃からファンタジーが大好きで、気づけば、妄想で一日をぼうっと過ごすことができるほど、ファンタジーにのめり込んできた稿累華です。
ハリー・ポッターや、ロード・オブ・ザ・リング、十二国記、キノの旅、天空のエスカフローネ、FINAL FANTASYなど、メディアを問わず無差別に通ってきた結果、自分でもファンタジーの世界を作りたい! 書きたい! と思って、早20年近く……飽きることはありません!
きっと、おばあちゃんになるまで妄想は止まらないでしょう。
そんな感じで好きを突き詰めた結果、昨年は創作大賞2025のファンタジー部門で入選することができました。
創作大賞は2022年から3年間、ファンタジー部門だけ入選も含めて受賞履歴がなかったのですが、尊敬する上村肴さんとともに、受賞履歴なしから入選できたのはうれしい思い出です。
さて、私はずっと異世界ファンタジーの書き手です。
異世界が好きなんです。ここではないどこか、が好きです。
ということで、今回は、20年間妄想をしつづけてきた異世界ファンタジー(ないしハイファンタジー)物書きの私が、どういうふうに世界観を作って、イメージを膨らませているのか、実際の創作物からご紹介しようという記事です。
創作大賞2026で、ファンタジー小説部門を目指される方もいらっしゃるかと思いますので、どういうふうに世界観を膨らませて書いているのかは、創作や推敲にお役立ちできるのではないかと思います。
とはいえ、世の中には世界観の作り方に関する本や記事はすでに出回っており、おそらくすでに読まれている方も多いのではないかと思います。
出回っているものと同じようなことを書いても人によっては食傷気味かもしれませんので、今回はひとつのアイディアから、実際の物語でどんな感じで膨らませていっているのか、思考プロセスのようなものを紹介できればと思います。
1つのアイディアから
昨年度の受賞作は、TALESで公開をしているので、いろいろな方に目にしていただいたかと思っています。
なので、今回は、受賞作『魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち(以下、まほまど)』を具体例に沿って記事を書いていきたいと思います。
受賞作の着想は、「魔法学校の気になる子」というものでした。
なんでそんなアイディア思いついたんだ? については、下記の振り返り記事に書いたので、ここでは説明しませんが、「魔法学校の気になる子」というひとつのアイディアから、物語は生まれました。
ボトムアップ的に拡げていく
よし! じゃあ、魔法学校ものだー!
大雑把なイメージからスタートです。
さて、魔法学校ものというとどんなイメージがあるでしょうか?
やっぱりハリー・ポッターだな……
このイメージはすごい強い。払拭できない。
むしろ、世間の一般的なイメージを広げたり足がかりにしたほうが、読み手の方は読みやすい異世界ファンタジーになるのでは……? と読者の立場を考えてみました。
じゃあ、異世界にするにはどんな感じがいいかな?
ホグワーツってどういう学校だっけ?
そう思って、ハリー・ポッターの映画のロケで使った場所を調べはじめたのがはじまりです。
オックスフォード大学、レイコック寺院、それからグロスター大聖堂……
こういうのを写真で見たり、Wikipediaで歴史を読んでいるうちに、魔法学校のイメージが膨らんできました。
ビジュアル的なイメージです。
けれど、私はイラストで勝負したり映画を作ったりするのではありません。小説での表現を考えなければいけません。
じゃあ、どうする?
今度は、グロスター大聖堂というものの建築について調べはじめました。
そうすると、ゴシック建築について書かれています!
ゴシック建築! 雰囲気とか全部いい! 使いたい!
でも、ゴシック建築は、ヨーロッパ文化の発想です。まんま使うと、ヨーロッパ。ヨーロッパは、異世界ではありません。
じゃあ、異世界らしく表現するためには、どうするのがよいでしょうか? どう説明すると、借り物じゃなくて、異世界らしさがある?
ということで、ゴシック建築がどう成り立っているのか、構造はどうなっているのか、柱や窓のデザインは? どういうものから由来する……?
調べに調べまくりました。数時間。数日。Oh.…
……とまあ、こんな感じで、異世界に取り入れられるものと取り入れられないものを、現実世界の知識や情報をベースに取捨選択していくというけっこう地道な下調べをします。
下調べは、やられている方も多いと思います。
え、地味……そんな面倒くさいことしたくない……。
でも、この下調べが大事! ちょー大事!
そして、すんごく楽しいので、楽しみながら、やるのがオススメです!
だいたい下調べをしているうちに、調べることが楽しくなって、自分は今何を目的に調べていたんだっけ? と我に返るまでがセットですが、こうして調べていくことで、物語が生え、異世界が生えてきます。
調べなかったら、「ゴシック建築っぽい校舎」で終わるところが、調べることによって、「煉瓦のしっけたにおい」のする校舎になり、教室の扉には、「方立と狭間飾りの窓がついている」という情報が付加されます。
これによって、その世界らしさ=世界観が生えてきます。

