商工会の経営指導員⑩ 商店街の決断と中止勧告【#創作大賞2025#お仕事小説部門】
悠斗は、すぐに商店街の人々を集め、状況を説明した。
「市役所から、許可の取り消しが出ました。」
「このままでは、桜川マルシェは開催できません。」
一瞬、静寂が訪れた。
しかし——
「……だから何だ?」
田中茂が、不敵に笑いながら言った。
「俺たちは、もうここまで来ちまったんだ。今さら後戻りなんてできねぇよ。」
松田和夫もうなずいた。
「その通りだ。ここで諦めたら、また“どうせ無理だ”って雰囲気に逆戻りする。」
「俺たちは、もう諦めるつもりはないんだよ。」
「おい、どうするんだ?」
商店街の人々が、一斉に悠斗を見つめた。
「お前が、決めろ。」
悠斗は、一度目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。
そして——
「……開催します。」
「たとえ許可がなくても、俺たちで桜川マルシェを成功させます!」
その言葉に、全員が歓声を上げた。
「おおおおお!!!」
「やるぞ!!」
「ここまできたら、もう止まらねぇ!!!」
商店街の団結は、ついに、最高潮に達した。
ついに迎えた桜川マルシェ当日。
商店街には、朝から人々が集まり始めていた。
地元の飲食店が出す屋台の前には長蛇の列。
八百屋の新鮮な野菜が飛ぶように売れていく。
松田屋のまんじゅうも、早くも完売しそうな勢いだった。
「すごい……!」
航太は、目を輝かせていた。
「お父さん、商店街が生き返ったみたいだよ!」
「……ああ、本当に。」
その時だった。
「おい! 大変だ!!」
一人の店主が走ってきた。
「市役所の職員が来てる!!イベントを中止しろって言ってる!!」
悠斗が振り返ると、そこには——
市役所の職員と、そして三浦誠司の姿があった。
「桜川マルシェは、ただちに中止しなさい」
市役所の職員が、冷静ながらも毅然とした口調で告げた。
その横で、三浦が腕を組んだまま、静かに悠斗を見つめていた。
「お前たちの努力は認める。だが、これはもう“ルール”の問題だ」
「正式な許可が下りていない中での催事は、厳密には市の条例違反にあたる」
その言葉に、商店街の空気が一瞬で張り詰めた。
「このまま強行すれば、住民から通報があった場合、管轄の生活安全課が動く可能性もある」
三浦は、まるで判決を言い渡すかのように、静かに言葉を継いだ。
「そうなれば、イベントどころじゃなくなる。下手をすれば、商店街全体に行政指導が入るぞ」
「行政指導……?」
「そんな、大ごとになるのか……?」
「うちは許可があるもんだと思ってたんだが……」
商店街の人々がざわつき始めた。
さっきまでの前向きな空気が、徐々に冷えていくのがわかる。
「やっぱり……中止した方がいいんじゃ……」
「市に逆らって、あとからペナルティが来たら……」
一気に不安が広がり、誰もが言葉をのみ込む中で——
「……ここまで来たのに……!」
悠斗は、唇を噛み、歯を食いしばった。
その時だった。
「ふざけんな!!」
商店街の中心で、怒鳴り声が響いた。
「ここで中止するくらいなら、最初からやってねぇよ!!」
叫んだのは、八百屋の田中だった。
その顔には怒りと覚悟が滲んでいた。
「俺たちはな……」
田中は、三浦に向かってまっすぐに言い放った。
「ずっと、ずっと諦めてきたんだよ!!もうダメだ、どうせ無理だって、何もせずに店を開けて、ただ客が減るのを見てた!!」
「でもな……森田が俺たちを動かしたんだ!!」
「何年ぶりだと思う? こんなに商店街が賑わってるのは!!」
「ここで中止したら、もう二度と立ち直れねぇ!!!」
田中の言葉に、商店街の人々が次々と声を上げた。
「そうだ!!何が“ルール”だ!! 俺たちが生き残るためにやってんだ!!」
「この祭りは、俺たちの誇りなんだよ!!」
怒号が飛び交う中、悠斗は息をのんだ。
「商店街の人たちは……本気だ。」
三浦は、揺れ動く商店街の人々を見つめていた。
「……まったく、感情だけで突っ走りやがって」
そう呟いた声には、呆れと皮肉、そしてわずかな悔しさが混じっていた。
その横顔には、止めきれなかった何かへの複雑な思いが滲んでいた。
そして、再び悠斗を睨みつける。
「森田。お前は、責任を取れるのか?このまま続けたら、本当に問題が起こるかもしれない。」
悠斗は、三浦の目をまっすぐに見返した。
「……責任なら、俺が取ります。俺たちは、もう後戻りできないんです。」
その言葉を聞いた三浦は、しばらく沈黙した。
やがて、ため息をつくと——
「……チッ。」
舌打ちをして、腕を組み直した。
「……好きにしろ。」
そう言って、三浦は背を向けた。
悠斗は、驚いたように三浦の背中を見つめた。
「三浦さん……?」
「……お前らのやり方が間違ってるとは、言い切れねぇからな。」
「だが、もし何かあったら、お前が全部責任取れよ。」
悠斗は、その言葉に強く頷いた。
「はい。」