イメージを膨らませて言語化した結果が、下記の描写につながります。
古い煉瓦でできた学舎だった。廊下に子どもたちの高い声が木霊している。煉瓦のしっけたにおいがしたけれど、不思議に心地よく子どもたちの声を響かせているようだった。
シェイラの長靴の音と、学園長の革靴の音が、こつんこつんっと鳴り響く。
扉から覗ける各部屋には、方立と狭間飾りが放射線状にのびた丸い窓があって、子どもたちが楽しそうに授業を受けている姿が目に入った。
太字が調べた結果、取り入れた描写になります。なくてもいいけど、あることで、魔法学校の細部がわかります。
そもそも、から深ぼっていく
「魔法学校の気になる子」からはじまって、魔法学校のイメージができました! ホグワーツっぽい学校のイメージついたついた!
でも、なんでそもそも、この世界には「魔法学校」があるの?
この、なんでそもそも、というのが異世界作りには大事だと考えます。
なぜか。
異世界は、我々の当たり前ではないことが当たり前であるからです。
そもそもを疑ってみることで、自分が無意識に感じていることや考えていることを言語化し、今生活しているからこそ当たり前だと思っていることや、どんな世界にいようとも根源的に共通するであろう点が分離されていくのではないか、と。
そこにファンタジーの射し込む余地が生まれるのではないかと思います。
では、なぜ、そもそも魔法学校があるのか?
考えていきます。
魔法学校を卒業したら、魔術師や魔法使いとして立派に生活できる。魔術師や魔法使いが持てはやされるのは、日常生活に魔法が求められるから。
日常に魔法が求められるのは……
と、どんどん深ぼっていきます。どんどん。
そうすると、魔法学校というひとつの発想から、世界の輪郭ができあがっていきます。線が描かれていく。
日常に魔法が求められるのは、脅威となる蟲という存在があり、これらと戦える魔法使いを育成する機関が魔法学校。
そのなかで、魔法が使えない気になる子たちは、学校の先生たちにとって、脅威がいる世界で生き残っていけない子たちであり、学校教師としては将来心配になって気になる子どもたちである。(=最初のアイディアとリンク)
深ぼっていくことで、こういう世界の肉づけができるわけです。

このなぜ? を繰り返していくことは、下記の記事のなかでも紹介されているので、物語を作るのにぜひ。
テーマから足を生やしていく
魔法学校の気になる子のアイディアからはじまりましたが、このファンタジー小説のなかで描きたかった大枠のテーマは、リアルな教育課題でした。
「教室のなかで起こるすれちがいと、互いを知らずにわかり合えないこと」
これがどんな将来につながるのか、目にしてきた経験から、このテーマを書ききりたいという気持ちがありました。
テーマに沿った問題を、異世界に用意したい。
さて、どうするか。
読んでもらう人にリアルな課題として考えてもらい、「読んだら考えさせられた」「子どもの頃のことを思い出した」「クラスのなかにいた友だちを思い出した」と思ってもらいたい。
異世界だけど、学校描写には、現実を彷彿とさせるようなリアリティさを用意したい。
どうやったら、異世界を感じてもらいながら、現実を感じてもらえるか。
用語や日常生活を工夫しよう!
リアルな描写をしながら、使う言葉を工夫すれば異世界の魔法学校を感じてもらえるはず……!

さてさて、どうするか。
学校っぽいものと言えば、教室、机、椅子、黒板、チョーク、えっとそれから、休み時間、宿題、教科書にノート、夏休み、国語、算数とかの教科、学級とかクラスとか……避難訓練?
こういうものだろうか。
よし! じゃあ、異世界っぽく表現を換えてみましょう!
そのままでいいものもあれば、そのままにすると現実臭があるものもあるから……辞書を引いたり、類語辞典を調べたり、中国語を調べてみたり……
チョーク ▶ 白墨
休み時間 ▶ 昼餉ノ憩い
ノート ▶ 筆記本
夏休み ▶ 盛夏ノ休暇
国語、算数 ▶ 文学、算術、幾何
こんな感じで物語として書きたいテーマを軸に、世界観に足を生やすのもひとつの手段です。
こだわりから作り込んでいく
なんでもいいです。
書き手が、この作品でこだわりたいと思っていることから作り込んでいきましょう。
私の場合のこだわりは、これでした。
・カタカナ語を使わない
・身分制に爵位を用いない
・既存種族(エルフ、ドワーフ、等)を出さない
なんでそんなこだわりがあるんだ? と聞かれますと、それぞれにはきちんと理由があります。
カタカナ語を使わないのは、異世界に英語などが由来の言葉があるのは違和感だから。
身分制に爵位を用いないのは、その世界独自の階級制度があるはずだから。
既存種族を出さないのは、指輪物語などとは異なる異世界だから。
簡単に書くと、こんな感じです。
書き手によって、こういったこだわりは大なり小なりあるのではないでしょうか。
このこだわりから、異世界を作り上げていく。
ここでは「身分制に爵位を用いない」をあげてみましょう。
魔法学校の世界だったら、どんな身分制度があるか。
魔法が重要な要素となる世界。だったら、魔法の強さによって身分の高さが決まっていくはず。
一番強いのは王族。次を貴族とするとして、普通なら領地の大きさや影響力などで爵位が決まるけど……魔法の強い順で、序列があるというのはどうだろうか?
完全な序列制で、家名が序列そのものなら?
ということでナンバリング貴族制決定!(※作中での表現ではありません)
あとは平民。平民のなかでも、魔導具を扱う職人や商人は裕福なほうで、そうすると、魔法が使えない人たちは、仕事がなくて大変そうだ……。
魔法が使えなくてもできる仕事ってどういう仕事があるんだろう?
その人たちの生き方は?

こういう感じで身分制度と社会が拡がっていきました。
なんとなく、魔法学校のある社会が見えてきませんか?
世界観が拡がっていく感じです。
色彩表現で鮮やかにしていく
さて、世界観を構築するにあたって、どんな色がある世界なのか、というのも重要です。
読んでもらった時にどんなイメージを持ってもらいたいか、につながります。
まほまどの世界では、当初、七色がキーワードでした。
七色の魔法の街というのを描いて、感じてもらいたい。
七色の色彩豊かな街を描くためにはどうすればよいのか?
街の色だけじゃなくて、自然が色づいているのも表現していきたい。
そうすると、四季も大事になってくる。
四季の色彩が鮮やかな国ということは、気候が温暖な国になると思うけど、温暖な国の気候ってどんな気候の種類があるのか。
📖調べるタイム🖥️
ほうほう、西岸海洋性気候、大陸性気候、ふむふむ、植生はこんな感じで、生きものはこんな感じか……海がここにあると風の吹き方は……?
考えているうちに、地理的なものができあがってきます。試しに地図を描いてみて、この辺に山があったら、緑が付け足せるし、川があれば水色が足せる。
そうして、世界が拡張していきます。
地形を足して、地図のできあがりです!

色をイメージしたり、気候や風土を考えることで、国の形や地理なども具体的になっていきます。
気候や風土を考えておくと、世界のなかの生態に影響しますし、生態は、人間の暮らしにも影響を与えます。
食べものや着るもの、住居、つまり衣食住に通じるものが、色のイメージから生まれる。
世界観のために衣食住も考えなきゃ! と思うよりも、自分が描きたい色から考えると、とっても楽しく世界観を拡張できます。
ちなみに表紙で使っている画像は、「光と水と緑」という色イメージから入って、語中表現を制限したうえで生まれた異世界「精霊樹海」です。
ん? 調べるのが大変だって?
……大変です(ボソッ
でも、楽しいヨ!
もちろん、色から考えるのではなく、着ているものや食べるものからスタートでも大丈夫です!
自分が好きなイメージから、スライドさせるように楽しく考えていけると、世界観構成というのは楽しくできるのではないかな? と思います。
おわりに
実際の創作物を例にして、私なりの世界観の拡げ方や深ぼり方を言語化してみましたが、いかがだったでしょうか……?
世界観考えるの大変! と思うどなたかのお役に立ったら幸いです。
ちなみにひとつ、気をつけたいことが。
世界観を考えていくと、ある時から頭のなかが晴れ渡ったように、世界が拡がって見えて、いろんなものが関連し合って物語の世界が構築できる時があります。
そうなった時、思いついた設定を小説に全部書くのはやめましょう。
「〇〇とは……」とか自分が書きはじめたら要注意です(もちろん、全部が全部だめなわけではない)。
これは、私も通ってきましたが、いい設定を思いつくと披露したくなってしまうのです。
(安心してください。大丈夫です。みんな通る道です)
ですが、そうすると、だいたい読者は置いてきぼりになります。
楽しいのは書き手だけになります。
思いついた設定をどう出すのか、これはまた、世界観を考えるのとはべつの思考が必要です。需要があれば、また別記事で。
以上、ファンタジー世界観の拡げ方と深ぼり方の記事でした!
いいなと思ったら応援しよう!
いつも応援いただき、ありがとうございます。いただいたチップは、物語創作の参考資料となる書籍代に使わせていただきます。